162 絶望と後悔と懺悔と
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そうね……
けど、理依や明之進も功績を上げているわ。
だから貴方も頑張らないと。
[そう言ってから、愉しげに笑う。]
ま、言うだけってのもなんだし。
手助けに行ってあげましょうか?
あぁ、ホリー様ぁ!隊が挟まれている状況なんですよぉ。
なんの陰謀なんでしょうか……。
来てくださるのはありがたきことですよぉ。
これじゃ退けという命令が出たとき、速やかな行動が難しいですし……。
ですがぁ!僕の「食べ放題」も残してくださいよぉ?
―過去―
[理依でなくとも、別の誰かが出会っていた
――かも知れない、と。
別の可能性の事も、慰みめいた事も言わなかった。
誰も、恨まない、だなんて。
どうして理依は零瑠が今の今まで責めるような言葉をぶつけなかったのか、考えた事があっただろうか。]
――…あぁ。全部お前のせいだよ。
大事な人との約束の為に、勝手に俺を、俺たちを…
[謝るな。謝られたら、恨めない。
耐える様に唇を噛み締めると、あっさりと血が流れた。]
[一瞬の光。深海を照らすような決意の現れ。
ゆっくりと手を離す。]
………もう、いい。
理依はその約束の為に、生きれば……良い。
大事な、特別な約束の為に生きれば良い。
自分の為に、死ななければ、良い。
[腕がだらりと落ちる。
心の何処かで期待していたのかもしれない。
零瑠の為を生かす為にしたのだと、
言ってくれる事を。]
さあ、存分に。
戦功を上げなさい?
[冷酷な声が直円へと響く]
[理依と別れて、廊下を進むうちに膝から崩れて倒れ伏した。動かない体を吸血鬼が引き摺る。自室に戻り、宛がわれるまま血を啜った。]
………
[ぽたり。目の端から涙が溢れる。
自分は――何の為に生きているのだろうか。
零す為に目を伏せる。
瞼の裏で、今日もまた桜花が散っていた。**]
えぇ……「虫」はお嫌いかもしれませんがぁ。
見ててくださいよぉ。僕は「頼れる」と、証明しますから。
今、この場で……証明しますから。
[最大限、「狂った」ように見せている。
ホリーの命令は「不都合」を忘れる最大の根拠。]
あまね。あまね……。
[繰り返し慕う声は、再会と彼の生存をただ喜ぶもの。
無線の代わりに、真弓にも届いたことだろう。]
一番手柄を立てた者に、私に牙を立てる事を許してやろう。
[眷属にも気紛れにしか与えぬ紅。
能力満ちたそれを餌に、命ずる]
私を愉しませろ。
[悲鳴を、血を、命を。
無慈悲な命を告げる声は艶すら含み嗤っていた]
− 過去 −
[同じ雛鳥とは言え、成熟すればそれぞれ違う翼や爪を持つ。
武術は最低限のラインは越え、後は各自の伸び代。
智に目立ったのは直円だった。
家族らしい雛達の中で異質に見えたからこそ
余計に目立った様に思えたのかもしれないが]
ホリー…随分毛色が変わったようだな。
[祝福を受けた時から転がる様に変わっていった様に思う。
ただ滑稽な程這い蹲る様な常の姿勢は、
太鼓持ちと呼ぶ以上に滑稽に見えた]
[何の為に生きているのか。
何の為に生かされているのか。
そんなもの、決まりきっている。
鬱金の祝福が囁き思考を塞ぐ。]
……ぁ
[零瑠にとっての最上の褒美に、周に伸びた指先が微かに震えた]
だが雑草こそ根深く広く……生き意地が張っているからな。
[見向きもされぬ雑草。
だが気付けば蔓延り、本来の花々と逆転してしまう]
手入れを怠るなよ。
[油断出来ぬ雑草を見つめながら、ホリーに忠告する。
もっとも、血の絆が逆転する事は有り得ない。
あるとすれば雑草がホリーを担ぎ上げようとする可能性。
それこそ『有り得ない』話であり、
ホリーも判り切っているだろうからこその念押しでもあった*]
見つけた――――!
[悲願を。
やっと一人。全てかけがえのないうちの一人だ。
知らず心の内から歓喜が溢れた。]
― 過去 ―
そうですわね、お父様。
[ある意味、一番順応しているとも言えたのかも知れない。
ただ、ホリーにとっては狂気だけに頼るのではなく。
そのさらに先へと歩んで欲しいと思うばかり。
それは、いずれ戦場で共闘する時に――]
ええ、もちろん。
雑草でも開花すればきっとお父様の力になる。
そう信じてますわ。
[尚、以前にもホリーを担いで叛逆をと考えた者がいない訳では無い。
しかし、企ては悉く失敗に終わっていた。
その相談を受けたホリーによって、首謀者は殺されたが故に。]
逃げて……
[回した腕は、逃さない為。
再会を喜ぶ抱擁は、逃がさない為。
喉を裂いては悲鳴が上がらない。
がら空きの背中の方を選ぶ。]
ちが……
違う、のに…
[単純に、喜んで居たいのに。
命を果たそうと体は動く。
全ては、――喜びの為に。]
―回想―
[ 折り方を書いているリカルダの前、
ふうせんうさぎを紙に戻して、また折りなおす。
手本のように何度かそれを繰り返した。
一度その形が失われてしまっても、
折り紙なら元に戻すのは簡単だった]
――……、
[呟くような問いかけにも、答える術が無い。
自分も同じ問いを持っていたけれど――、
何がいけなかったのか、考え続けて飽和した]
[紙を折る手を止めれば、
自分には何も変わらないように見える、
その小さな体を抱き寄せる*]
─回想─
うん、俺のせいだ。
[謝罪という言葉は卑怯だと時々思う。
それ以上を相手はいえないのだから。
約束を守ることも、あの時数え鬼に乗ったことも
つきつめれば後悔せずにすんだ、死なせずにすんだという自己満足以外の何でもない]
生きてなきゃ。生きていなきゃ恨んでもらうことも約束を守ることもできない。
でもいつか、いつか…
……、……。
[離れた手を目で追って、一度ぎゅ、と彼を抱きしめた。
口の形だけで耳元に囁いた言葉はその先に一度は望んだことだ。
けれど怖くてそれを伝えられない。
それこそ彼に殴り殺されても足りないし、文句がいえないことだったから]
お前はそれでも俺のことを家族と言ってくれる?
[縋りたい思い出が砂時計のようにさらさらと落ちていく。
多分再び取り戻せても一度散じたそれはもう元には戻らない
*]
今の俺の家族、か。
もう…とっくにいないのかもしれないね。
[ホリーの言葉によくよく考えれば。なぜいつまでも家族という言葉にしがみついているんだろう。
家族と思っているのは自分だけかもしれない。
もう、人ではないのだから。
人である彼らと家族に戻れるわけも、ない]
なら、殺せるのかな。
あんたたちが楽しめるくらいには。
[泣き笑いのような声だけが乗った*]
[討ち入る前の囁きの一つ]
…お前もね。死ぬ前には呼べよ。
[真弓が呟いた言葉と同じものを返す。
彼女を窮地に追い込むようなものがいるのであればきっとそれは…*]
あらあら。
真弓も直円も明之進もリカルダも零瑠も。
貴方の家族でしょう?
[そして、優しく囁く。]
今度は守れるように、頑張りなさい。
誰かの危機には駆けつけてあげてね。
[ホリーの囁き似はつばを吐くような表情を浮かべるが
否定も肯定も返さなかった。
きんいろが示した対価に僅か喉が鳴るが
それを気配に載せないことに必死ではあったけど]
― 過去 ―
[“始祖様”は気ままに訪れては僕をほめそやすことを言ってまた消えていく。
そのたびに僕は頭を垂れてその言葉を耳に入れる]
ありがたく……思います。
[声も身体も震えてる。怖いからじゃないってことくらい僕にだって分かる。
時に慈悲深さすら覚えて、そのたびに泣きたくなるのに涙は流れない。
あの時はどうせそんなこと考えもしなかったんでしょう?
なのになんで今さらそんな――――だめ、これ以上考えたら]
僕は……みんなと同じ時に、祝福、を、授かることができて、本当に―――……
[これは、まぎれもない、本当。
僕は怖かったんだ。家族を置いていくのも、家族に置いてかれるのも*]
― 回想・真弓ねーさんと ―
[そうそう、袋みたいになってるところにこの部分を押し込むんだった。
真弓ねーさんは折り方を覚えてるんだねやっぱり。何度も繰り返した末にそうなったのかな。
繰り返すのは大事。
何度も繰り返すうちに『希望』が降り積もるように―――]
………。
[脳裏を過ぎった懐かしい光景が消えて、真弓ねーさんが近くなる。
僕は真弓ねーさんの背にそっと手を回す。
だいじょうぶだよ。僕はいなくならないから*]
[僕は“家族”の身に降りかかったことを知ってしまったから。
僕が無事で、他の誰かが犠牲になってしまったかもしれない「もしも」なんか考えたくもない。
他の誰か――――、例えば、]
―回想・零瑠について―
……目を、閉じて。
[見れば卒倒してしまうから。
想像しただけでも大分だめかも知れない。
けれど空腹には耐えられない、そう困っている零瑠には、
助けを差し出し待つ事は諦めなかった。
己は鬼を刺す木だからと告げた日に、
例えどんな答えを受けたとしても、尚。]
[野菜を混ぜた素朴な菓子から始めたように、
何かにほんの少しの血を混ぜてごまかす所から
始めてはどうかと勧めたのが自分だった。
おいしくなさそうだと想像した顔に見えた。
しかたがない、と凪いだ面の内側で思う。
――それでも、生きてほしかった。]
―回想・直円について―
[本を手に、学の深い家族の元を訪れる。]
ごめんなさい。少し……解らない所が、あって。
教えてもらっても、良い?
[あの夜を境に、直円はひどく変わった。
それを殊更に喜び、月影や黒百合を礼賛するようになった。
けれど自分も変わったのだと思う。頭を垂れるのは同じだし、
与えられて難しい本も読むようになった]
この、隠れ切支丹という人たちがお祈りをする事は、
どうして、禁止されていたの?
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