[冷めてもそれなりに美味しい食パンをゆっくり、ゆっくりと食しながら道を歩く。
普通の学生を送っていた頃は、もっと慌ただしかった。喧騒を横に、高く昇った太陽に視線を向けては、緩やかに目を細める。
褒められた暮らしは全くしてないが、気が楽なのは確かだった。
髪を撫でつけるフリをしながら、空いている右手で後頭部を撫でれば、すれ違う人達との間に生まれる薄い薄い空気の壁に、ほう、と柔らかな息がこぼれる。
今もそうである事に、少しだけ、安堵した。]
……学校、もう無理かな。
[そんな事を書き綴った、両親宛ての手紙が一枚、二枚、机の中に眠っている。
薄桃の花が描かれたその便箋を買ったのは、入学間もない春の事だっただろうか。
――折角、学校の傍に一人暮らしをさせてもらったのに。
ふと浮かんだ自責の言葉にチクリと胸が痛む事に、また少し安堵して。口元が弧を描きかけている事に気づけば、しかとマフラーへと埋め隠した。
ゆらり、ゆらり。
左手に下げた食パンを揺らしながら、大通りを当てもなく歩く。
擦るような聞き慣れぬ靴音>>45を耳にすれば、はたと目を瞬かせ、その音の主を気紛れに探してみたか。**]
(56) 2014/10/01(Wed) 07時頃