19 生まれてきてくれてありがとう
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「こんにちは。さようなら」
そんな些細なことでも構いません。
明日会えない「さようなら」を
伝えられるのはつらいから
だから何も、
伝えないことが最期の言葉ならば
『生命とは 喪われるもの――』
生まれた時から人は死に向かって歩いていく。
『冥闇は世界を侵し、人々を連れて行く』
それでも闇の中で人は必死に足掻くもの。
『死以外の約束など交わせはしない』
識っていても、認めない、そんな生き方をしてはいけないのですか?
失ったものは一体何だったのでしょうか。
手に入れたものは一体何だったのでしょうか。
沢山の悲しみを生むこの病。
それでもほんの少しの喜びが在ればどんなに良いかと思う。
この手は悲しみだけを生んでしまうのでしょうか。
この手は喜びを生むには余りにも未熟でしょうか。
サイモンさんは、いつも可笑しな人です。
橋で彼と出会いました。
嗤っていました。
狂気に呑まれてわらっていました。
待ち受けるのは死、のみ。
全身が麻痺しても、微かに唇が動くことは知っていますが
彼には、その唇で伝えるものがないと、
私はそう判断しました。
身体が動かず、孤独に死すことは、
とても悲しいことです。
だから私は彼を橋から川に突き落としました。
それだけです。
彼が幸せであったかどうかは分からない。
けれど死を予告されて不幸せな狂気に生きるよりは
まだ、良いのではないかと、そう思いました。
―――だから、私は。
―――…。
大好きな空 大好きな村
このまま、同じように明日へ続いてゆくと信じていた。
乾いた口笛 空を渡る調べ。
その日風に乗るのは口笛だけじゃないと知った。
緋い空を見上げていた。
沈まぬ夕陽を見上げてた。
幾千の影が森を駈けてゆく。
私とか、あなたとか、恋とか、愛とか、
好きとか、嫌いとか
「また話すね」
叶えられない口約束。
拒絶も、肯定も、仲良しも、喧嘩も、何もかも
生きているから、出来ること。
――あなたが死んだら意味がない。
――私が死んだら意味がない。
気付いてください。
生きているから出来ること。
生きているから尊いこと。
どうか、気付いてください――**
あなたが――。
彼に、死という安らぎを与えてあげた、のね。
私は、彼の狂気を感じて――。
死病が齎す恐怖に耐え切れないのなら――。
死病が齎す恐怖に染まり、村をこれ以上破壊するのなら――。
其の前に――、永遠の眠りをと思ったわ。
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