― 『朧の間』 ―
[部屋の中は数日前とたいして変わらない。
キッチンの前に置かれた開けっぱなしの段ボールも、灰皿に積まれたタバコの山も、彼が唯一恒常を破った>>2:244パソコンも。空になった洗濯カゴだけが、時間の経過を示している。
背後に続いていた足音>>80が己を通りすぎ、窓際へと向かった。その動きを阻むより前に彼の言葉が続く。澄んだ夜を抱えた背中、表情は読めない。]
……暴れて騒ぐ必要があるって分かって良かっただろ。
[身を傾けて落ちる危険も、危機ひとつ知らせられない壁も。指摘>>76を受けた時と違い、両者を遮るものはない。
止まった足を追い越し、開いたままの窓に手を伸ばした。
鉛筆はまだ十分な長さを有している。原稿用紙も多くの仕事>>1:3>>2:40を割り振られる程には有り余っていた。
アナログしか許されなかった時代とは違い、作家が筆を執る機会はめっきり減ってしまっている。
たいして話題にもなっていない作品だけを手に、バイトのひとつも抱えていない。
窓枠を押し広げるのは、ささくれひとつない、甘やかされた指だった。]
(93) Pumpkin 2021/02/21(Sun) 01時頃