22 共犯者
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「獲物」は一人離れて森の中を歩いている金髪の少年。
『忘却の罪には罰を。
我らは森に女と男の一対を捧げ。』
今回は俺のやり方で、儀式を遂行するぜ。
[そう同胞へ告げて、森へ入って行く。]
『罰』……か。
[ 音にはならない呟き。
森に入っていく同胞は追わず、離れた場所でその声を聞く。]
[ヘクターは最後に森に入ると、褐色の毛並みを持った大きな獣に姿を変えた。
狙うは大地への感謝と畏れを忘れた、あの少年――!
夜の闇に混じり、音を立てずにノックスへ近づくと、獣道から少年の身体を森の奥へ突き飛ばす。
そこで再び人の形に戻ると、ノックスに話しかけた。]
よォ。
…俺がどうしてお前をここへ連れて来たか、わかるか?
お前が何を忘れてしまっていたか、思い出したか?
[彼は状況を理解したか否か。こくこく、と頷いただろうか。]
んでよ、この儀式な、俺にとっても試練なんだよ。
[ノックスに向かってパピヨンを撃った銃を、引き金に一人差し指を引っかけたまま、手のひらを広げて見せる。
そして彼の目の前で、たった今空いたばかりの薬莢を取り弾を装填すると、ノックスに投げて渡す。]
――お前には抵抗の権利がある。
俺を倒す事ができれば、お前には至高の名誉が与えられるだろう。
銃の使い方はわかるだろ?
遠慮せずに使うといい。別に銃じゃなくてもいいぜ。
躊躇している暇はねえぞ。その間に俺がお前を殺す。
俺にとっては始めの獲物だからよ、こうやって堂々と命のやりとりをしたくてなァ。
[そう楽しそうに言うと、闘いの合図はこれから投げる木の枝が地面に付いた時だと伝え、枝を強く放り投げる。
枝が空中を舞う長い間に、距離を取り、じっと獲物を見据えて身構える。]
[一瞬で静寂は訪れた。
銃弾が放たれる前に、距離を詰め、ノックスの手首を捻り、体を密着させ、喉骨をえぐり出す。
そのまま手を返し、人間ではあり得ぬほどの鋭い爪で頸動脈をねじ切る。
少年は声を出す事ができぬまま自分の手を首に当て、それでも勢いよく噴き出す自らの鮮血を見ただろう。
血飛沫が掛かる前にノックスの手から銃を取り上げると、獣の姿に戻り、ソフィアにしたようにノックスの生き血を啜り、肉を喰らう。]
…おっと、アンタの分も残しておかなきゃな。
[「狩り」を終え満足した笑みを浮かべるが、また直ぐに挑むような表情に戻る。これは始まりに過ぎない。]
ノックス…汝の魂は、我らが祝福された地へ運ばれるだろう。
汝の血肉は我らが森に。
汝の血肉は我らと共に。
[ノックスに対し祝福の祝詞を上げ、聖なる地へ感謝を捧げる]**
[ 同胞がノックスと決闘まがいの仕留めたことは、映像こそ見えないものの、声とイメージから大体のことは読み取れた。]
……無茶をする。
[ 咎めるような声音ではないが、平坦ながらもそれなりに同胞を案じている響きが混じっている。]
安心しろ。
祝福されしノックス・ブラウン。
お前の家族は、我らが護るだろう。
[ふ…、と不敵な嗤いを返す。
同胞から不意にかけられた自分を案ずる囁きに驚いたのか、声色には嬉しさが薄らと混じっているようだ。]
─夜の森─
[ 巡礼たちの列を追って移動しているために、同胞とはそれなりに距離がある。]
このまま現場不在証明(アリバイ)という奴を作っておく。
そこに行けるのはかなり後になるだろう。
[ 淡々と声が伝える。]
ああ、そうしてくれ。
俺もそれが良いと思う。
アンタ自身の安全も重要だからな。
首だけ、例の聖地へ安置しておこう。
好きにやるといいさ。
[「血」の強さはヴェスパタインの方が格上だ。初めての邂逅で、彼は本能的にこの銀の同胞の力を理解していたのであった。]
[ 既にイアンに接触した事はおくびにも出さない。
素知らぬふりで警告を伝える。]
気をつけろ。
村長の妻を殺したことで、注目を浴びている。
無理はするなよ。
先代様、始まったぜ。
アンタは「人の子を信じろ」と言ったが…。
この村の有様を見たら、始めざるを得なかった。
アイツも俺も、人の子らに怒りを示すしかないんだよ。
おう、ありがとよ。
[ヴェスパタインが自分の身を案じてくれる事に素直に感謝する。
しかし、しばしの沈黙の後、儀式の後感じた違和感を同胞に伝えた。]
一瞬だが、ラトルの力を感じた。
もしかしたら、「視られた」かもしれねえ。
…ヘッ、なかなか簡単にいかねえもんだなァ。
[脳裏には以前「視る者」に告発され、人の子によって屠られた隻眼の古き同胞らの姿が浮かんでいた。]
ラトルの力。ラトルの血筋……
[ 同胞の言葉を反芻する。]
[ラトルの娘が近づいてくる。
やはり、俺を「視た」のだろうか。
一瞬だが、心臓が締めつけられたような気がした。]
まだ、月が昇ってねえ。
こんな人の目の付く所で、この娘を消す訳にもいかない。
先代様…立ち向かう力を。
[土中に眠る、かつての御使い様である老狼に、そう呟いた。]
このまま誰も通らなければ……。
奥の茂みに投げ込んで、第二の生贄にするのもアリか?
[相手の真意が読めないまま、慎重に応対していた。
アイツが見たらなんと思うだろうか。
…まあ冷たく嗤われるだけかもしれんよな。]
[肌が触れた瞬間、ラトルの娘の中から湧きあがる強烈な力を感じた。]
しまっ―――!!
[何やってんだ俺は!
あの娘の雰囲気に呑まれたか、
完全に視られてしまったかもしれない。]
……いや、あの娘は俺を信用している?
[ラトルの血を我らの味方にできるなら、これ以上に心強い事は無いだろう。]
ああ、そうさ、
俺は、変わんねえよ。
変わっちまったのは、お前たちの方だ。
[この少女に俺を告発する力はあるだろうか。
なんとか制御できるといいんだがな。]
[ なるべく生贄たちの前に姿を見せ、ノックスを襲う時間がないことを印象付ける。
そんなことをしつつ、彼がノックスが襲われた場所に辿り着いたのは、どれほど経ってからだろうか。明け方近くなってからだろうか。
屍の傍らに跪き、泉に口をつけるように傷口に溜まった血を啜る。
冷えて固まりつつあるそれは、まだ命のある獲物から熱い血潮を貪る時のような酩酊は生まなかったが、彼にひとつのことを伝えてくれた。
すなわち、]
これは血族か。
[ 同属の血統に連なる人間。人狼の末裔。
いずれかの同属が、かつてこの村の人間と交わったのだろう。その血がノックスの上にはっきりと現れていた。
しかし、今はただの屍骸に過ぎず、これはただの肉だ。]
[ 通常彼は時間が経って冷たくなった死肉は食べないが、彼のためにと残してくれた同胞のために少量を摂った。
屍の匂いが残らぬよう、気をつけて身仕舞をし、その場を後にした。
聖樹の下に残されたノックスの遺体はやがて虫達によって大地に還るだろう。
それを妨げる、無粋な人間たちが森に分け入って来ない限りは。*]
[ 音声に拠らない会話は、言葉よりも多くの情報を的確に素早く伝達してくれるが、相手が心を鎧い言語以外のイメージを送らなかった場合や、伝えたいイメージを絞らず雑多な感情をそのまま流した場合はその限りではない。
だから、彼に伝わったのは、同胞の焦りの感情だけであった。]
どうした?
何かあったか。
今宵の生贄は俺が選んでもいいのか。
それともまたお前が選ぶか?
[ 短い問い掛けだけを投げる。]
おう、アンタが撰べばいいと思うぜ。
俺も次の獲物を見てるが、まだ決まってねえしよ。
[候補は種々。
我等に反するものか、力を持つものか。
それとも只、本能のままに襲うのか。]**
……そうか。
ならばこちらも勝手に選ばせて貰おう。
そうしてくれ。
ただ、決めた相手は教えてくれよ。
アンタの考えてる事を…知りたくてよ。
わりぃな。
ホントはもっとアンタと話してえんだ。
[俺だったら、今夜はオスカーかミッシェル辺りだろうか、と考えていた。]
―ヴェスパタインの工房・日中―
[テッドが工房に招かれる前か後だったか。
今宵の獲物に付いて、同胞と話す前――
珍しく「ヘクター」が彼の工房に現れた。]
…よォ。
すまねえな、こんな昼間から。
さっきラトルの娘に会った。
俺は、どうやら「視られ」ちまったようだ……。
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