-春-
『お嬢様は雪解けの季節を歩いていました。
それは現実の事かもしれませんし。夢かもしれませんし。
夢か現か、定かになるのはもう少し先の話です。』
『お嬢様は時計塔の傍に来ていました。
溶けかけの泥まみれの雪を踏みつぶすと、その高い尖塔の先の緑色の屋根を眩しそうに見上げました。
春の太陽が穏やかに、地上を温めていました。
小さな土筆が、溶けかけの雪の合間を割って顔を覗かせていました。
今日はお嬢様一人でしたが、きちんと爺とお館様にご挨拶をしてから出かけておりました。
お館様は、あのとんでもない脱走劇を後で聞かされて、酷く夢見の悪そうな顔をされました。
けれども、お嬢様に大きなげんこつを一つ作ったあと、黙って抱き締めただけで、特に小言を言う事はありませんでした。お館様としても、少し思うところがあったのかもしれません。』
(+5) 2013/11/24(Sun) 12時半頃