―回想:暗い夜の森の中で >>54 >>59―
ここに、来れば……貴方が言う、「月が満ちる」のを、見ることが……できる、から、ですよ。夜の森に浮かぶ月は、全く異なる色をしている。その姿も、表情でさえも。
……貴方の居る間だけ、ここの月は異質のものになる……
それもまた、この「祭」で見える欠片のひとつでしょう……?
私はそれを知りたい。ただそれだけなのです。
[耳の縁の産毛に、「かれ」の息が掛かる。
全身がぞわぞわとざわめき、常のイアンらしからぬ、小さく上ずった声が空気を揺らした。]
なに……を。愚かな人間に対する戯れですか……?
[心臓が破裂しそうなくらいにばくばくと脈打つ。もしこれを村の誰かに見られていたらと思うと、恐ろしさと羞恥の心で生きていけなくなるのではないかとさえ思う。掌に、首筋に――いや、全身に汗が浮かぶ。夏の夜はすっかり冷えているというのに、己の全身だけがやたら熱い。]
[イアンはそっと月を見上げた。
――月はとても綺麗だった。]
(78) 2010/08/02(Mon) 18時頃