[底冷えする心臓、けれどその音が道化を自称する者の喚く声よりも耳にうるさく響く。
この音を、目の前の化け物は消したのだ。
ヤニクによって固められた腕がギシギシと音を奏でる、死体を蹂躙するかのように、ふざけている化け物を見つめる目には憎しみの色が宿って砂糖菓子を食らう化け物を見つめる]
(そうよ……お菓子を手に入れないと帰れないのよね。)
(だったら、簡単じゃない。)
(目の前に人殺しの化け物が居る。)
(こいつを殺せばいいのでしょう?)
(やるわ、そうよ、私にはその力があるはずよ。)
[心の中に渦巻く黒い物に蓋をするように、未だ不自由ながらも少しづつ動くようになってきた腕に視線を落とす。
ヤニクの生きていた証はもうすぐ消えてなくなるのだろう、けれど今、自分の中にその証は確かにあるのだと、その腕にキスを落として、憎しみの目を花の化け物に向けて駆け出した]
(55) 2011/10/23(Sun) 14時半頃