― 最寄駅より ―
[木枯らしが足元を駆け抜けていく。
空は秋特有の、濃い水色を刷毛で塗ったような凹凸の無い晴天だった。
重いロングコートを纏う五体は北風にもめげないが、四つ折りにした紙片を摘まんだ指先からは色が抜けていた。冬の足音が近づく11月にあって、指の末端まで血熱を送り届けるには若さが足りていなかった。]
寒いですねぇ、耳の奥がキーンと鳴ります。
[電車から降りて十分も経っていないのに音を上げる。
骨の芯まで冷やした冷気は、肺から呼気を追い出したように咽喉からも独り言を搾り上げた。耳の中まで北風に洗われているようだ。
自分よりもゥンと薄い紙片はピラピラ、ペラペラと悲鳴を上げっぱなし。
読み辛さに眉尻を下げ、黒革のビジネスバックを小脇に抱え直すと路傍で紙片を拡げた。
最寄り駅に丸が付けられ、更にそこから赤いインクが蛇行し、路地へと向かっている。]
(19) 2019/11/21(Thu) 23時半頃