1 とある結社の手記:6
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―深夜―
………………。
[自室のベッドの上に蹲る。
未だ少年は眠らないままでいる。
そこから凍える冬の景色を見上げるのは、
仄かに赤みがかった丸い瞳。
空は、何処にいても、繋がっていると―――……]
……父さん。
[白い小さな指先が包み込むのは、手紙の束。
父との唯一のつながりを示すもの]
[少年からの手紙は、いつも沢山。
封筒に収まりきらないほどの、長い文章。
父からの手紙は、いつも簡素。
封筒に1枚だけの便箋に綴られた、短い文章。
それでも良かった。
父との繋がりが残されているだけで、救われた。
まだ、頑張れば、彼の元に戻れるのだと。
――――年を経るに連れて、
次第に手紙の届く頻度が減っても。それでも、……]
[かたり。
耳に届く物音は、
結社員の男が集会所に戻ってきた証だろう]
…………。
[彼に人狼だと言われれば――、
自分もヤニクも、きっと殺されてしまう。
だから]
[少年はそっと机の上に手紙を置きなおすと、立ち上がる]
―サイモンの部屋―
[夜の闇に紛れて廊下を歩く姿に、音は無く。
するりと目的の部屋に入り込む。
彼は、気づいただろうか。
それとも、気づかなかっただろうか]
サイモンさん。
[少年は結社員の男を見つめながら、薄っすらと微笑んだ]
さようなら。
[おそらく、
サイモンが少年の別れの言葉を聞くことは無かった。
月の出ている白雪の上でならば毛並みが栄えるような、
一匹の小さな銀狼。
それは最初に微笑んだのとほぼ同時に、
彼の胸を一切の躊躇無く貫いた。
舞い散る赤色は、色さえ違えば、雪のよう]
…さようなら。
[既に事切れた男へと、
《人狼》は微笑みながら別れの言葉を]
[その場にヤニクはいただろうか。
彼は少年の姿を見て、何か言っただろうか。
いずれにせよ、
赤く染まった掌を見つめる小さな人狼の瞳の中に、
何らかの感情の色を見つけることは難しかっただろう。
其処にあるのは、無。
プラスもマイナスも無い、空洞のような感情]
…………。
[ヤニクがいたならば彼の方へと顔を向けて、
ことりと首を傾ける。
暫くしてから、ゼロの上に微かに笑みを上乗せして]
いただきましょうか。
[酷く、あっさりとした言葉。
少年はその日初めて、《人間》を口にした**]
[まさか、新しい占い師の人が来たなんてことは……]
[夜は全然平気だったのに、虚弱な体は自らが殺めた死体に、
まるで拒絶反応を起こすようだった。
いや、昨日あまり眠らなかった所為もあるのだろう。
きっと、そうに違いない。
そう自分に言い聞かせつつ、静かに目を閉じる。
―――…もう少しだけ、眠ろう]
[目覚めれば、きっと。
*逃げられない現実が、横たわっているのだから*]
−深夜・サイモンの部屋−
[口元にはいつもの笑みがあった。
だが眼光は、まるでサイモンを突き刺すような鋭さだった。
彼と目が合う。彼が心に悪魔を呼び込んだことを知る。それで十分だった。
自らは姿すら変えようとしなかった。
恐怖で身体を動かせないでいるサイモンに、カルヴィンが襲いかかる。
その一部始終を観ながら何も言わない。ただ、食事を始めた彼の毛並みを一度だけ撫でてやる。それで十分だと思った。そして静かに部屋へと戻った。]
…カルヴィン。
お前は、友人を食う事が出来そうか?
[素っ気ない。それだけに深刻な思いを隠した問いかけを、囁いた。
敢えて昨夜の事に触れない。そんな暇はない。そう言いたげだった。]
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−自室:朝−
[頭が重い。 目を覚ませば自宅とは違う天井。 少し痛む頭を押さえながら起き上る。]
あれ?どうやって戻ったんだっけ?
[首を傾げて、いつもよりも緩慢な動きで身支度を整える。 いつものように兄の部屋の扉を叩き]
兄さん。いつまで寝てるの?
[幾分いつもよりも抑えた声で兄を起こし、兄の身支度が整えば共にホールへと。]
(28) 2010/02/21(Sun) 18時頃
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寒いね…。
[廊下を歩きながら腕を摩る。 兄から出た言葉にきょとんとした後くすりと笑い]
うん。 いいよ。 兄さん、何が食べたい?
[そんな他愛のないいつもと同じ朝の風景。 昨晩の事をからかわれれば、顔を赤くし頬を膨らませる。]
(29) 2010/02/21(Sun) 18時頃
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−広間−
[広間で結社員から告げられる言葉。 昨日まで単なる間違いであればいいのにという願いが崩れ去る。]
処刑…?
[意味が分からないと兄の顔を見上げれば、自分の腕を掴む兄。]
疑わしい人なんて…そんなのわかんないし、わかりたくない…。
[ゆるゆると頭を振る。 周りの面々の顔を見る。 この中に人狼が本当にいるのか。 誰が人狼なのか。 相手を疑わなければならない現実。 兄の手に力が入るのに気づき、顔を見上げる。 兄が呟く言葉にへなりと眉を下げて泣きそうな顔。]
(30) 2010/02/21(Sun) 18時頃
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[ローズマリーが去った後兄の手が腕から離れ、歩き始める兄。 どこに行くのかと後をついて行こうとすれば制止され、広間から動く事ができないまま。 心配そうに兄の行った先を見つめる。 ふいにサイラスに名を呼ばれて、彼の方へと。]
サイラスさん、何?
[左手の甲を言われたように差し出す。 ひんやりした感触に肩を竦める。]
これで分かるの?
[首を傾げ彼が次に発する言葉をじっと待つ。 彼の言葉にほっと息を吐き、ヤニクの言葉に瞳を瞬く。]
(31) 2010/02/21(Sun) 18時頃
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タヌキ…。 私、タヌキじゃないもん…。
[頬を膨らませ、サイラスの謝罪の言葉には首を振り]
ううん。 ありがとう。
[コルクボードにメモを貼り付けるサイラスの背を見て、左手の甲を摩る。 兄が聞けば少し安心するだろうか。そんな事を考えた。**]
(32) 2010/02/21(Sun) 18時頃
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―――友達を、食べる…?
[ぼんやりとした意識の中、
耳に届いてくるのは同属の囁き]
僕は……。
[ぎゅっと自分の手を握り締めた]
………、僕は人狼ですから。
そのときは俺が殺してやる。
サイラス…。随分と効率の良い占いをしてくれたものだ。
厄介だな。
[忌々しげな響き。]
結局は…
ここに居る奴等全員を喰うか…殺す以外にないのかもしれない。
だが結社員も居る。あまり派手な動きは出来ないが…。
[カルヴィンの応えに、自身の困惑の一部を独語するように語った。]
……………。
[此処にいる者を全員食べるか。…殺すか。
そうでもしないと、生き延びれないのか。
そうすることで、生き延びれるのか。
視線は一度ぐるりと、広間全体を見渡す。
ずっと一緒に暮らしてきた、村の人たちだった。
あぁ。なのに、どうして―――]
…ヤニクさんは、そうする心算、なんですよね。
[生きて、ここから、出ると]
――――…まぁ、《人狼》なら。
人狼であるというだけで、
きっと、近づきたくない対象なんでしょうね…。
[淡々とした呟きに、微かに滲むのは寂しさか]
お前は違うとでも言うのか。
[不愉快そうな声を隠そうともしない。]
サイラスは命拾いをしたな…。
いや…。ウェーズリーが何を言い出すかにもよるが。
忌々しい…。
あの猟銃に敵うならば、今すぐにでもこの広間を血で染めてやるものを。
[そこに独語のようなカルヴィンの呟きが聞こえる。]
お前の父君ならば…誇りを持てとお怒りになるだろうな。
[偲び笑うような、からかうような笑い声が続いた。]
――――…いいえ。僕も同じです。
[不愉快そうな声に、返る真っ直ぐな声。
何処か自分に言い聞かせるような態でも、
あったかもしれないけれど]
僕は生きて此処を出ます。
そうして、父に、会いに行くんです。
[何処か夢を見るような風にも、呟いて。
それに伴う犠牲のことを、今はどこかに押し隠して]
……サイラス先生は、命拾い…?
[彼の思考の先を問うように、繰り返す]
ウェーズリーさんは、誰を調べるのでしょうね。
[黒い気味の悪い封筒を思い、小さく息をついた]
[からかうような声が聞こえれば、あわあわと口を噤んだ]
………っっっ!
別に僕、平気ですから。全然、平気ですからっ。
[頑張って弁解しようとするが、
どう見ても余計にボロが出ている]
[笑い声が聞こえる。]
成長してみせることだ。
少なくとも…。お前は確かに人狼に、成ったのだから。
…占い師のどちらかは偽物だ。
襲うときが限られているのならば、俺達に都合の悪い奴から殺す。
だが…その見極めが難しい。
[次の夜。その標的を決めかねている苛立ちが隠せない。]
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