―2F/居間―
[戯曲だろうか、詩的な文章が流麗な字体で書かれている。
その横の走り書き、覚えのある
先日、ある貴族の家でピアノの調律を担当したとき、試し弾きした曲の名前が見えた。「月の光――そのはじまりの部分をふと唇に乗せる。]
…、la la lalala ――la
[フランシスはこんな風に澄んだ声で音律を口ずさむことがある。それは唐突に始まり、唐突に終わる気紛れで幽かな演奏会だ。同行者であるドナルドやラルフは、子守唄めいたそれを何度も聞いたことがあるはずだった。
その実は、フランシスが自分に合っていると考える
衝動を抑える方法の一つ、であって。
だから。フランシスを古くから知る者なら、其れを覚えているかもしれない。]
…… la,
[透明感のある歌は小さいなれど綺麗なものだ。
――天才と称されながら声を失った少年が*今此処にいることを知らぬままで*]
(158) 2014/11/12(Wed) 03時半頃