82 謝肉祭の聖なる贄
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[自制の箍が外れ、血に狂乱する銀灰は淫らに咲くが、それを味わった輩は少ない。
その相手が人ならぬ同胞であろうと何であろうと、引き裂き喰らうからだ。
そうでなく――常態の銀灰を口説き落とし、尚且つ血の滾りを抑えた交わりを持てた輩は……果たして存在するのかどうか。]
[銀灰の同胞は美しいが高嶺の花。
流石に死なぬまでも、手を出した代償の高価さは身をもって知っている。
あの時は傷が癒えるまでどのくらい掛かったのだったか…]
え、あ、
……まぁ、そういうことー。
だからー、僕は、……あーいうのはもう、懲り懲り。
[いろを微かに取り戻していた灰白の主に向ける声は
それはそれは弱々しい声、で]
あー……うー………うるるるるるるぅ……
[自分で口にした独り言が切欠で、ひとりで唸っていた。
こんな無様な声、背後に在る贄ごときには聞かせられるものではない。]
[何時かのあの年、食前酒ごときで酔って騒いで
様々に度を越したちょっかいを出した白金に齎された
銀灰からの仕打ちが。
――もし、艶伴うものであったのならば。
そのことは、思い出したくない思い出として、
確かに白金の中に残っている筈だ。
五年前から今まで、若い白金が宴に姿見せてこなかったのは
身体に直に受けていた痛手で、出るに出られなかったという故も、どうもあるようだった。]
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[言葉なく 動きで命ずる大神に 赤銅色の 肌が寄り添う 近ければ 逸る心音 聞こえるか 顔には出さぬ緊張は 心臓までは嘯けず 吐息が肌を 滑る温度 微かに鼻にかかる声を漏らす]
不思議な 香です 甘い けれど
[返答を 求るでもない声零し 甘さに隠れる 血の香追う そと控えめに伸びる指先 叶うなら 流れる銀の髪に触れ けれど艶めく 温度を受けて 褐色の指は 引いていく]
薬草から煮出した色の―― 神に捧げる贄の、まじないだ そうです 俺の、先祖は ここではなく 別の所から流れてきたと そ の場所から受け継いだ と聞きました
[筆で受けた感触より 温度と強さを併せ持つ 大神の舌の滑りに 息震う]
(142) 2012/03/15(Thu) 23時頃
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フランシスカは、文様は無味無臭のまま 舐められるごとに薄くなるか
2012/03/15(Thu) 23時頃
[5年前の騒動の折、堪忍袋の緒が切れて激怒した銀灰は、体躯に劣る白金をこっぴどくどやしつけたが。
その仕打ちというのが、首を押さえつけた上で背後から圧し掛かるという大神の基準からしても屈辱的なものだった。
その上で更に、
「何なら主を犯し喰ろうてやろうか。
ヒトにはあらぬ故、そう簡単に死にはすまい」
と、どすの利いた低音にたっぷりの毒と艶を交えて白金のへたりと伏せた耳に吹き込んだのだったが――]
フッ…フフフフフ。
茶のも、銀灰のも、贄から懐かれているな。
[同胞にのみ聞こえるように、小さく囁く。
その声が帯びるのは、嘲笑か、羨望か、それとも懐古の情か]
まぁ、な。
[こうして気安く見せて懐へ招くは、己のよく使う手か。]
割りと俺は雑食でね。どっちかってぇと食えりゃいいってところもある。
あの森のブローリンなんかはかなりのグルメだったがなぁ。
懐く…?
[同胞の声に、ふ、と嗤いを返す。]
懐いた程度では到底。
[足りぬ、と言いたいのだろう。
昔から贄には、その肉だけでなく、最も苛烈なものを要求してきた。]
[――魂を捧げるほどの希求を。
逆にそれが充たされなければ「何でも良かった」。]
肉であれば。
さしたるものは求めぬ。
食いでがありさえすれば。
[まぐわいに充分であれば。]
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[軟い舌が這う そのたびに ざらと肌に刺激が生まれる 一際大きく 息を吸い 震う吐息の零れぬ様]
―― ン 贄の血肉の後に舐めるには…… 口直し とも言い難いもので申し訳ありませんが
[微か零れた あまやかな 吐息そのもの誤魔化すよう ひくい声音で 言葉を返す けれど戯れ 小さな突起を食まれては 胴に緊張走るよう 肩に力の入りいく]
(157) 2012/03/15(Thu) 23時半頃
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[その時、あまりにもひどい取り押さえられ方をした若造は、
じたばたと暴れることもできずに、惨めさに居た堪れなくなりながら
きゃんきゃんと啼いていたものだった。]
……あー、やだやだ。
今思い出すことじゃない。
[ただでさえ格も低く器も小さい大神に、抗う術は無く。
死にも出来ず、一方的になぶられ喰らわれ続ける痛みを得るばかり。
あの時の銀灰の声色の、そのいろやまるで、
己が持つ毒たる病よりもさらに濃い、甘く鋭い毒]
[―――…おかげですっかり、あの花のようなかおりは
小さな白金にとってはつらいものとなってしまっていたのだった。
刻みつけられた屈辱と恐れは、今でも、こうして
銀灰に対する無言の形をとって、此処に在る。]
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[視界に入るは銀灰の 流れる髪の艶やかさ 女の贄の声聞こえ 銀灰にそと触れてみた ひそやかながらの動きなら 体の陰に隠れるか
贄が大神 主とすとは なんのこと それに思考を走らせるには 燻り始めた熱の存在は大きく 熱と呼応するように 牙の刺さった舌の疼く]
(158) 2012/03/16(Fri) 00時頃
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フフフフフ。
私は、人間を手懐ける気も、必要以上のものを要求する気も、起きぬからな。
だが、同胞のそのような姿を見るのは中々に愉しいものだ。
[茶と銀灰の同胞の反応に、実に愉快そうに笑いを零す。
遥か遠い昔。現在の縄張りへとやってくるより以前。
対である「風伯」を永久に喪う羽目になったのは人間が原因だったから。
「己」を維持する為に、こうして村へ足を運んでいても。人間への憎悪と蔑みの情が消える事はなく。
それが故に、贄を弄り辱める事はあっても。感情まで要求する事はしない]
(……そういえば、ぎんいろさま、今年、居ない)
[ブローリンの名に、ふと、四年に一度来る神を思い出し。
件の大神とすれ違う形でやってきた白金は、特に返事を求めるでもなく、呟いていた。]
ああ、ところで茶の。
そろそろ立っているのも飽きたのだが、その膝なり腹なりを借りても良いか?
[寝そべっている同胞と、贄と戯れている他の2人の同胞の様子をちらりと見て。
地に落ちれば汚れ泥水となる雨を司るが故に、地や木などに腰を下ろす事を嫌う性質の大神は、比較的暇そうにしているという理由でそう尋ねた]
無論、そこの贄や他の者と戯れるつもりであれば、無理にとは言わんが。
あれは、用事とやらで先に帰った。
[聞くともなく、白金の呟きが耳に入って反射的に応えていた。
死んでも口にせぬが、冷たくあしらっても懲りず構う、ぎんいろの輩には密かに好意を持っていた。
あれには、話しておきたい――相談したいこともあったのだが、と。
そんな思いが、ついうっかり白金への返事となった。]
おう、構わぬよ。
…戯れるのは、好きだ。
[単なるじゃれあいで終わらぬものも含めて。
常のごとく気安い態度で年かさの同胞を招いた。]
ふふっ。
――…あんな目をした元気ないいコの肝が、一番いい。
[この“いろ”が無くてはならない、という訳ではないものの。
贄にはそんな――「蹴落とす」ような激しい心を欲しがる節のある大神。
故に相手が此方を好いているか否かはあまり考えておらず。
そんな大神はどうも、贄から懐かれることは
これまで、あまり無かったのかもしれない。
アクアマリンの瞳を捉えながら、白金は微かに零して――]
…………………
…………… そ う です か 。
[まさか返ってくるとは思っていなかった返事。
しかもそれはよりにもよって、あの かおりの主。
相当の間をおいて、ようやく途切れ途切れに声を出せた白金には、
銀灰の言葉の裏にある思いは、覚れていなかった。]
では、遠慮なく。
[同胞の了承を得て、その腿辺りに腰を下ろす。
それ以上の戯れも、同胞とならば好むものなので、何らかのちょっかいを出そうとするだろうか]
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[痛みと共に 生まれる感覚 それは決して 高みに行ける ものではなく 刺激逃がせるほど平坦な 心でいられる 穏やかさでない もどかしげに眉を寄せ 呼気に熱を逃がすのみ
解放は早く 舌の温度離れた後は 空気が肌を嬲る 薄氷の 瞳合わせる 焦げ色は じりと燻る熱もて細める]
喰われるために生きるのならば 喰われたいと願わずして 何を思えばよいのでしょう
どなたにか と そのような過ぎた願いを持てるのならば ―― 強いお方がいいのです 長く生の続くような 強いお方が良いのです
(167) 2012/03/16(Fri) 00時半頃
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……喰われたいと願うと同時に 喰いたいと思うのは―― [ひそやかに ひそやかに 吐息に紛れ消える小ささ 祭りの最中に 告げるには いくらか不穏の付きまとう] ――果たしきれぬ願いの、可能性の欠片に縋るのは あさましいと 知っております
[そと伸びる指先で 指通りの良い銀を梳く 舌の傷跡 滲む赤 痺れる疼きは呼気にも滲む]
――…… ああ、生きたまま喰らって 欲しいのです 思いの強くなった その最中に 喰らってほしいのです 過ぎた願いをもつ贄の 強欲さにお怒りにならないでください
[睦言の甘さのように 熱を込めて告げる言葉 曖昧な 遠まわしの 言葉が切れると同時 指先は銀から離れる]
(168) 2012/03/16(Fri) 00時半頃
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