(やつじ さくや、さん)
[綺麗な名前だ。少し悩んだ様子を見れば、こちらも内心で少し慌ててしまった。名字ごと言い直したことには違和感を抱かず。
少年の過去も『悲劇』のことも、少女は知らない。]
『私は久音 沙綾です。くおん さあや。』
[文字では読み方が分からないかもしれないと、一応ひらがなで付け足す。表情がないことに、彼もどこか影のある人だと面々を思い出してぼんやり考えた。
ネックレスを綺麗だと言われれば、少し嬉しそうな雰囲気になったかもしれない。顔は依然暗いままだが。]
『妹から貰ったものなんです。』
[これを身につければ、いつでも一緒だね。
そう言ってくれたあの子。どうして彼女はここにいないのだろう。
分かっている。自分のせいだと、分かっているのに]
(……また誰か来た)
[返事をしようにも、声は出ない。
一度扉に向けた顔は再び床を見つめる。]
(23) 2014/03/02(Sun) 09時半頃