[手が止まった。
一冊の本の半ば、厚みのある紙が挟まっていて。
手に取ったそれは栞ではなく、可愛らしい手描きデコレーションの施されたカード]
……
[凝ったレタリングで記された文を、肩の猿が覗き込む。
小さな町に流布する、小さな噂のうちの一つ。
『悩み事や願いを書いたカードを図書館の本に挟んで返却すると、それが叶う』という──
デジタル時代にそぐわない古色蒼然とした手法が却って受けるのか、こうしてささやかなおまじないを実行する住民は一定程度いた]
……
[これが悪魔へ契約を誘いかける現代の黒魔術であることを、彼らは知らない。
小さな成就には小さな代償、大きな成就には大きな代償。それを等価と評するかどうかはその人間の受け止め方次第だろう。
しかしともかく図書館にとってみれば、普段読書に縁遠いようなジュニアハイの女の子達も本を借りてくれる切欠になるのだから、悪いことはない]
(70) 2015/08/01(Sat) 19時頃