[ゆっくりと抜き取られた銀貨を目に、彼女の迷いに似た何かを感じることは出来た。が、それでも尚目の前の大金を突き返す様子には理解出来ない、とでも言いたげに首を捻り。
何故金を選ばない、きっと直ぐに稼げるようになるであろう逸材なのに、何故、何故。浮かぶ疑問符を噛み殺すように口の端を引き上げ――、]
……ご忠告、どうもねェ。
[ひとこと礼を述べたのなら、巷で良く聞くヤツの名前。――鼠小僧。
警戒していない訳ではないが誰も姿を見たことが無いという都市伝説を鵜呑みにするのも莫迦らしい。掌に落とされた銀貨を手早く財布に仕舞い、ゆるり腕を彼女の方へ。腰を屈め柔らかな肌に触れながら]
どうか、アンタ――、
……あァ。志乃、ちゃんも気ィ付けなァ。
何せ奴ァ何でも盗めるって話だろう?
[彼女の何かが盗まれて金の匂いが薄らいでしまわぬように、と言葉を投げ掛けた。]
(53) 2015/01/18(Sun) 18時半頃