65 In Vitro Veritas
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ニック、お前が危ない……気がするんだ。
[そんなに優しい彼を、知っているから。]
[倉庫を出るとき、気が付かなかった。
ニックがヨルの瞳を大事に持っていることを。
気が付けば、それも、なんとか置いておくように説得したのに。]
[掃除をするって、
掃除をされる?
掃除って?
掃除は、綺麗にすること?
綺麗にすることって、
いったい……。]
[心の中に、何か悲しい気持ちが積み重なっていく。
ニックとは、違う、きっとさみしさの……。
ニックがみんなを愛してくれる優しい人物とすれば、
コーダは、それとは違う、利己的な人間だ。
そう、最後に深く、たぶん「愛して」しまった27番を、
今、思い出してしまって、
その部分だけが狂ってきている。]
[赤毛に寄っていく、自分、のように思えた。
それは、たぶん、自分
だ。
それならば、その人は、その人ではなくて、
その人は、自分……のオリジナル、なの だ。]
――……
[でも、そう、思っているのに、
まだ、諦めきれない、想い。]
[ふと、芽生えたそれは、
一つの指針を…………。
そう、それは、ニックと同じような想い。
あの映像のように、ニックや赤毛や壊される。
そう、殺されるなんて…。]
守るよ……。
[小さく、呟いた言葉は、赤毛には聞こえなかっただろうけど]
[いわゆる、レンラクがとれない、
そして、鉄壁は壊せない。
だけど、人は、
簡単に壊せる。]
コーダ。
僕は、皆を守るよ。
僕らは、クローンじゃない。
僕らは、僕らだ。
だから、壊されたりなんか、しない。
壊そうとするなら……こっちが先に、壊してやるんだ。
[囁かれる声はしかし凛として、決意の強さを示していた]
― 回想 ―
[その遺体の検死がはじまるとき、
リーネの声が届いたような気がした。
そして、ヨルの目の在処、
ニックを見やっただろう。]
[そして、ニックが密に囁いてくる言葉に、瞬いた。]
ニック……
[笑顔がよく似合うと思っていたその顔を見返しただろう。]
お前は、強い……。
[クローンではないと、そういえる、そして、生きるためのみんなが生きるための方法を提示する彼が眩しかった。]
[これはいつの言葉だったか]
ねえ。
コーダは……誰かを、守る?
《その為に、誰かを、壊す?》
守るよ。
今一番、壊されそうなやつを。
あいつの目を……。
[赤毛の目のこと、思い出す。]
いまはな。
[それはまだ、牧野の話を聞く前の話]
[自分は、大きいヨルを壊した。
そしてヨルを取り戻した。
他の皆も、等しく大事で。
だから守る為に。
壊される前に。
壊すことは、厭わない]
[ただ、あの時壊すのに使った刃物は。
コーダが、どこかに仕舞ったから。
今度は、コーダがあれを使いたいのだろうかと。
そんなことを、考えて]
[この先、クローンと呼ばれる自分たちの中で、
一番最初に、あの映像のようになる者。
やっぱりそれは赤毛だろうと思う。
そして、移植できる人物もここにはいるらしい。
しかもそういう場所、であるらしい、ここは。]
赤毛のこと、守らなくちゃ…。
[赤毛は大きい、だから、オリジナルのその人も近寄ってはいないけれど、大きいのだろう。
その人を壊すためにはどうすればいいだろう。
ああ…。
そういえば、聴いたことがある。
クローンの中にもイタンシャがいたと。
自分の身体を壊すペナルティ、犯すものがいたと。
首にひもをつけて、ぶらさがったらしい。
そしたら、動かなくなって…
そんな年長者の話。]
― 一人になったとき ―
[映像を思い出す。
そして、ニックの言葉も思い出す。
そう、壊す前に、壊す、そんな気持ちがないといけない。
オリジナルは、きっと、
それでも、何かあれば、クローンが死ぬのはしょうがない、と思うような気もするから。]
[なんてきれいなんだろうか。]
[ああ、なぜ]
[自分は、彼じゃないのか。そんな、そんなことを]
[思ったことがある。
それは、圧倒的な、差。
ニックはああいってくれたけど、
自分は、この音は壊せない、と思った。
壊したい。とても壊したい。
なぜ、自分はセシルではないのか、
そう、
壊せない。
それは、セシルのほうが優れているから。]
[自分は、もし、その音が失われるのであれば、
壊されてもいい存在なのかもしれない。
それは、本当に、
悲しすぎる劣等感。]
[それは、歪んでいく。]
[そう、こんな目に合うのは、
こんなオリジナルに激しい劣等感を持つクローンは自分だけで十分だ。]
[そう、規則正しい生活。
何も知らずに仕事をして、
そして、話して、食べて、眠って…。]
(ニック
自分も彼らを壊すよ
そう、オリジナルを知ることは、
クローンには絶望だ。)
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