276 ─五月、薔薇の木の下で。
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誰…………?
[短く混じった囁くような声
──いつも聞いていた、ような。
弱った子供のような戸惑いの問いに、返る音はあったかどうか。]**
[ 誰も俺なんて見ていない。
この瞳がみていたものだって、きっと。
俺を通した、別のなにかだったんだろう? ]
この声が聴こえるのは、薔薇に呪われた奴だけ。
欲望や、奪ってでも手に入れたい想いがある奴だけ。
モリスもそうだし、……さっきのも。
まあ、誰とはいわねーけどさ。
[ なぁ、と()聞こえた声の主の名を謂うことはなかったけれど。 ]
モリスは想いを遂げたからね。
疲れて寝ちゃったんでしょ、きっと。
大丈夫。朝になれば起きるよ。
そんで、きっと、いっちゃんの傍にいてくれる。
[ 来るかもわからない朝は、きっといつか来る。
その時傍にいるのは、咲きもしない薔薇なんかじゃない。
夜が明けたあと、横にいるのはきっと《いつも》の。 ]
[ 自分でもわかるほど、薔薇の匂いが濃く、なる。 ]
───俺の勘違い、だったんだな。
[ こんなに必死になってくれる姿は
たぶん、俺のためなんかじゃなのに。
恥ずかしいと思うより、傷ついたこの手より。
空っぽのはずの場所が、今更────痛い。 ]*
[ 絵画のような風景だけを見つめ続け
庇護する腕に、欲望をぶつける
どちらに対しても残酷な仕打ちだ。 ]
[薔薇が呪うとはどういうことなのか
それは、君もなのか。
さっきの声は「彼」なのか。
言いたいことが沢山あった筈で、
全部頭から消えてしまう。]
遂げた、って
……君はどこまで、俺達のことを
[身体から温度が去っていくのを感じる。
モリスに打ち明けられたことは
この男には、この男にだけは
絶対に知られたくないことだった。]
[ きっと、あの微笑みではない違う顔が見たかった。
……それはこんな表情では無かった筈だった。 ]
[ 連なるように放たれた香りが
何故だか、混ざり合わないように感じた。 ]
[俺が彼のために行動したのは、今この時だけ。
最後の最後、終わりの時だった。
ずっとずっと甘えていた。
自分には恋愛は許されないと思うのなら
秘めたままでいるなどと自分に酔わずに
────離れてしまうべきだった。]
ち、…………
[違う、なんて。
今更言う権利があるわけがない。
抱き締める彼には見えないところで泣きそうに歪む顔。]
[君にずっと恋していたんだと
君にだけは本当の俺を知られたくなかったと
君が心配でこんなに錯乱したんだと
言ったって、もう信じられないのだろう。
“あいしてる”の無い交わりしか知らない
それは、沢山の二人の違いの中でも大きなもの。]
……君も、俺とする?
なんて、ね。嘘嘘。
[吐息に熱が籠もったのは演技ではない。
今尚眠らず何を欲しているのか、理解している。
それでも、俺には
ただ一人の聖域に衝動は振り下ろせない。]
[ それこそが残酷なのだろう。
そのままの彼を愛する誰かが必要なのだろう。 ]
[ あの子が伸ばした手を取ったのは俺。
二人の間の感情と、俺と彼とのそれの名前が違っても
救いに喜んだのは、事実。
……救われていないひとを置いたまま。 ]
[最後まで向き合わなかった男を嫌ってほしい。
そう想うのは、自分の為なのかもしれない。
それでも、嫉妬に狂う心で彼の未来を想ったのは本当だ。
茨に水なんて与えられなかった。
突き出したのは、嘘と決別の棘。]
[ ────……… ]
[ 薔薇の嘆きが、 遠くから、 ]
[ 流れ込む赤泥は、 耳を、 喉を、 犯し
呼吸する内臓ごと、締め上げられる錯覚にも陥る。
慟哭に似た嗤声が、耳許に響く。
声の主の、顔は 見えずとも、
鼻だけは敏感なのだから、薔薇に混じった感情くらい、
嗅ぎ分けてしまえる。]
[ 詰めた息を、吐いた。
ただただ"聞こえる"だけの、
それだけの無力を 滲ませ、
こんなときの言葉なんて、パン屋も、
──── 聖職者でさえ、 知らないはずだ。]
Remember your Creator in the days of your youth, before the days of trouble come ……
[ 木々の囁きに、薔薇のざわめきに、
低く 重く、 風に乗せ────
太陽が闇に変わらないうちに。
月や星の光がうせないうちに、]
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[ 緊張が解ける空気が掌から伝わる。
嬉しかった>>52、と。 自分がマークの事を見てきた事実を素直に受け止められていく>>53。 梳いた髪に触れていた指先は濡れて冷たい癖に、伝わる温度はそれよりも暖かい。 此方を見上げる潤んだ眼が溢れそうになる様を、笑って、
花が咲くように綻び掛けた笑み>>54に爪を立てた。]
(102) 2018/05/21(Mon) 23時半頃
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[ 包み込んだ頬は低い声に反して柔い。 まだこの子は自分よりも歳下。 血の匂い残る不釣り合いな指で あどけない綺麗な唇が形が変わるのを待つ。]
………
[ 何を望んでいるのか、 はっきりとは分からなくとも察しはついてしまう。
だって、見てきたのだから。 其れはマーク本人が思っているよりもずっとずっと前から。 苛立たしくも身を浸してしまう共犯者に向けたものと同じ眼で。
自分が焦がれて止まない──だという のに。]
(103) 2018/05/21(Mon) 23時半頃
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……………ふ、ふふ。
[ 突き飛ばされて一歩後退る。 笑みに似た息を吐いた。 触れられて、抉られたように痛む胸を 掴む手は掻き毟るようにも見えるだろう。]
…、も、
[ 小さく呟いた言葉は音に乗らない。 ただ笑いもしない眼でマークをじ、と見遣るだろう。 熱っぽい怒声>>56>>57を冷めた眼で見る。]
(104) 2018/05/21(Mon) 23時半頃
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[ 「どいつも、こいつも」>>1:299。 薔薇の棘で抉った掌が熱を持ったように熱くなる。]
(107) 2018/05/21(Mon) 23時半頃
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何をそんなに脅える事がある。
[ 再び伸ばした指先は驚く程冷え切っていた。
避けないのなら相手の肩をトン、と押す。 半ばぶつかる様に相手に覆い被さろうとするだろう。 そうでなくても、鬱蒼と笑ったまま頤をなぞろうとする爪先。]
そんなに認めたくないのか。 それとも本当に要らないなんて宣うのか。 あんな顔を晒しておきながら、 よくも"欲しくない"なんて……
[ あぁ、低い声と共に、蛇の様に細まるのは血の様な眼。]
(108) 2018/05/21(Mon) 23時半頃
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じゃあ君は、 口付けなど誰にされても一緒だという訳だ。
[ 脳裏で一瞬、悠仁とのやり取りを思い出す。 乱暴に顔を掴むまま、止めないならば温度のないそれが容赦なく綺麗な唇を奪うだろう。]
(110) 2018/05/21(Mon) 23時半頃
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[ 扉の外、ぽつりと零された>>85呟きも 此方も眺めていた眼も知らない。
唯叩き付けるままの衝動から我に帰れば、 きっと直ぐにでもこの場から消えてしまいたくなる。]*
(111) 2018/05/21(Mon) 23時半頃
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オスカーは、イアンと食べたシュトーレンの匂いは、談話室の匂いに似ている。
2018/05/21(Mon) 23時半頃
オスカーは、フェルゼの事が少し、脳裏に過ぎる。
2018/05/21(Mon) 23時半頃
[ いくら薔薇の香が色濃くなろうとも。
互いの匂いが混ざり合うことは、なく。
かなしい言葉の涙(あめ)の中。
俺が見ていた景色は
全然別のものだった。 ]
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