………覚えてる…?
[ぽつりと零した言葉には、何の感情も無く。脈打つ心臓に舌を打ちそうになりながら、幾つかの記憶を辿っていく。
叔父の元で働くと言った時の、父の激昂した顔。
珍しく料理などしてみて失敗した時の、母の呆れたような笑顔。
――昔は何処へ行くにも着いて来た、三つ下の弟の顔。]
………、覚えてる。
[そっと、耳の飾りへと手を伸ばし。
着いで自分のほっぺを軽くつねってみれば……当たり前だが、痛い。
――あゝ、まったく。無情なものじゃあないか。
もう二度と会えぬようになって漸く、其れを思い出すだなんて。
其れでも、これから何れだけの長い間こうして一人で過ごして行かねばならないのか――生き甲斐にしていた仕事も無く、誰とも話す事も出来ず。
其れを思えば、思い出した家族との記憶は慰みにくらいはなるかもしれない――かえって辛くあるかも、しれないけれど。]*
(48) ねこんこん 2015/01/30(Fri) 15時頃