89 春の風邪村
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― 自室 ―
[ごろり。
寝返りをうって、スマホに指を滑らせる。
暫くして、ごろり。
もう一度寝返りを打ったところで。]
はぁあ………。
[大きな溜息をひとつ。
そしてスマホを持ったまま今度は仰向けに大の字に寝転がった。
お昼が過ぎて、いくらか経った頃。
テレビはお昼のワイドショーで、どこぞの芸能人の離婚騒動でもちきり。
スマホのソーシャルゲームは遊びつくして体力ポイントが溜まるまで何もする事が無い。
花奈は本格的に暇になったのだった。]
(@0) sunao 2012/05/09(Wed) 00時半頃
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…〜〜げほっ。 ごほっ、ごほごぼっ、こんっコン、ケホッ！
[喉に痰が絡んで、咳が続けざまに出る。]
ん、んん…ん゛んんんんんッ …ぺっ。
[しかし中々痰が切れなくて、長い咳払いをした後、痰をティッシュに出してまるめて捨てた。
嫌な感じの緑色をしていた痰も、以前よりは黄みがかっている。
その様子を見ると、ああ、治り始めているなあと少しだけ実感出来て嬉しかった。
しかし今日はまだ長く、寝るにしても午前中を睡眠で潰したから、眠気は無いに等しい。
さて、どうするかなあと思って、花奈はもう一度スマホに目を遣った。]
そういえば今日は静かだなあ。
[メールボックスを開けて、受信トレイを更新するが新着メールは無い。
昨日まではクラスメイトといくらかやり取りがあったが、今日はまだ誰からもメールが来ていなかった。
んー、と天井を眺め。
授業中にメールを送っても差し支えの無さそうなのは、と考えて。]
(@1) sunao 2012/05/09(Wed) 00時半頃
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宛 先：一馬
件 名：ヘイヘイ
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もうGWどころの騒ぎじゃなくなってる風邪マ
スターの花奈だよー
なんかねー、もうねー、辛い通り越して慣れて
暇になってきちゃって（笑）
海賊ナナコロンブスもお宝コンプしちゃって
もうやる事がなーい！
そっちはどー？
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[まず、一馬の下へメールを送った。]
(@2) sunao 2012/05/09(Wed) 00時半頃
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[花奈は続けてメールをさくさくと作っていく。]
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宛 先：りいな
件 名：（×_×）
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やほやほー
体調良くなってきたら暇になってきちゃった
この間はお見舞いありがとね
超嬉しかった〜！
今日はまだ熱下がらなくて行けなかったけど、
熱さえ下がればもう学校行けそー
完全復活近し！
あ、あとねー、元気になったらエリとマスド行
こうって話してたんだけど、りいなも一緒に行
かない？
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[作り終えると、二通目はりいなの下へ。]
(@3) sunao 2012/05/09(Wed) 01時頃
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[指はまだ止まる事無く。]
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宛 先：ホリショー
件 名：犯人はおまえだ！
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ふふふふ…死の淵から蘇ってきた花奈だよ…
君がジョージを迫害した事は既にバレている
裁きの時は近い
首を洗ってまっていろ！！！
学食のメープルワッフルサンド奢ってくれるなら
報復は考えなおしてもいいよ！
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[最後におちゃらけオンリーの三通目が赤堀の下へと送信されて、花奈の手が止まった。]
(@4) sunao 2012/05/09(Wed) 01時頃
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[あとはー、と考えながらアドレス帳を眺める。
リサは寝ているんじゃないかと思い浮かべ、碧と双葉は割と授業はまじめに受けるしなーと考察。
となると…恩田？
メール作成画面を開いて、話題を探してみるも中々文章が思いつかず。
結局作りかけたメールを破棄してメールアプリを閉じて、先に送った三通のメールの返信を待つ事にした。
花奈はメールを出した三人が揃いも揃って風邪にやられている事を、まだ知らない**]
(@5) sunao 2012/05/09(Wed) 01時頃
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『メールでござる！メールでござる！』
[メールアプリを閉じた途端、スマホが暑苦しい声でメール受信を告げる。
この着信音は、赤堀からのメールだ。
着信音を探している時にネタのつもりで視聴したこの着ボイスがやけに赤堀の声にそっくりで、大笑いしながら設定したのはまだ記憶に新しい。]
えっ うそぉ…
[メールを読み、赤堀が風邪をひいた事を知ると花奈はパチパチと瞬いた。
続く文にはこんにゃろうと思いつつも、最後の一文には共感しか出来ず、少しだけ可哀想な気分にもなる。]
(@6) sunao 2012/05/09(Wed) 01時半頃
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宛 先：ホリショー
件 名：Re:
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えっ ホリショーが 風邪？
何それ、でっかい釣り針なの？
と、思ったけど、何か本当っぽいね…
いやでも、私の菌じゃないよそれ！！
だって私GW明けてから学校行ってないし
濡れ衣だ！冤罪！あと犯行予告！
おまわりさん、こいつです！
やっぱりこれはメープルｒｙ
ちゃんと大人しく寝てなよー？
あと、水分まじ大事
あれないと大惨事なるよほんと
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[大丈夫かなあと思いつつ、花奈は届いたメールにそのまま返信を打った。]
(@7) sunao 2012/05/09(Wed) 01時半頃
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『アッオー♪』
[赤堀にメールを打ち終え、既に本日３回読み直した漫画を手に取ろうとしたところで、一馬からメールが届いた。]
さっすがー、返信はやーい。
[安定のレスポンスに賞賛を送りつつ、内容を確認する。
意外な返答に、おや？と首を傾げ。]
(@8) sunao 2012/05/09(Wed) 02時頃
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宛 先：一馬
件 名：Re:
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やー、なんかね、入院までしたらもうマスター
名乗っていいかなって気がしてね（笑）
華麗に復活したけど！
え、一馬休みなの？
どしたの一体
休むなんて珍しいじゃん
あ、もしかして私の風邪呪い残ってたかな☆
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[冗談を交えながら休みの理由を探るメールを送った。
赤堀に続いて一馬まで風邪で休んでる訳が、とは思ったが、彼は花奈の見舞いにも来ている。
もし自分がうつしたのならどうしようと少しだけハラハラする花奈であった。**]
(@9) sunao 2012/05/09(Wed) 02時頃
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『アッオー♪』
[程なくして、一馬からの返信が届く。]
えええ…嘘でしょ……、えええええ…
[内容を確認して、眉尻が下がる。
嫌な予感が的中してしまったようだ。]
(@10) sunao 2012/05/09(Wed) 03時頃
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宛 先：一馬
件 名：Re:Re:Re:
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ううん、ちょっと熱高くて夜中に病院行ったら
うちの父さんが心配して騒いじゃって…
ベッド空いてるからって押し込まれた（笑）
入院って言っても注射と点滴打ってもらって
ずーっと寝てただけだよ大丈夫
ってか、ほんとに風邪ひいたの！？
えええええ、お見舞い来てくれた時にうつし
ちゃったかなあ…謝るの私の方だよごめん！！
元気でもちゃんと暖かくして寝ておかないと
治らないからね？
私みたいになる前にさっさと治すんだよー！
ほんとごめんね（；ェ；）
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(@11) sunao 2012/05/09(Wed) 03時頃
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[送信ボタンを押して。]
……はぁああ…。
[今日一番の陰鬱な溜息を零す。
実際のところ、花奈のものがうつったのか、赤堀同様どこかから貰ってきたのか花奈にはわからないが、自分が原因かもしれないという可能性だけでどんよりとするには十分だった。
それから、ハッとしたように新規メール作成画面を呼び出し。]
(@12) sunao 2012/05/09(Wed) 03時頃
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宛 先：エリ、りぃな
件 名：えりいなー！
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今、一馬が風邪ひいたの知ったんだけど、二人
は平気？
風邪うつったりしてない！？
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[二人に向けてメールを打った。
しかし彼女達も風邪ひき真っ只中。
中々返って来ない返事に、花奈はしばらくやきもきする事となる。**]
(@13) sunao 2012/05/09(Wed) 03時頃
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お使い ハナは、メモを貼った。
sunao 2012/05/09(Wed) 03時頃
ハナは、エリをぎゅーっとして、しごと！**
sunao 2012/05/10(Thu) 13時頃
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― 回想 ―
[あれから。
エリとりいなのメールをやきもきしながら待って。
一馬からの返信に、少しだけ口元が緩んだ。
「病院ダメゼッタイ」といった内容のメールを送り返し、続いて来た赤堀からのメールには「主婦かよｗｗｗ」といった内容のメールを返信する。
結局エリとりいなからのメールがないまま、その日のメールラリーはそこで途切れた。]
(@14) sunao 2012/05/10(Thu) 23時半頃
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[次の日。
起床の時点で熱は３７度。
気分は今までに比べればすこぶる良い。
イケる！！！！花奈はそう確信していたが、父親にあっさりNGを食らい、今日も不本意なベッド生活を送ることになった。
父親は愛娘が高熱を出した事でナーバスになっているようだったが、花奈は悔しくて悔しくて仕方がなかったので、いつも欠かさず告げている「いってらっしゃい」を言わずに部屋に帰った。
その日、家を出る時の父親の背中は何処か寂しそうだったと、母は語る。]
(@15) sunao 2012/05/10(Thu) 23時半頃
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[案の定時間が経つにつれて少しずつ熱が上がったものの、７度前半より上がる事はなく。
サッパリとはしないものの、やはり高熱の後となると楽に感じられる。
熱の他には、軽度の鼻詰まりと、透明に黄味が少しだけ混じった痰の出る咳がごく稀に出る程。
だからこそ余計にベッドで寝ていなければならない事が苦痛でならなかった。
ふてくされたまま、ベッドに転がってスマホをいじる。
けれど、メールを打つ気分にはなれなくて、少しゲームアプリを弄った後スマホを枕元へと置いた。]
[その直後。]
(@16) sunao 2012/05/10(Thu) 23時半頃
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『りりりりん♪りりりりん♪』
[可愛らしい鈴の音がして、花奈は瞳を大きく見開くと、置いたばかりのスマホを慌てて手にとった。
この着信音は、エリからのメールだ。>>100
どきどきしながらメールを開けて、内容を読んで瞬時に眉がハの字になる。
そして口はへの字を作って。]
う、そぉおお……
[情けない声を発しながら、枕に顔を伏せる。
一馬に次いで、エリ、そしてりいなまでも風邪をひいているという。
見舞いに来てくれた全員が、風邪をひいたというのだ。
本当に自分がうつしてしまったのではないかという思いが押し寄せて、大変申し訳ない気持ちになりながら、あああ、と布団に足を絡めて抱きしめ、顔をうずめた。
少しそのまま腐って、またスマホに手を伸ばすと返信メールを作成する。
が。
書いては消してを繰り返して、悩みに悩んで３０分後。
返信メールはついに破棄されて、エリの下へ行く事はなかった。]
(@17) sunao 2012/05/10(Thu) 23時半頃
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[その日はそれからスマホを手にとる事なく果てしなくだらだらと過ごして、時刻は夕方。
夕飯を食べ終えた頃、父親がご機嫌取りに花奈の大好きなレアチーズケーキを買って帰って来たが、花奈はお見舞いの事を思い出してしまって素直に喜べず、浮かない顔のまま簡単に礼を言って部屋へと戻った。
父親への反抗のつもりはなかったというか既にそれどころではなかったが、愛娘のドライな対応に父親はショックを受けたらしく、その日の夜、風呂ですすり泣く中年男性の声を母親は聞いたという。
その頃花奈はぼーっとしたまま自室のベッドで寝転んで。
ごろごろと寝返りを何度か打った後。]
(@18) sunao 2012/05/10(Thu) 23時半頃
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……〜〜〜だぁああもう！
やめ！やめやめ！
[陰鬱な気分を吹き飛ばすように突然声を上げて、勢いよく起き上がった。
おかげでぐらりと眩暈がして、自らの行動に少しだけ後悔したがそれはいいとして。]
悩んでてもみんなが治る訳じゃないし…。
…ううーん、何か私に出来る事…うーん……。
あ。
[何かを思いついて、花奈はスマホを手に取る。
作成するのは、返信メール。]
(@19) sunao 2012/05/10(Thu) 23時半頃
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宛 先：エリ
件 名：Re:
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うわああああごめんー！！！
うつしたよね、絶対うつしたよね…
みんなが風邪ひいてるとは知らなくて、
私は大分元気になったよ…
うつすと元気になるって本当だったのかな
（×＿×）
私、さっさと学校復帰してみんなの分のノート
取る！取るったら取る！
だから、ゆっくりしっかり治してね？
あ、返信はなくて大丈夫だからねー！
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(@20) sunao 2012/05/10(Thu) 23時半頃
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[物凄い速さで入力して、その勢いのままメールはエリの下へと送信された。
それから布団を被りなおして、明日の為に眠る努力。
勝手に懺悔ミッションを自分に課した花奈の心に今や暗雲はなく。
あるのは”明日こそ絶対に学校に行ってやる！”という強い想いだけだった。**]
(@21) sunao 2012/05/10(Thu) 23時半頃
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