78 光環の戦溟 ― bloody searoar wars ―
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[黒の剣は、男の脚を斬ったのか、どうか。 それを確認する術は、男にはなかった。 男は飛雲の踵落としを全く避けなかったが、それを受けた上で飛雲を斬って殺れるのは、飛雲の踵落としが、人道的に真っ当な踵落としであった場合のみだったからだ。
そこに何が仕込まれていたのか、それを意識することもできない。 ただ、剣先は物にあたった感触はないのに、飛雲の脚が離れ。 それが己に向かって真っ直ぐと振り下ろされて、視界が、赤く染まる。]
(7) 2012/02/13(Mon) 01時頃
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[嫌な音を立てて、足元が軋む。 男は巨漢だ。重さも、常人よりはあろう。そこに、飛雲の体重の乗った一撃。 大地は割れて、砕ける。 城の基礎の石塊に、身体を強かに打ち付けた。]
っ――――
[意識が白く明滅する。 頭が痺れ、体の動かなくなる感覚に、ごくりと息を飲んだ。]
(9) 2012/02/13(Mon) 01時頃
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[蹴りには、されるがまま。 脳天から斬られ、強か打ち付けた身体は"ケヴィン"の意志ではもう動かない。
笑い声と煽りに反論する唇も開かない。 財布を抜き取られそうになっても、それを止める指先すら、動きそうになかった。
代わりに、徐々に、徐々に。 動かない身体を、黒い煙のような闇が、うっすらと、しかしじわじわと確実に纏い始める。]
(12) 2012/02/13(Mon) 01時半頃
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[黒いそれは、男の剣に対峙したことのあるものなら分かるやもしれぬ。 全く"気"を同じくするものであることに。
どっぷりと黒い禍気に男の体が包まれたあと、ずるり、とそれは起き上がった。]
『は――何だよ、コレ』
[真っ黒に染まった身体。口をついた音は、男の低音ではない。 刺青から何度も聞いていただろう、あの陽気な黒龍の。]
(14) 2012/02/13(Mon) 01時半頃
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[身体が動く。 手を握り締めることも、口を開くことも、大地を踏みしめることも出来る。 何度夢に見たか分からない。自分の意思で肉体が動く感覚。 けれど。 この身体は己《龍》のものではない。ぴきぴきぴきりと全身を鱗で覆いはじめているが、この2mに足りぬほどの身体は、明らかに宿主の。]
『旦那! おい、旦那ァ!! どうなってんだよォ、これ! どういうことなんだよォ!!!』
[応答はない。そもそもただ喋るだけで意思の疎通ができるのか、それすらも定かではない。なんたって、この体を己が使うのは、これがはじめてなのだ。]
『おはよう、じゃねェよ犬ッコロども! 旦那は、旦那はどうなってんだよォ!』
(17) 2012/02/13(Mon) 02時頃
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[欠けている。 明らかに欠けている。 その欠けたものとは何だったのか。
同じ重魂《デュアル》たるカトリーナと比べても、明らかに相違する点は。]
(18) 2012/02/13(Mon) 02時頃
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[過去の話になる。 男はある魔術師から依頼を受け、黒龍を倒し、魂を封ずるように命じられた。 その依頼通りに黒龍は男の手によって倒され、そして封印されるべき魂は、複雑怪奇な呪句の誤りにより、魂だけが男の体内に縛り付けられた。
つまり。 黒龍《ナシート》には、解放された後に還るべき己の身体がとうの昔に失われていたことになる。]
(21) 2012/02/13(Mon) 02時頃
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[鳳凰《アリィ》は。 その姿見せることこそ稀なれど、己自身の身体を持っている。 故に、転じることも叶う。
だが、龍《ナシート》は。 肉体を一つとして持たぬ。宿主の身体にそれこそ寄生していただけだ。 故に、宿主が肉体を手放して《死んで》はじめて、動かすべき肉体を手に入れたのだ。]
(22) 2012/02/13(Mon) 02時頃
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『何が、何が羨ましいってんだよォ!! 畜生!! 死なねェ!! 旦那は死んでなんかねェェ!!!』
[ウルヴェレアが崩壊であるならば。 人間がウルヴェレアを迎えるというのはどういうことであるのか。今己の力の解放を感じ、そしてそれが何を意味するのか。 分かる。分かってしまう。認めたくない幼稚さが、喉を裂いて叫びとして溢れる。
身体の中の魂がひとつになった。 吠えたけるような叫びと共に、男の背の肉は突き破られる。 ああ、あれほど待ち望んだ。 天を駆けられるだけの大きな龍翼が、背に広々と開いた。]
(24) 2012/02/13(Mon) 02時頃
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『させるか、よォォ!』
[尻尾を巻いて逃げろ、との言葉に背を押されるように、情けない声が飛雲から漏れる。 それを追わんとばかり、龍翼は羽ばたく。ばさりと風を孕んで、男の巨体を持ち上げる。 逃げ行く飛雲を追う。追う。追う。 その進路を止めたのは、結界《-Blaze Wall-》のまだ残された空。 結界の穴を抜けるために、穴を探す。その内に、飛雲自身を見失った。 拙い、と思った瞬間、ぐらり、と傾いで]
『――!? く、そっ、どうなって……』
[それから、ゆうらり、と意識が遠のく。 丁度凧から糸が切れてしまったように、制御を失い、黒鱗に覆われた異形の男は王都の門より少し外れた外壁の近く、どさ、と墜落した**]
(39) 2012/02/13(Mon) 03時半頃
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まさか、奴等を取り込むとは。
流石に予想していなかった。
あれらも、元々それら一体でこの世界に滅びを齎せる存在。
それらを四体総て。
――恐るべきは嫉妬《SHIT》だな。
[星の屑《ダニ》と言う蔑称を向けてはいたが。
死女神として、あれはあれで好ましいとは思っていた。
尤も、眷属にしようには手に負えない気性だったが。
それら総てを取り込んだ魔獣将軍《オリエンタルエクスプレス》へ感嘆を向け]
嫉妬《SHIT》―……だけじゃねェかもな。
[それは彼自身もうまく言語化できない感情。
半辺天《オトメ》の最期を目にしてから心を縛る気持ち。]
―――……・・・。
[機械と化した、半辺天《オトメ》の姿。
銀河《ウシナワレタバショ》から飛び去った後、彼女の姿はついぞ無く]
お前が後数千年も生きれば、わかるだろうさ。
嫉妬《SHIT》だけではない、"それ"が何かも。
[何を経て、ただ四凶《マールフィクス》の星《ヤドヌシ》に過ぎなかった男が、今を経るかは視て居ない。
在る事実は。あの半辺天《オトメ》が死んだ。という事のみ]
数千年なんて俺ァヤダよ―……面倒くさい。
まァ、俺は「今」しか生きれない不器用な「男」なんだ。
この世界、咲かせて見せましょ「男の華」。
―……俺は俺でやるから、テメェもテメェでやれ。
ヤクザ《オトコ》の生き様―……見せてやんよォ!!
あぁ、確かに面倒くさい。
私とて、ここ千年の時間は、千万年の時間を縮めたかの様に余りにも濃密と感じるのだから。
――今を往き、世界の再生《ヨアケ》を待たずに散りゆく『男の華』。
確かに不器用だな。
私の様な、概念の義務感から生じる意志とは対極の不器用だ。
未だ永劫に続く未来。
その一歩先をも見据えぬ生き方など理解できん。
……昔なら。そう言ったろうが。
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――王都――
『いってェ、な! なァにすんだニワトリ女! ってェ、あれ?』
[黒龍の目覚めには、しばらくかかっただろう。痺れ切らされれば、踏みつけは強くなったかもしれない。 やがてがばと起き上がって、叫んだのだが。 望みどおり空高く舞っていたはずの己が地に伏し、ついでにアリィに蹴られ踏まれとくれば、目を白黒した。]
(60) 2012/02/13(Mon) 21時頃
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『……お、おゥ』
[城に戻る、と促されれば、ふらつきながらもアリィに従った。 長身に加え、全身を鎧鱗に包まれ、背に龍翼広げた姿はよく目を引いた。]
『つってもよ、あいつが、旦那を――』
[言いかけて、止まる。 カトリーナにも聞こえているのだろうそれを、今ここで口に出来なかった。 それに、言ってしまえば自分も認めてしまうような、気が、して。]
(61) 2012/02/13(Mon) 21時頃
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[黒龍の墜落のメカニズムは至って簡単。 身体と魂の相違によるコントロール不良と、ウルヴェレアによる"解放"の影響だ。 ナシートの魂はケヴィンの魂と絡み合い一つの身体に入っていた。 片方が死《崩壊》して、もう片方のために身体が残る、というその意識こそが甘さである。 たとえるなら、ロープの結び目を切るようなもの。 絡まったロープの結び目を切り落としても、長い一本のロープには戻らない。二本のばらばらのロープになる。 絡み合った魂のつなぎ目が死《崩壊》して、単独になった魂は今、ケヴィンという存在自体から"解放"されようとしている。 この肉体は"ケヴィン"のものだ。"ナシート"ではいつか、遅かれ早かれ、限界が来る。]
(62) 2012/02/13(Mon) 21時頃
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[まだ、それをこの龍が、気づくに至っていないだけ。]
(63) 2012/02/13(Mon) 21時頃
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[龍は、それからどこぞへ行きたいとはあまり言わなかった。 城に逗留し、中庭、屋根の上、その他諸々城内の敷地で、ただ一心にこの身体を己のものにしようと機動の修練をしていた。
甲斐あってか、墜落の日より先はひどい制御不能に陥ることもなく、全身を龍の鱗でぬらと光らせていた外見も、硬い鱗の鎧を身に纏ったような、黒騎士の姿に整えた。 脱ぐこと叶わぬ鎧のせいで、寝床の確保には困ったかもしれないが。 馬小屋を宛てがわれても構わず喜んで受け入れたろう。
空を駆けるのもずいぶんに慣れた。 翼はやはり良いものだと、時折無闇に飛び回ってはけらけらと笑っている姿も見受けられたかもしれない。
そして、一週間後。]
(65) 2012/02/13(Mon) 21時半頃
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《黒 龍 騎 士》 ――――激誕―――― ドンケルドラグナー
(66) 2012/02/13(Mon) 21時半頃
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テメェ、ここでの用が済んだらさっさと「例の場所」行きな。
俺は決してあいつらに通り道なんて譲らねェ。
だが、万一。万一だ。俺が抜かれるようなことになったら
―……あそこ《EDEN》が最後の決戦の場所だろうな。
――解っている。
"あの場所"こそが、この星《セカイ》を未だ続けさせる元凶。
破壊しないならば。
"あの場所"へと何者も通さないのみ。
……私に限って。
その様な事はなかろうが。
―それは、私が破れる奇跡《カ=オス》が起きた時も又同じことだ。
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[ばさり。 風をはらんだ羽音を立てながら、竜騎士はセヴィアルファ城付近を滞空していた。 その落ち着かない様子に、征華隊として集まった人々は何を思うだろうか。 実際、この竜騎士も己が何故こんなにも、こんなにもざわめいているのか、感覚でしかわからぬ。
だが、空中からは世界がよく見えた。]
『――来る!!』
[象(>>64)だ。土煙上げ、王都に向かい来る。 一度に急降下し、向かうのは城のバルコニー。]
(90) 2012/02/13(Mon) 23時半頃
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