231 獣ノ國 - under the ground -
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[ 梟と鸚哥がそらを飛ぶ。 星の欠片の流れるそらで。
その場にいれば、僕は首を擡げて彼らを見つめるのだろう。
きらきら照らす、ひかりの舞台で、 彼らが踊るさまを見届けるのだろう。
手元に揺蕩う水中では、 鮫が呼ばれて来るのだろうか?
水に堕ちた月に肌を重ねて、深海のくろに夜空のくろが混ざり合うことも、あるのだろうか。
僕は陸続きの岩場で、 空を眺めて、そのまま夜が明けるまで。―――]
―――――。
[ はた、と僕は目を瞬かせた。 いま僕は何を考えていたのだろう?
こてりと首を傾げると、やはり口元の機械がかちりと鳴った。
ぼうやりとした思考の奥。 隙間を通り抜けて届いた声は、―――「獣人」の脱走計画さえ、覗けるかもしれないもの。 ]
………。
[ 締め付けられる胸は、なんだろう? 僕はぎゅうと胸元に手を当てたまま、 引き続き耳を欹てた。 ]**
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[足を止めた理由は、彼自身わからなかった。 ただぼんやりと、薄暗い部屋の中浮く己の手足を見つめ 後ろで泣く獣人の息遣いを聞いている。]
そう……
[投げかけられた否定の言葉を小さな相槌で受け流す。 それ以上に、己の汚い面を露呈するのは憚られた。 すり、と衣擦れの音がする。 やがては背中に触れるものがある。 影を負った背はひくりと身じろぐものの、拒む事はなく ぬばたまの黒髪は未練のように指に絡まる。]
( ……おかしな仔だ )
[離れたかと思えば、 飼い主の顔を覗きこみにおいを嗅ぐ 子犬のような仕草をする奴だと思った。]
(192) 2015/07/11(Sat) 20時半頃
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[何が卑怯なのだと問えば、 また言葉>>178は繰り返される。 さりながら二度目の「兄さん」は少し違った響きで
彼は、振り向けないながらも僅かに、 首をベッドの方へ向ける。
――おいで、と呼び ――ごめんね、と謝る声が聞こえた。
あの鸚哥に謝っているのか。
己も相手も 自分の思いを押し付けて 真っ直ぐにそのままに 相手を見られていないならば ]
( ――……同じじゃないか )
[そう思う。 十は下の相手と同じというのも、 些か大人気ないと彼自身思うが。]
(193) 2015/07/11(Sat) 20時半頃
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[とん、と背中に何かが押し当てられる。>>179 衣服を通して、先程よりは控えめな熱が、 体温の低い体に滲む。
微かに心拍の音を聴いた。]
……なるほど。
[ここに「連れてきて」。 「探す」とはいわないから、立ち止まったままだから。 己は卑怯だと。――そういうことか。]
それはほんの少しだけ「卑怯」だね。
[私の卑劣ぶりと比べたなら、 きっと私の方が勝つだろうけどさ。
茶化すようにそう云って、笑ったところ、 とん、と鸚哥が腕に乗ってきたから、 その頭をもう片方の指先でとんとんと撫でた。]
(194) 2015/07/11(Sat) 20時半頃
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[先ほどからこの鸚哥は、ヒトよりよほど 誰かの心情を読み取るのが上手いと見える。 外に「行きたい」が「行きたくない」――。>>180]
はっはっは。 ……晴れずとも、いつかは切れる日がくるだろうさ。 いやあ、十年ばかり引きずってきたものだから、 わからないが……ね。
[滲む熱に息を吐く。額を預けられたままだったならば、 離れるように、よっとベッドの脇から背を起した。
腕に留まった鸚哥をフィリップのもとに返しながら、 数瞬、瑠璃色の瞳を見下ろす。
――湖の、もしくは、海の深淵に似たそれを見て 先ほどの意趣返しと、こつんと白い額に額を寄せた。 それは子の熱を測る大人のように。]
(195) 2015/07/11(Sat) 20時半頃
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[そうして、瞼を下ろせば 見えるのは、 ]
( ――……荒津の海潮干潮満ち時はあれど…… ) [内心で呪文めいた言葉を吐いて、 それから、何も言わずに額を離した。
ここに居ない誰かを想い哀しむ「孤悲(こい)」の道を、 いつか外れられたならば―――― 。
彼はゆるりと立ち上がる。]
「また」具合が悪くなったら言いなさい。
[そう云って 黒髪揺らし、 白に塗り潰された部屋を後にしようとする。*]
(196) 2015/07/11(Sat) 20時半頃
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落胤 明之進は、メモを貼った。
2015/07/11(Sat) 20時半頃
[ジリヤへと投げかけられた質問に、小さく息を飲んだ。
抗い続けるジリヤですら、ここから出られるとは思っていないというのに、その質問は、まるで]
誰かと一緒なら、出ていけると、思っているの。
[私のその呟きは、質問だったのか、それともただの独り言だったのか。
私自身にも、その境界は酷く曖昧で、だから返事が来ることは、期待していない。
声の主に、漏らした寝言を聞かれてしまっていることも、知らない]
["猫"である私にも、当然獣たちの言葉は届いていた。
けれど、人間への感情も、外への思いも、何もかもの価値観が、私とは異なっている者たちに。
それらの事で、何を言う事があろうか]
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[額に額を寄せて、伝わる温度に何の意味があるのか 彼は知らない。
ひたり、と合った視線に、彼は唇を閉ざしたまま。 ついと目線をそらそうとすれば ふと投げかけられた言葉に ざあ、と宵の海は音も無くざわめいた。
フィリップに対し 一度も”兄はどこにいる”と聞かなかった事。 ”どうして君達は別れてしまったのか”と聞かなかった事。 ――それらの意味は、]
……いいや、卑怯だよ。
[彼はそう云って、ゆるりと首を振った。 フィリップは――この繊細な心の獣人は、 とても優しいと思った。]
(231) 2015/07/12(Sun) 00時頃
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[どうして「また」と言ったのか、 その深い理由もわからぬまま 彼は、こくこくと頷くフィリップに柔らかく微笑む。
それから着物の裾を翻して、 白い無機質な部屋を歩き去る。
『マタネ!』と叫ぶ鳥の声に、上をみあげて「ああ」と答えた。 ふわり落ちてきた赤い羽根を掌で受け止めて、
がちゃん、ぱたり。 ――フィリップの部屋の前で、 白い掌に落ちたそれを、一度、
柔く握った。]
……卑怯なのさ。
[もう一度、呟いて 彼は白い施設内を、歩きだした。*]
(233) 2015/07/12(Sun) 00時頃
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落胤 明之進は、メモを貼った。
2015/07/12(Sun) 00時頃
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[『衣がなくては天に帰れません』 『どうかお返しください』
そう嘆願する天女を宥め賺し、騙して、 地上に留め 夫婦となりし男を題材に 話を書いたことがある。
天女に置いていかれる者の気持ちは、 とてもよくわかる気がしたからだろうか、 いつもよりは早く筆が進み、 出来も悪くなかったように思う。]
『この羽衣がお前に天を思い出させるならば 迦具夜が着た天の羽衣のように おれと通わせた情まで喪わせるならば――』
(241) 2015/07/12(Sun) 01時頃
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[男の妄執は狂気の沙汰にまで至る。 けれども結局、衣を見つけ、 天に還る彼女を留めることはできない。
彼女が行ってしまった後は、 空しき朝が地上を照らし出す。 男は取り残されるばかりだ。]
[握り締めた掌を開く。 赤い羽根がそこにはある。 鳥の獣人はこの施設内に何人いただろうか。
( ……願わくば…… )
彼らが逃げ出せればいいのに、と、 ――彼は只、静かに思う だけ。*]
(242) 2015/07/12(Sun) 01時頃
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― 第二図書室 ―
[廊下を抜け、においのしない花々を視界に収め 庭園を抜けてその部屋へ。 彼は、扉を開けたとたんに、ぱちりと瞬きをして それからそこで眠る人の姿に 少し肩の力を抜いた。>>220]
ノア君。 ……こんな所で寝ては、風邪を引くよ。
[第一、鼻がつまったりしないのだろうか。 呼吸器が丈夫なのだろうか。 薄く埃の積もった本の数々を見渡せば、 禁止されているはずの本もそこにはある。
彼はそれらを「見ないふり」をして、 一旦は踵を返すと、 施設の備品入れからタオルケットをとってきて そっとその男の体にかけておいた。]
(244) 2015/07/12(Sun) 01時頃
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[ノアが起きるころには、ずり落ちて 見えないところにいっているかもしれないが、 ……まあ、ないよりはマシだろう。
きっと疲れているのだな、と同僚を思ってから、 ふと部屋の中の地図に視線を転じた。 施設内の地図。
……一瞬、隠してしまおうかとも思ったが ふるり、首を振って、その妄執を取り払うと 一冊の本に手を伸ばし、抜き取り、 そのまま図書室の外へと静かに出て行った。*]
(245) 2015/07/12(Sun) 01時頃
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――→第一棟 第一図書室 ―
[もう陽は落ちた頃だろうか。 時間がわからないこの地下では いつ夜がくるかもまた、わからないのだけれど。
彼はそのまま管理室に戻る気にもなれず その手前、暖炉がある図書室で足を止める。 見回りはした……といえるのかどうか。
椅子をけだるげにひくと、 静かに腰掛け、手にした本を開いて、 ――そうして、しばらく活字の海に溺れる。]
(250) 2015/07/12(Sun) 01時半頃
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[内容自体にあまり興味を惹かれないのは、 彼自身が元々「外」の人間だからだろうか。 そんな事を、その本を読みながら思い、
何の異変もなければ、 暫くした後、暖炉を潜り梯子を昇って、 管理人の部屋に向かおうとしただろう。]
(252) 2015/07/12(Sun) 01時半頃
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