─中庭/硝子戸の廊下─
[横文字が余り得意でないことから、どうしても繰り返し呟いてしまうのは、きっと櫻子から教わっている時の習慣でいて。
そのために意図せず柔らかく微笑を湛えた相貌が、くるりと変わってしまったようならば、指先をピクリと跳ねさせる。]
…存じ上げております。
[なんて、可愛げのない言葉で相手に恨めしいような視線を向けていた瞳は僅か揺れていて。
そのことに気を取られていたからか、彼の唇から紡がれる先生の名に。汲まれた心情には気付けず。]
………綺麗、でしょう。
[ふふ、と漏れる声は柔らかいまま。ただ刹那の間だけ、睫毛が震えてしまったこと。そのことに青年は気付いただろうか。
指を絡ませていたのなら、キュッと力を入れてしまっていることにも。
その当の花は自身の顔付きなど知らぬ様子で、二対の相貌を揺らすだけ。
少しずつ崩れる言葉遣いを責められなかったのなら、見るからに安心した顔付きへ。そのことは自覚していたけれど。]
(139) 2014/09/13(Sat) 11時頃