― 現在 ―
[シメオン君の家を御暇した後、学生は誰も居ない家へひとり足を運ばせました。普段より朝早くから家から姿を消す、家族とは俄かに言い難い――言いたくない人々は、矢張り家の何処へも居らずに。ただ何か日常でない事が起こり早く帰って来られてもイヤだと学生は玄関を警戒しつつ、お風呂場へと体を滑り込ませました。
体を温め、髪を乾かした後には、違う鞄に教科書を詰め込みます。入ることならば旅先のパンフレットだって詰め込むこともあったかもしれません。学生は先の鞄より大きくなったそれを持ち、家を後にしたのでした。]
…――ティソくん。
[踵を鳴らし髪を秋風に揺らし、向かった先は級友の家。高台に在る其処は海の見晴らしも良く、朝独特の風に乗った潮が鼻孔を擽りました。ぐるり、辺りを一望し、遠くに飛行機の影を認め。伸びる雲は飛行機雲でしょうか。学生は久しく見るそれに目を細め、記念と云わんばかりに携帯へと収めるのでした。
コンコン、鳴る扉は数度。幾度か訪れた事のある彼の家を再訪するのは苦難でも何でも無く。然し中から彼の姿が出て来なければ、学生はひとつ息を吐いて、颯爽と大学へと歩先を向かわせたことでしょう。
(182) 2014/10/08(Wed) 00時半頃