56 いつか、どこかで――狼と弓のワルツ――
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[ざわり――
不穏の風が、砦の方角へと――**]
(#0) 2011/06/29(Wed) 14時頃
[ ――その身は一匹の『狼』 ]
[その両足は疾風になる四肢。
草原を駆け抜け、鹿を追い詰める風の様に。
その両腕は鋭利に光る犬歯。
鹿を屠り、害敵の肉を噛み切る牙の様に]
[それが『狼』の戦い方。
騎士達全てが一匹の『狼』として獲物を引き裂く、赤騎士団の猛威]
[……僕は『騎士』には成れない。
何故なら、僕は『狼』だから。
だから微かに心の底で感じる。
『狼』の不思議な縁、或いは運命かも知れない。
でも、まだ今は僕の心は覚悟を決めていない。
決めれていない。
『狼』が咆える時は、それでも直ぐ其処まで来ているのに**]
[風がどんな想いを運ぼうとも、
狼の名を背負い、剣を交えれば、
どくりと高鳴る心臓は抑えられない。
血が身体全体に行き渡り、
瞳の奥が熱くなるのを感じた。]
…―――ッ!
[振り翳す剣は、狼の牙。]
……公女さまにお目通りしたのは初めてですけど、
お美しい方でしたねぇ。
ご公務にも真面目でいらっしゃるし、
ヤニクさんが尊敬するのも分かる気がします。
[のほほんと胸中に述べた。
こうして遠くから声が聞こえるのを知ったのは、
いつの事だったか。
面と向かって会った時と違って、
こちらの姿が見えない分気が楽だ、と彼は言うので、
成程そういうものかと思い、今では便利に使っていた]
[鳴り響く咆哮に呼応する様に、其の雌の狼があげた咆哮は
何処か悲しみに満ちたような咆哮で。]
[其の狼は、何処にその悲しみに満ちた牙を向けて良いのかわからずに。
ただ、悲しみの声をあげる。**]
[食器を片付けていると、聞こえてきた声。]
へぇ、お姫様に会ったのか。
お元気そうだったか?
[先程直接会った時とは違って、嬉しそうなどこか羨ましそうな声で話し掛ける。
初めてこの声が聞こえた時、しかも相手がムパムピスだと知った時は驚いたが、姿――主に服装を見なくて会話出来るのは、逃げ出しそうになる衝動がない分、気が楽だった。
彼自身を嫌っているわけではない為、話しやすくたまにこうやって話すのは楽しいとも思っていた。]
うーん……元気そう、とは言えない雰囲気でした。
ここのような、前線近くの環境には、
慣れてらっしゃらないと思いますし……
ご公務も重なって、お疲れなのかも知れないですね。
[羨ましげなヤニクの声に、自分が見聞きしたことを伝える。
赤騎士団長の後継について心配されていた事や、
戦争が近いことに心を痛めていた様子など]
ヤニクさんは、まだ公女さまにはお会いしていませんか。
砦の中を視察していらしたようですから、
いずれお会いする事もあるかと思いますよ。
[彼女が言っていた(ような気がした)
会いたい、という言葉のことは、
自分でもどう受け止めたらいいか分からず、心にしまう]
あぁ、その通りだ―――…。
[目の前の同胞の囁きに、上手く働いていない頭のままに、本能で頷いた。]
そうなのか?
まぁ、もうすぐ戦が始まるのだろうから、仕方がないが。
[まだ直接公女の姿を見ていないため、ムパムピスの言葉に少し眉を顰める。]
視察されている、か。
直接お会いしたいが、話すのは無理だろうな……。
[普通に話していた様子の彼に、ぼそりと呟いた。
彼が伝えずにいることは、こうして話していても聞こえるはずはなく。
ただ、直接公女を見かけたときに、逃げ出さないようにしなければ、と考えていた。]
そうですよね……もうすぐ、というか、
今日明日にでも、という気がして胸騒ぎがするんです。
いえ、ただ、何となく。
公女さまも、できれば安全な所に行かれた方が
いいように思うんです。……気にしすぎでしょうか。
[話すのは無理か、と聞いて首を傾げたが、
声だけなので仕種は伝わるわけなかった。
頭の中だけの会話なのに体まで動くのは癖らしい]
公女さまは、騎士団の皆さんにも、
気さくにお声を掛けておいでのようでしたよ。
[暗に、ヤニクも言葉を交わす機会があるのでは、と伝える]
雰囲気的にはいつ始まってもおかしくないだろうな。
……お姫様の身が危なくなるってのは怖いが、そうならないように――守りたい。
[近くにいれば士気も高まる。しかし、危険もより近くになる。
そうならない内に戦が終われば良いが、と願う。
が、続いた言葉にピクリと固まる。
言葉を交わす機会があるかもしれないと暗に言われ、動揺した。]
いや、ほら、なんだ。
お前ももし神様とかに話し掛けられたら緊張するだろ。
そんな感じだ。
[神様と比較するなどおかしいかもしれないが、上手い例えが出来なかった。]
[咳払いをひとつ、 その後]
…聞こえるか、ベネット。
お前が団長をやらないってんなら、俺がやる。
けど、俺一人じゃ駄目なんだ。
お前の力が、必要なんだ。
[お互いの、足りない部分を補い合えば―――]
副団長に、なって欲しい。
[目の前に佇む同胞の声には、しばらくの沈黙を。
墓地で言葉を交わしたもう一人の同胞が、何と返事をするのだろうかと。
息を殺す様に、耳をたてた。]
やはり、そうなのですね。
こう言ってしまうと重荷を載せてしまうようで、
心苦しいのですが……
頼りにしています。
[戦う力がないことは、時々恨めしかった。
今更剣を取っても本当の足手纏いだろう、自分は。
代わりに、騎士達が志を果たし、守るべきものを守れるよう、
せめて祈りたいと思いを新たにする。
一転、急に動揺する心の声にきょとりとして]
神様にですか? それは確かに、そうかも……
厳粛といいますか、畏まってしまう感じなんですねぇ。
[公女殿下を前に、カチコチに緊張するヤニクの姿を
ついつい思い浮かべて、微笑ましかった**]
重荷だなんて考えたことはないからな。
守りたいと思うものがあるから騎士団に入ったんだ。
それにお前はお前で、俺たちの分まで祈ってくれるんだろう?
[精神的に彼を頼っている者もいるだろう。
祈りは力になる。
それは彼から聞いたか、それともトラウマを埋め込んでくれた老神父が言っていたかは覚えてはいない。
しかし、それだけ伝えると。]
……笑っても良いが、誰にも言うなよ。
[少し拗ねたようにそう告げた。]
何をやらないとダメなのか。
そんな事位解ってるよ……。
[僕は、騎士団の人間だ。赤の狼だ。
でも、僕はそれ以上に父さんの子で。
それは、僕の様な適任はそう居ないと言う事]
[イアンに…。僕よりもずっと団長として適任に思えてしまう彼の存在に。
甘えてしまっている]
……最低だ……僕……
[もし彼が今この騎士団に居なければ。
僕以外に適任も居ない騎士団で、僕は言えなかったと思う。
『泣き言』を]
[『「弱さ」とは「恐れ」のヴェールに包まれる』。
赤騎士団の僕ですら何度も聞いた、セドリック副団長の言葉をこんな時に思い出す]
……言わなかったのは…。
…父さんが何も言わなかったのは…。
僕の、僕達の事。
信頼してくれていたからだと思うのに。
[それは、『弱さ』が無ければ、『恐れ』も無いと言う事。
―『恐れ』があると言う事そのものが、『弱さ』の証明だと言う事]
――くそっ……!
[見張り台の欄干はギリリ、と軋む。
まるで弱い狼の鳴き声みたいに、軋む音が虚空に融ける]
最低だ…。
[もう解っている。だから僕はそれを認める。
何て事ない。
僕はただ、その重責を恐れて居るだけだ]
[ 守りたい――! ]
[彼方の平原に揺れる、大きく蠢く獣の姿を前に。
この砦を、この騎士団を、この場所を守りたいと心も体も叫んでるのに。
ただ最後に、『弱さ』だけが振り切れない]
[朝を重ねる程に重く響いてくる、父親の偉大さ。
比例する様に高まる、期待と言う団長の重責]
僕が弱いから…!
[そんな時に、父さんを超える程の剣の腕を持っていた『彼』が居て。
いっそ彼に全て任せてしまいたい。重責を受け止めきる自信がない。
だから今も僕は…]
[父さんから、団長から、重責から、恐れから、弱さから――]
逃げてる。
[一粒に零れた涙だけは、同胞に響いてしまったか]
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