―数瞬の後―
[御者は、起こった出来事をどこまで視認できただろうか。
すでに魔物の気配はなく、頬を緩ませた魔法使いが、御者の方へと近づいてくる]
数匹は手負いで逃がしておいた。まぁ、帰りに狩るつもりだが。
奴等の群がどれほどの規模かは知らないが、あれだけ力の差を見せつければお前が帰る際も襲ってはこないだろう。
私の臭いを、馬車に含ませておいたからな。
[あの時。馬車を止めた瞬間に、荷台から飛び出してきた一匹の白狼。
疾走する白い残像とすれ違った刹那、体を欠損し朽ち果てて行った魔物たち。
気がつけば、白狼のかわりに息一つ乱さない魔法使いが佇んでおり。
変わりがあるとすれば、首に巻いた狼の毛皮に、血痕が残っているのみか]
私たちに協力してくれる奇特な人間は貴重だ。
そんなお前を、おめおめと死なせる訳にはいかないだろう?
(5) 2013/06/09(Sun) 03時頃