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[太刀を振り下ろすと同時、横合いから妖が大口を開けて迫り来る。
このままでは振り解くには間に合わない]
───南無三!!
[咄嗟、左手を太刀から離し、拳を握ると妖の口の軌道上に腕を突き出した。
そうすることで首への噛み付きを防ぎ、妖の動きを一旦止めようとする]
駆け抜けぇ!!
[そこに追い討ちをかけるように、余四朗は己が身を介し、雷を全身に巡らせ放電した。
自身にも影響の出る捨て身の一撃だが、密着した今なら一番効果が高い。
絡みついた尾、深く突き立てられた牙から高圧の雷が妖の身を駆け抜けた]
────っ、ぅぐ……
[焦げるような臭いが余四朗の身体からも漂う。
絡みつき、噛み付いていた妖はどうだったか。
少なくとも、余四朗を絡め取っていた尾から力は抜けたようだった]
………ぉい
[掠れた声を出しながら、相手に意識があるかを確かめる**]
[呼びかける声に反応は無い。
けれど、妖は余四朗を逃がすまいと着物を掴み、何事か呻いている>>+1]
ふよ?
………ちっ
[振り解こうと思えば恐らく着物を離させることは出来るだろう。
けれど、余四朗にはこの妖の言葉で気になるものがあった。
故に留めは刺さず、手を振り解きもせずにその場に座り込む。
正直なところ、このまま他の妖を祓いに行けるほど体力は残っていない。
移動するにも休息は必要だった]
[座り込んだ状態で己の具合を診る。
朱蛇や妖に穿たれた傷は幸いにも、と言って良いのか、先程の放電で焼かれ血止めが出来ていた。
頬の切り傷も同様、打撲は痣になっているようで、これは現状どうしようも出来なかった]
……おい。
ふよぉて、おんしん仲間けぇ?
[妖の意識が戻っているかを確かめるのも兼ねて、問いかけを一つ投げてみる。
本当に聞きたいことは別にあるが、いきなり切り込むよりは、と考えての問いだった*]
[風が渦巻き広がっていく。それはすぐ傍にいた、相反するはずの紫の影までも巻き込んで]
成仏する覚悟は出来たかい?
[言いざま、無造作に振った鬼丞の腕から放たれたのは、風の刃、なんの細工も無く、まっすぐに、美しい樹怪に向かっていく*]
……たぁく。
人巻き込んで陣張るなや。
[ぼやくように言いながら、巧みに撥を動かし旋律を奏でる。
風に逆らわず遮らず。
けれど、その存在を主張する影の力の広がりを織りなして]
さて。
とりあえずは……深紫、舞!
[鋭い声と共に、楽を奏でる。
その音色に応じて、深紫の鴉が風を追おうとする地の妖へ向けて、飛んだ。*]
[意識を戻した妖が向ける警戒の色>>+2。
そこに訝しげなものが混じるのを見て、余四朗は視線を外しながら、ふん、と鼻を鳴らした。
仕留めるのはいつでも出来る。
その自負があるため、今は己の中の疑問を解決することを優先した。
ただそれだけのことではあるのだが、言葉にしなければ伝わるまい。
しばし間を開ければ、たどたどしくはあるが妖から答え>>+3が返って来る]
……別種の妖、てぇゆうことけぇ。
[ふよう。さや。
少ない単語の中で、ふようが別の妖であり、さやがこの妖を示すことは知れた]
なんぞ妖か、知っとるけぇ?
[警戒の色を見せながら、問いには答えた。
ならば何もせずに問えば答えはするだろうと推測し、何の妖かと問いを重ねる。
太刀は手から離れていたが、身の傍にある。
余四朗もまた警戒を解いては居なかった*]
[風が渦巻き。
妖気持つ髪すらも、激しく揺らして吹き過ぎる]
悪いけれど。
あたしにも、放っておけないものが出来たんでね……!
[無造作に振るわれる腕。
見えぬ力の鋭さを、妖は既に知っている。
隙間なく突き出した根の防壁に身を隠すが]
く……
[刃はその壁を斬り裂き、圧し折った。
刃としての威力は減じたものの、妖の頬に一筋、くっきりと傷が走る]
随分と久しぶりだよ、こっちを傷付けられたのは。
[傷から朱色は流れない。
代わりに樹液に近しき褐色が、どろりと滲み伝ってゆく。
それを拭うこともせず、妖は両袖を地に向け振るう]
――そおら、
[隠し武器の如く地に落ちるは瑞々しき茨の蔓。
片腕につき十を超えるそれを]
お返しだよ!
[両腕を前方へ振るい、相手の頭上にて交差する軌道で投げ掛ける。
それらが重なり出来るは歪な網の目*]
[風の刃を放つと同時、その結果も見ずに、鬼丞は再び地を蹴って、風の力を借りて跳躍する。
風刃ひとつで倒せる相手とは思っていない、跳んだ頂点から重ねて風を放とうとした時、伸びて来た茨の蔓が目前に迫る]
ちっ!
[妖に向けて放たれるはずだった刃は、茨を切り裂くことに役目を転じるが、いかんせん、元が広域を狙ったものではなかったから、網の目のように繰り出された茨全てを切断するには至らない]
陣、じゃと?
[どうやら己が取り込まれたのは影の力によるものの方らしい。
出られるか否か。
そんなことを考えるより先に影が動く。
とっさにまだ残っていた土団子のひとつを投げつけるが、
とっさすぎて精度は甘い]
いいから散れい!
[小石と違い爆ぜさせることで広い範囲は賄える、のだが]
………、邪魔する気かのう?
[影の力の使い手に向けて鋭い視線もまた、飛ぶ*]
ほぅけ。
[知らぬ>>+4と言うのなら仕方が無い。
何が何でも吐かせようと言うような雰囲気は出さず、余四朗は直ぐに引いた]
ほぃじゃあ……
おんしとそん妖が会うたのはこん村でけぇ?
おんし、いつからここんおる。
[紡いだ問いは二つ。
少しずつ、疑問の解決へ近付けんと問いかけを続けた*]
[投げつけられた土団子
深紫は鮮やかな舞でそれをすり抜け、それを操る青年自身も、軽く飛び退く事で爆ぜるそれの余波を避けた]
……ま、そーゆー事やね。
あちらの旦那はあちらの旦那で、忙しいようやし……何より。
[鋭い視線
お前はいつかどつく、ってぇ決めとったんでな。
……その機会、みすみす逃すわけにはいかんのよ。
[口調は軽く、笑みも一見すると穏やかではあるが。
巡らせた陣の内、紫影揺らめかせて立つ姿はどこか危険な艶やかさを帯びていた]
……てぇ、わけなんで。
[撥が四弦を弾き、紡がれるのは妙なる音色]
紅緑、暁鼠、浅紫!
[同時、呼ばれた式たちが地を蹴る。
兎は正面、狐と野鼠が右と左から回り込み、その爪と牙を妖へと振るった。*]
[自身と同じ高さに会った男の体は、こちらが刃を受けている間に高く跳躍していた
咄嗟に上方へ広がる攻撃を選んだは好手だったようだ。
茨が切り裂かれ、ぷつぷつと断続的な痛みが腕へ伝わる。
しかし風の刃は全てを切り裂くには至らず]
そうら!
[腕を引く。
男を絡め取り、地へと引き摺りおろすために*]
ッ...!
[折り重なるようにして交差した茨の蔓が、風に弾かれながらも鬼丞の腕や肩を掠め、その刺で皮膚を裂く。
浅くとも、幾筋もついた傷からは赤い血が滲む。
引き摺り下ろそうとする、それを、風ではなく両手で握って引きちぎる]
やってくれるじゃねえか...
[飛び下がりながら、ぐい、と着物の袖で、紅く染まった両腕を拭い、鬼丞は嗤う]
そう来なくちゃつまらねえ...!
[下がった場所から再び跳躍、今度は、真っすぐにではなく、中空で軌道を変えて、怪の右横手へと跳んだ]
ひゅう、ひゅるり
[今度は振り抜いた両腕から、二つのつむじ風、左右に別れたそれは、地に降りて、土を抉り、小範囲ながら樹怪の根を断ち切ろうとするもの*]
[煌星の力に因る結界である所為か、少し胸が疼く。
やがて己の身に馴染んだ闇星の結界が混じれば、生き返った心地がして僅かに安堵し。]
こうしちゃあいられません、ねッ。
[味方の足を引っ張るわけにはいかない。
男は道中差しに渾身の‘力’を込めて]
うおりゃァ!
[風切り音を響かせて枯れた根に左手を拘束する根に斬りつける。
続いて時を速めた右足で蹴りあげ、枯れた根を破壊して。
拘束から逃れた男は地面に着地し、対峙する二人から距離を取った。*]
[避けられたと見れば深追いはすることなく立ち止まる。
そうして投げた視線も問いも真っ向から返される。
あちらの風操る退魔の者が用があるのは、
芙蓉かもう一方の妖か――は今は大した用件ではなく]
ほう、誰が、わしをどつく……とな?
ふっ、……ふふふっ、この期に及んで―――
[まだ“そう”言うか、という突っ込みめいた言葉の続きは、
紫影揺らめかせ立つ相手の雰囲気が常ならぬことからなんとか引っ込めた。
おのずと、笑みが深まる]
―――なんのっ、
[式を呼ぶ声に応じてこちらも手を打つ。
わずかに後退し地を三度踏み鳴らすとともに、
己の正面と左右、三方の地面が盛り上がり壁となった*]
[手がかりにしようとした問いで、抱いていた疑問の答えが返ってきた>>+5]
………ほんまに棲み処じゃったんか。
[返る言葉に疑いを持たなかったのは、答える様子があまりにも幼く無垢であるため。
こちらを警戒するならば答える必要も無いのに答え続けることも理由の一つだった。
得られた情報を繋ぎ合せると、この妖は村の者達に留められていたことが知れた。
人間との約束、村人が消えるまで続いていたと思われることから、お互いいがみ合う事も無く良好な関係を築いていたのだろう]
(じゃけぇ、人喰うゆうてしもうとるしな)
[実のところ、余四朗は共存する妖への対処をしたことが無い。
故にこの妖も言葉の端々から危険であると判じ祓う心算で居たのだが、戦う間に疑問が浮かび、迷いが生じ始めていた]
[身動き出来ずにこちらを見る妖の様子を見遣る。
余四朗よりも多い出血、衰弱した姿。
手を下さずとも放っておけば命を落とすやもしれない]
────だぁくそっ
[眉を寄せ、不貞腐れたような表情で余四朗は無造作に頭を掻いた。
ぼさぼさの頭が更に乱れる]
……旦那、聞こえぇか?
[分からぬ時は相談するに限る。
何かあったら呼べ、と風を付けてくれていた鬼丞へと声を飛ばすが、風の力はどれほど残っていたやら。
届く届かぬに関わらず、余四朗はしばし思考の海へと没する**]
[茨は相手の皮膚を引き裂くも、向こうから引きちぎられたが故に相手を地に落とすには至らない
短く不揃いになったそれらを枯らし、落とす。
茨に籠めた妖気諸共朽ちて散ったは、果たして相手に気付かれたか]
楽しんでられるのも今の内だよ!
[無論みすみす悟らせる気はなく、嗤う相手へ向けこちらも口の端を上げる。
正面から再び跳躍した、と見えた相手は、中空で軌道を変える。
横手へ回り込む動きに、根を張る妖は反応が遅れた]
ちっ……
[土を抉り、つむじ風が迫る。
根の先から地上に晒され断ち切られていくのを、神経が疼くような痛みでもって樹怪は感じる。
咄嗟に根を引っ込めはするが、それより風の勢いがずっと早いのは明白]
やられたね。
――でも、ただじゃあないよ。
[風を免れた根より地中の気を吸い上げ、妖の髪は紅に染まりゆく。
花弁が散り、つむじ風に乗って、上方へと巻き上がっていく]
先の意趣返しといこうかい。
[甘き痺れ齎す花の香りは、風に触れれば容易く吹き飛ばされてしまうもの。
しかし風に巻き上げられ空間を満たすならば、さて、どうなるか。
突破されれば守りの薄き己自身が晒されると知りながら、挑むように妖は笑む*]
[どつく、殴る、という言い回しは、ある種の戒め。
未だ少年の時分に引き起こした暴走──『影鬼』を名乗る所以とも言うべきその一件以来、そこは拘り通していた。
他者を滅するを示す言の葉は、積もればいずれ、己に返る。
それにより『人』の己が消え去り、本能のままに力を求める『人と妖の狭間なるモノ』だけが残るのを避けるための、言わば護りの言霊。
もっとも、そんな説明を逐一する気などはさらさらなく、故に、その辺りの事情を知っているのは退魔の師くらいのものだろうが]
物言いなんざ、どーでもいいだろーに。
……そのためにやる事ははっきりしとるんや。
[途切れた言葉の先は薄ら、察しがついたからさらりとそんな言葉を口にして。
深まる笑み
……ちぃ、さすがに守りは固いな!
[地を踏み鳴らす音
それなら……深紫!
[阻まれた獣たちは一度散らし、弾いた音は鴉に働きかける。
深紫の翼が一度空高く舞い上がり、真上からの急降下攻撃を試みた]
……まだや、二藍。
[動かぬのか、と問わんばかりの小鬼に返す言葉は素っ気ない。*]
――逃れたかい。
[そして攻防の間に、妖はもう一つの気配の動向もまた感じていた。
力を受けた根の成長の阻害
そのようなことの出来る力の使い手を、妖は知らぬ。
とはいえ逃れ切るには不足だったようで、男の左手足を戒めることに成功した]
[しかし、そこに結界――特に闇星によるものが張られた時、男が動いた
枯れさせていたこともあるが、根は容易く破壊され、男は拘束を逃れる]
ふん、悪くはないね。
[距離を取った男が次にどう動くかはわからない。
しかし警戒を怠れぬ相手であると、改めて認識する*]
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