231 獣ノ國 - under the ground -
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[返ってきた同意の言葉に、私は来るとは思わない未来を思う。
そんな日が来るとは思っていない。けれど、願う自由だけは私にも許されているはずだ。
願うことは、人間にだって止められないはずだ]
……フィリップは、鳥だわ。
[私が居なくても、と言外に滲ませて。
私は、私たちはこういう生き物なのだと思っている。だから、フィリップが自分のことを欠けた生き物だと感じることは……それは、悲しいことだと思った。
百科事典によると、飛べない鳥もいるらしい。
フィリップは鸚哥だけれど、夜明け頃、第二図書室から自室に戻る時に聞こえるフィリップの歌声は、金糸雀のようだとも思うのに]
フィリップは、鳥だわ。
[だから私はもう一度、そう言った]
[ 僕を鳥だと 祈るように願うように響く声は
いつもの彼女には珍しい 力が篭められていて
朝靄の図書室で 彼女の羽を羨ましがりながら
その翼が本来拡がるべきだった
外の世界の夜空の話をしたときにも おなじように
彼女は、僕も同じ鳥だと 言ってくれた。
あの時伸ばした手は 彼女の羽に届いただろうか。
瑠璃の目に憧憬ばかりを乗せてしまうのは
彼女には少し迷惑だったかもしれないけれど]
僕も夜空に行けたら、唄うよ。
………鳥だからね。
[ それでもやっぱり彼女が居なければ夜空は行けないから
小さな声には ちょっとの苦笑が混ざった。]
―― 一間 ――
[ ひとが羽や鱗を生やせばいい、という針鼠には小さく息を漏らし笑った。獣人に獣を足すのも可能なのだろうか、それこそ“ ”みたいだ。
――体はともかく、その実験体の心は今度はどこにいくんだろう。獣かひとか。新たに宿った獣だろうか。
心、と梟の告ぐそれに1つ、首を傾げた。まざりものの体に宿るのは、果たしてどんな心なんだろう。
同じになれるわけがない、という2人の声に淡く頷く。どうしてもわかりあえないのなら、いっそ領分を分けてしまえばいいのに。]
ああ、…あそこ。ありがとう。
[ 返る返事に秘密棟、と面体下を歪めつつ、礼を告げる。“イカレ”と称される女医の姿を見たいわけではなかったが、獣を人にするなんて考えには興味があった。*]
[ 2羽の“とり”の声をききながら。
ひたりと水に浮くよう、“よぞら”に映るその姿を描く。
夜のそらを縫う彼女の姿は。彼がうたう姿は。きっととても、冴え冴えとはえるのだろう。
合間、漏れ聞こえた微かな声色には、首を傾げ微かに、かあさま、と反芻する。“かあさま”って、なんだろう。*
――やがてぐるりと頭を回し、声の正体を探りながら。
これなら、ひとに見つからずこっそり相談事もできるんじゃないだろうか。――例えばそう、「自由」を得るための。
実際反抗を図っている針鼠の彼女へと、(離れてる以上意味があるのか知れないが)視線を向けつつ。]
……誰かと出て行こうとか、思わなかった?
[ 首を傾げては、小柄な体を思い返す。針があるとはいえ、少女めいた体躯では限度があるだろうにと。
――そういえば、同じくらいの“猫”の少女もいた気がするけれど。ここでの声は聞こえているのだろうか、とぼんやり思い巡らせながら。]
[私の知らない、あるいは覚えていない、外の世界の夜空の話を聞いた時、私は知識を求めて本を読む時と同じくらい、もしかしたらそれ以上に、未知なるものに対して知識欲が満たされる充足感と、憧憬を覚えていたかもしれない。
伸ばされた手には、瞬き一つ分の驚きを示したけれど、フィリップの翼への憧れは知っていたから、そっと翼を広げてみせた。鳥籠で生きていくには大きすぎる私の翼を。
伸ばされるフィリップの腕の蒼碧や、真紅の爪を私は綺麗だと思うから。だからきっと、それはおあいこなのだ]
楽しみだわ。
[きっと、そんな日が来ることは、ないのだろうけれど。
それでも、そう返した私の声音には……そう、“幸せ”の色が、きっと微かに混じっている。そんなもの、私は知らないはずだったのだけれど。
私の翼は、一人で飛ぶにはきっと少し大きいから。
外の世界の夜空は、一人で飛ぶにはきっと広いのだと思うから。
飛べないフィリップの声には苦笑が混じるけれど、それを言うなら私は歌えない。だからきっと、それもおあいこなのだ。
――――……きっと。きっと。きっと。
そんな日は来ないのだろうと思う未来に、私はたくさんの「きっと」を重ねていく]
[ 梟と鸚哥がそらを飛ぶ。 星の欠片の流れるそらで。
その場にいれば、僕は首を擡げて彼らを見つめるのだろう。
きらきら照らす、ひかりの舞台で、 彼らが踊るさまを見届けるのだろう。
手元に揺蕩う水中では、 鮫が呼ばれて来るのだろうか?
水に堕ちた月に肌を重ねて、深海のくろに夜空のくろが混ざり合うことも、あるのだろうか。
僕は陸続きの岩場で、 空を眺めて、そのまま夜が明けるまで。―――]
―――――。
[ はた、と僕は目を瞬かせた。 いま僕は何を考えていたのだろう?
こてりと首を傾げると、やはり口元の機械がかちりと鳴った。
ぼうやりとした思考の奥。 隙間を通り抜けて届いた声は、―――「獣人」の脱走計画さえ、覗けるかもしれないもの。 ]
………。
[ 締め付けられる胸は、なんだろう? 僕はぎゅうと胸元に手を当てたまま、 引き続き耳を欹てた。 ]**
[ジリヤへと投げかけられた質問に、小さく息を飲んだ。
抗い続けるジリヤですら、ここから出られるとは思っていないというのに、その質問は、まるで]
誰かと一緒なら、出ていけると、思っているの。
[私のその呟きは、質問だったのか、それともただの独り言だったのか。
私自身にも、その境界は酷く曖昧で、だから返事が来ることは、期待していない。
声の主に、漏らした寝言を聞かれてしまっていることも、知らない]
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