いッ……、っ
[ 無防備に晒した感覚器官の、――ひと際過敏なそこを摘まれたなら。それだけでヒトらしい仕草で眉間をぐ、と顰めさせ、苦悶を訴える。
まま壁に押し付けられるのにも、怯んだ身におよそ反応し切れる筈もなく。
痛みにひゅうと吸う喉奥、あまいにおいが水気を含んで滑り込み、欲に暈された視界が整っていく。]
――、ッ…あ、………俺、
[ 鼻を捕まえる正体の奥と焦点を合わせながら。苦痛に浅く息を吐いては、軽くその腕へ手を叩き解放をアピールする。]
――…、ま、た。
[ 見知る姿に気まずげに、面体で覆われていない瞳を逸らしかけ。
じわとのぼる血のにおいに耐えては、相手を確認する。生存欲。当然のごとく映る瞳のいろ。あまいにおいのしみ込んだ体に、じりと腹の虫を抑え込みつつ。
やがて状況を理解すれば、“ばつか”、と。諦観じみる声で尋ねかけながら。
これで何回目だったろう、ひとをほかを、襲うのは。秘密棟のすすけたにおいは鼻腔の奥染み付いている。
――いい加減、『処分』かもしれない、と。転がるくつわを一瞥しては、目の前の相手へ視線を戻し。言い渡されるだろう処遇を待った。]
(239) 2015/07/12(Sun) 00時半頃