― 伍区 ・ 茶屋前 ―
[そうして再び、新たな曲を入れ代わり立ち代わり 奏でる最中。
>>20静まることのない群衆の中から からん、ころん と、耳に届いたのは、何時かの下駄の音。以前聞いた物よりは、些か軽い足取りのようだったけれど。
音色を忘れやしないと そんな言葉は言葉だけの脅しでも、驕りでもない。
そう容易く意識を乱しては、三味線等弾いてはいられない。飽くまで意識は、自身の紡ぐ三味線の音に向けたまま だけれど。
それでも 小さくなった下駄の音に、ぴくりと眉を上げて。
そうして結局は近付いてきた足音に、上がる口角は隠せはしなかった。
そのまま弾いた一曲は、余程音楽に精通した人間にしか分からない程度に 早足になっていたかもしれない。
投げられる銭の音に、捌けてゆく人の声に。
じっくりと耳を済ませて、そして。
“気付かれてないと思ってんだとしたら、そりゃあたしを見くびってるよ” 、――などと、先に声を掛ける事もあったやもしれない。]
(43) 2015/01/22(Thu) 16時頃