276 ─五月、薔薇の木の下で。
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[ こんな風になっても
嬉しいだなんて思えるのは
可笑しいのかもしれない。 ]
ばかだなぁ、いっちゃん。
[ 滲んだ、小さな声が()
たぶん、俺が見てきた彼の本心。
嘘を吐く時ほど、人はよく喋る。
言の葉で覆い隠してしまおうとする。
そう思いたい、だけなのかもしれないけれど。
離れる間際。
落とされる別れの言葉()。
振り向きもしない背に投げかけるのは
この世界には響かない、声で。 ]**
[ ──── 誰か、の 血か]
[ ──── 誰か、の 涙か、]
[ ──── 誰か、の "あい" かも しれないけれど、]
よう。
[ 薔薇は話しかける。
狂い咲いた赤い薔薇の、天鵞絨の海の――赤い湖の――中
平気で佇めるまでになってしまったらしい男へ。 ]
神から賜ったものは、使う気になれそう?
[ 誰かを連れているならきっと、そういうことなのだろうか。
無粋にも、自分が吸った肌を見やり、息を吐く。 ]
[ この空間でもその恩恵は、俺にはない。
奪いたいほどの衝動があっても、俺は奪えない。
血も、涙も、あいも、―――隣も。
薔薇は根を張り、檻の中。
咲いて香って、枯れて、散る。
自由さえ手にいれる事が出来ない、この指先。 ]*
─── 神から?
[ 声為らざる声には、 振り向きもせず、
目線を合わせることさえ無い。
…平気で佇んでいるか、は 少々わからない。
そもそも"平気"とは何か と言う状態だ。
いつだってこの男には背中ばかりを見せてきた。
( 其処は似ていないな、 "もうひとり"。 )
自然と反芻した言葉は不遜な疑問系。]
神にはとうに裏切られている。
──── 信じた記憶なんて殆ど無い。
祈った記憶、 も
それならずっと 薔薇からの、
……お前からの賜り物だと、
そういわれる方が使う気になる。
[ 薔薇の 真紅の囁きに、
微かな笑いが混ざる。
喉をならすような、 ……螺の弛んだ其れだ。 ]
[突き放そうとしている癖に
抱き寄せられて、嬉しくて。
本当にどうにかしているんだ。
そうされたいとずっと思っていた日々が
脳裏にどこまでも美しく蘇る。]
[涙(あめ)も雨(なみだ)も降らない乾いた日。
日の光は煩わしい程、それも輝く思い出の一つ
あの時彼はどんな言葉をくれたっけ。
思い出すのが今は苦しくて、止めた。
甘やかしい心地と、手すら伸ばせない苦しみ。
矛盾する感情の名前をとっくに知っていた
臆病者は声にすらせず、心の内に留まったのは。
やっぱり自分勝手で、願いきれなかった想い。
────好きだって、言ってくれたらなぁ。
自分で言わなければ、返るわけがない。
それなのに。]
………… ああ、
[君もそう思ったのかな。
俺は嘘をつくのも上手くなかったみたい。
────本当にばかだなぁ。]
[俺は彼に暴かれたかったのだろうか?
分からない。触れてはならないと思っていたから。
ただ、誰に、というものが無くても
暴かれることを望んでいたのは事実。
そして、同じことを、
二人ともそれが出来なかったのは
手を伸ばし合えなかったということなのだろうか。
きっと気持ちの問題じゃなくて、
どちらも何かに囚われていた。]*
── 独白 ──
嬉しかったけど、
[同じくらいに辛かったけど、と
いつか願いきれなかった想いを浮かばせる。
残酷に叶えられてしまった、それを。]
最後くらい、イアンって呼んでくれても。
[いいじゃないか、と。細やかな恨み言。
それは正常の声、決して対象には届かない響きで
落ち着いた後、ひとりきりで口にした。]
[先輩、会長、いっちゃん。
みんなみんなそうだ、ああ。
“あい”も“こい”も手に入らないと分かっていても、やはり
可愛い女の子でもない寂しがりなんて
────気持ち悪いだけかもね。]*
そうね、カミサマなんていないからね。
悪魔はいるのにおかしなこったよ。
いや、悪魔もそのうち消えてなくなるかな。
[ カミサマがいるんだとしたら。
茨に締め付けられたこの空間を見て嘲笑ってるんだろう。
そういう性格の悪いやつだと、思ってる。
目も合わされず返る声。
届きもしない独り言。
この声は、俺の声は、
どこにいても届く、呪いのような声。 ]
[ 水があれば。 精があれば。
生きることは出来るかもしれないけれど。
一度吸い上げた肌に、まだ淡く残るだろう花弁を。
触れた耳許を。
見つめて。
それでも自分から触れにいかないのは
花が枯れる決意をしたから、なのかもしれない。 ]
──── 一応、 言っておくが、
色々、聞こえてしまっているんだからな。
[ ぽつん、 と 声が降る。
全く、人選ミスだ。 ひとの心の機微なんて、
パンにしか繊細で無い、己に分かろう筈もない。
……でもそう、残念ながら、
一部始終を聞かずとも、
"もうひとり"と"もうひとりだったもの"の間、
薔薇と、"もうひとり"の間の"別れ"
それらを"知る"のは、 只この青年のみで、]
まあ、 ―――― 信じちゃいないが、
何時か、 幼い俺を抱いていた彼の司祭も、
確かに俺を"あい"していたんだろう。
…司祭が体言すべきは"エロス"でなく
"アガペー"であるべきだが。
[ きっとこれだって、"もうひとり"に聞こえてしまう。
呪いの言葉に罪の懺悔を……随分と開き直って乗せて、
"穢い"と言えばこの男も、 神の定義で言えば十分に、
遠い昔に当てはまってしまっている。
薔薇に染まり行く茶は射抜く。 薔薇の真意を計り行き、]
――― "お前が選んだ"んだろう、 俺を。
勝手に選んで、勝手に授けたくせに、
勝手に枯れるな、 阿呆。そのくらいの責任はとれよ。
[ 首もとに花弁を残したからには、 …なんて
めんどうくさいおんなのように、]
"一度振られたぐらいで"
……お前が自分の存在を否定するなら、
また―――― 何を信じていいんだか、わからなくなる
[ ……はじめて、"彼"の欲がわかった。
この"薔薇"の顎を引っ掴み、
"此方を向け"と無理矢理に視線を合わせ、
薄い唇を食めてしまえば、 ……
――― もうひとりに"見えている"場では
随分と薄暗く、 おもたい欲望だ。
嗚呼、でもこれは"あい"じゃあない。
明らかな"害意"が、其処には 有る。]
[口を挟んだのはその一言だけ。
どう取られても、受け取られなくてもいい。
でも、これも中庭で見つけた時と同じ
彼のことを想って行ったこと。
先に何があるのか、そこにいない俺が何かを変えることはない。]
[重なる過去を持ってして、違う人間。
害意なんてものは、一度として彼に抱いたことがない。
それでも、これもまた。
彼に与えられるべきものじゃない
“あい”に育ちきれないまま抱えてきた、未熟者の“こい”]**
[ ─────── 背筋を這い上がる、甘い、甘い 快楽と、]
[ 奪われ行く 精を どこかとおくに感じながら、 ]
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[ どうして>>119。どうしてだろう。 重ねた唇から伝わる人の温度>>121 開けた視界に、目を瞑って耐える姿が映る。
「違う」という否定が聞きたかった。 「お前じゃない」という拒絶が聞きたかった。
なのに、明確な答えは聞けないまま>>119身体を離す。 ソファの上に散る長い髪から薔薇の香りがして、自分の汚さが際立つようだった。] ………、こんな事される筋合いは無いだろう。 誹りでもしたらいい。殴る資格が君には、
(196) 2018/05/22(Tue) 15時半頃
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[ 廊下から聞こえた足音>>85。 扉の隙間、見覚えのある銀髪が流れるのを見た。]
(197) 2018/05/22(Tue) 15時半頃
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[ 瞠目して、全部の音が聞こえなくなった。 顔を掴んでいた力が緩む。 肌には痛ましい跡が残される。
どうして逃げた。 容赦無く奪えばいいのに。 その"欲しい"という願望は、 自分が望んでも手に入らなかったものの筈だ。 何よりも綺麗で、純粋で、 自分なんかが触れた所で穢れる事のない──]
(198) 2018/05/22(Tue) 15時半頃
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[ 相手が何を言っても、談話室の扉へと爪先は向く。 説明出来ない苛立ちをぶつける物は、此処には無い。 呆然とソファから動かないだろう相手>>174に、最後に叩き付ける声音は何かを抑えるように聞こえるだろう。]
………君は、やっぱり綺麗だよ。マーク。
[ こんな意味の無い行為に茫然とするマークは、 やはりとても綺麗で、どう足掻いても加害者は自分なのに。 それなのに傷付いた顔をしている自分が許せなかった。]
(199) 2018/05/22(Tue) 15時半頃
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[ 談話室から去った後、フェルゼの跡を辿るように歩を進める。
片耳塞いでギリ、と奥歯を噛んだ。]
違う……、違う、違う。
[ 焦がれてきたものが、こんな歪んだものでいていい筈がない。]**
(200) 2018/05/22(Tue) 15時半頃
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