―― 夢の中 記憶の片隅 ――
[その人は、どんな顔をしていたのか。 今はもう、思い出す事すら難しい。 その人は、真っ白な肌をした女の人だったのに。 足の色が、緑色だった記憶がある。 そんな人、いるはずがないのに。
その人が言うには、死んだ人は皆死者の国に行き。 死者の国の王の裁判を受け、その人に相応しい国に行くらしい。]
じゃぁパパは、そこにいるの?
[幼い私は、そう聞いた。 女の人は、頷くのみだった。 パパに会いたいか、とその人が聞くから。 私は、答えた。]
大きくなったら、会いに行くよ
[女の人は、緩く笑って。 強くなりなさいと、私に言った。 私が、強く頷いたら。 女の人は、闇にとけた。
気がついたら、私は病院にいて。 母が泣いたから、私も泣いた。 あの日から私は、あの人に言われた通り、強く生きている。 死は、終わりではない。 新しい、始まりなのだ。 だから、私は生も死も、ありのままに受けいれる。 悲しみも苦しみも、喜びと幸福に至る道。 どちらかを失う世界なんか、私はいらないの。 苦しい事も、辛い事も、受けいれる強さがないと。 あの人が、私を嘲笑する気がするから。]
(29) 2010/06/08(Tue) 11時頃