254 東京村U
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……、
[落ち着こう、と、思う。落ち着け、と自分に言い聞かせる。思えば昨日からの色々だ、悪夢の一つや二つ見てもおかしくはない。考え過ぎている、結局未だ気にしているから、妙な夢なんて見るんだ。 寝不足の疲れだってあるのかもしれない、 そうだ、気にするのはやめよう、これも忘れよう。そして今夜こそ早く早くに寝ればいい、]
……ん。
[考えつつ、珈琲を飲む。飲みつつiPhoneを眺めて、ふと、メールの新着に気が付いた。 五通。登録しているサイトからのものが二つ。携帯会社からのものが一つ。フィルターを抜けた広告が一つ。それと、秋葉からのものが一つ、だった。少し、指先が固くなる。丁度忘れようとしていたところで、それでも、やはり、頭に過る、 何か、わかったのだろうか、と]
(11) 2016/10/03(Mon) 01時半頃
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……あれ?
[ともあれ青年はすぐにそれを開き、 否、開こうとして、止まった。 開こうとタップしたのと、ほとんど同時に、そのメールは、 消えた。何のアクションもなく、忽然と。ゆっくりと画像の一部が変わっていく、クイズの一種のように、それが高速でなされたかのように、消えて、なかったものになって、]
………… ……あれ?
[青年は、また、同じ台詞を吐いた。 メール画面を見つめ、首を傾げる。 何故、]
[何故、ボクは、メールを開いたんだったっけ?]
(12) 2016/10/03(Mon) 01時半頃
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[ああ。ただ確認してみただけ、だった。それで、迷惑メールを消そうとしていた、んだった。すぐに「思い出し」、青年はその一通のメールを削除した。加えて他の三通のメールを既読にした]
(13) 2016/10/03(Mon) 01時半頃
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――――――――――――――― 先輩 言ってたやつ、またかかってきました? 他に何かありました?
もしかしたら、っていうの、見つけた かもしれないんですけど もしそれだったら、かなり、やばいかも
先輩、その電話の前に、 何か変わったも//////////////////
(14) 2016/10/03(Mon) 02時頃
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「……ねー、でさー! ほんとかなあ、アレ、カラスが運転してた、って!」
「まっさかーー、んなわけないじゃん! ホラー映画みたいじゃん、そんなあったら。 てか、怪談?」
「だよねー、まー、ありえないよね。 でも、マジだったら怖くない?」
「事故の時点で怖いっしょ」
「言えてる〜」
(30) 2016/10/03(Mon) 03時頃
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[女子高生だろうか、遠くない席から聞こえてくる話し声、高くよく響くそれに、やや意識が向く。西口交差点で起きた事故について、青年はスタジオにいる内に知った。スタジオを出て、解散するまでの合間、その未だ騒然とする現場の付近を通りかかっては、メンバーで軽く言及などしたものだった。 怖いな、と思った。事故や事件は本当にいつ巻き込まれるともわからない、明日は我が身かもしれない。そんな事を、人間は近く何かが起これば思い知り、そして、大方すぐに忘れてしまうものだ。自分もまたそうだ、と、思う。 奇妙な事故だ、とも思った。カラスが運転していた、だなんて、都市伝説の見本のような話、それが急速に広がっている様は、それ自体、非現実めいてすら感じられた]
(31) 2016/10/03(Mon) 03時頃
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[事故の話に向いた意識は、留まる事なく逸れる。青年には、それ以上に考えるべき事が、考えたい事があったからだ]
[数本灰皿の脇に転がした煙草、その一本を拾い上げて咥え、やはり傍らに置いていたライターにて火を点ける。細く紫煙を吐き出しながら、思考を巡らせる]
[…… 考えるといっても、 もう、その形は固まりつつあった。 あの子のおかげだな、と、その笑顔を浮かべて思う]
[自分は、……やはり、音楽を変えたくはない。 全く、でなくてもいい。なるべく、叶う限り。 その上で多くの人に聴いて貰えたならと、 伝える事が出来たのなら、と思う]
[だから、メジャーデビューについて、 敗走する羽目になるかもしれない、少し無謀な戦いとして、 挑戦、として、踏み出せたら、なんて、]
[きっと、わがままで、勝手な、想いだけれど。 素直なところの自分の気持ちを、 近く、切り出してみようと、思った]
(37) 2016/10/03(Mon) 04時頃
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…… あ。
[そうして考えていたから。 近付く姿に気が付いたのは、声をかけられて後だった。はたりと驚き、呼ばわった姿を見て、もう一度、驚く。 短くなった二本目を灰皿に押し付け捨てて]
…………えっと、
[眼鏡をかけた女性、その姿に。 返そうとした言葉は、詰まった。どう返事をするべきか――どう呼ぶべきか、咄嗟には、思い付かなかったから]
(38) 2016/10/03(Mon) 04時半頃
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……先、越されちゃったな。 今度会ったら、またナンパしようかと思ってたのに。
うん、勿論。
[笑う彼女に、また少しの間を置いて、青年も笑い、冗談めかした。戸惑いはあって、聞きたい事もあったが、何にしても。また会えればと考えていたのは、確かだった。 向かいの席を手の先で示して勧め]
……バンド、調べてくれたんだね。
[そうして彼女が着席したなら、 ひとまずの切り出しは、たわいなく]
(40) 2016/10/03(Mon) 05時頃
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有難う。嬉しいな。
[曲の感想を貰えば、返す笑みは今度は繕いのない、ぎこちなさをひそめたものになった]
多くの人に聴いて貰えたら、 一人でも多くの人に、……伝わったらって。 思って。
[言葉には先の思考も滲み。 ただ、全ての緊張を失くしはしないままに、青年はつと彼女を見据えた。聞いておきたい、と思った。聞かなければ、と思った。会った事があるかと、もう一度、 その名を、もう一度、]
え、
[そうして思い切って口を開こうとしたところで。先に相手から出た一言に、拍子、間の抜けた声が漏れた]
(44) 2016/10/03(Mon) 05時半頃
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……そうだよ。 ボクは、笹本樹、だよ。
[静かに、低く、返答の声は空間に落ちた]
[キミは、
そう続けかけた。あえて言い切らない断片。だがそれは、そもそも一文字さえ音にはならなかった。その前に彼女が言葉を継いだからだ。 覚えている? その問いに、すぐに返事は出来なかった。 記憶から引き出され揺蕩っていた名、 それとは別の名、 ただ、同じ「呼び名」を持った、]
(45) 2016/10/03(Mon) 05時半頃
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[随分高くなった空、 現のそれとは裏腹に、 鮮烈に青い一面の色が、 白く灼けた世界と目が眩む黒の影が、 にわかに、脳裏に広がった]
[耳元で蝉が鳴いている、 ような、気がした]
(46) 2016/10/03(Mon) 05時半頃
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……
[否定にも肯定にもなり切らない、沈黙が、 はじめに返した、こたえ、になった]
(47) 2016/10/03(Mon) 06時頃
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……たえちゃん?
[沈黙の後。ぽつりと呟き名を呼ぶ声は、昨日のそれとは似て非なるものだっただろう。疑問符の形の語尾には、異なる色が滲んでいただろう]
覚えてるよ、……覚えてる。 でも、
[変わった、という印象。 勘違いした、という認識。 どちらも言葉にせず、呑み込んで]
……わからなかった。
[代わりに零したのは、そんな一言だった]
(50) 2016/10/03(Mon) 06時半頃
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[懐かしさが、あった。何処かで会ったと感じた、それが事実だと思って見れば、改めて、一層に、懐かしさを覚えた。笑い方も、話し方も、大人になったその姿も、確かに記憶と通ずるものだった。 内にある、――鈴里みよ子の、それと。 奇妙な感覚だった。懐かしい、安心をもたらすような感情である筈のそれが、むしろ多大な落ち着かなさを、強い違和感を、生じさせていた。 石見妙子。その少女を、青年は確かに知っていた。 それを、けれども、その記憶は、……]
……意外、だよね。 自分でもこんな、バンドやったりするなんて。 昔は思ってなかったよ。 中学に入ってからさ、音楽、好きになって。
[さざなみ立つような心中を自覚しながらも、 唇は「旧知との真っ当な」会話を紡ぐ]
(53) 2016/10/03(Mon) 07時半頃
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……そっちは? 今、どうしてるの?
や、アンケートの事は、昨日知ったけど。 アンケートも、なんで始めたのか、とか、 ちょっと、気になるけれどね。
(54) 2016/10/03(Mon) 07時半頃
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ドリベルは、みょんこ、その名を抱く「面影」を、見つめながら。
2016/10/03(Mon) 07時半頃
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図書館の主、かあ。 はは。 確かに、毎日みたいに本借りたりね。 篭ったり、してたな。
大体そんな感じ、かな。 丁度仲良くなったのが、音楽好きで、其処から。 二人で楽器始めて…… それで今、ベースとギターしているわけだけれど。
[応え、話す、そのさなか、前髪に隠された視線は、その輪郭を追い続けていた。 半ば無意識に、「石見妙子」の面影を求めて。 己を納得させられる、証左を求めて]
(56) 2016/10/03(Mon) 08時頃
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[だがそれを見出せはしないまま。 遡る問いかけには]
ああ、……うん。 そんなもの、かな。 バンドのこれからで、少し考え事していて。 でも、なんだか、答えは見つかった気がしたところだよ。
[幾分はにかむように答える。 そして、今度は問いに答え出す彼女の声に耳を傾け]
(59) 2016/10/03(Mon) 08時半頃
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……、
お話を?
[思わず、復唱する。アンケートの実物や噂や、その手の活動の類例から、なんとなくに想像していたものとは、全く違った、意想外の単語が発せられたために。 同時に、何処かで、 「鈴里みよ子」を、殊更に、*思い出していた*]
(60) 2016/10/03(Mon) 08時半頃
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[それだけは。 そうしても。 彼女が口にする、その言葉には、声色には、表情には、それまでとは確かに違うものを感じた。溢るる鈴里みよ子の面影、それと違った、それが掻き消えたような、歪んだような、 なにか、 ひと時。なにか、の正体を考える間もなく、変化は溶け消えて]
……、
[何だろう、と思う、 代わりに考える、 何処か曖昧な、得体の知れないような、相手のいらえ。希望を叶えるお手伝いも、そう彼女は語る。お話を作る。希望を叶える。その言葉を重ねれば、それは想像していたもの、ある種の類例に、近いような、そう組み立てられるような気もして、 その実際についても。 彼女と記憶の相違についても、勝手な想像――その力で、青年は並べて折り合いを付けようとした]
(95) 2016/10/03(Mon) 18時頃
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[していた、ところで]
[それで、と彼女が切り出す、その声が途切れる。響く着信音。スマートフォンを取り出し応答する彼女の様子を、やや渇いた喉に一口冷やを流しつつ眺める。仕事だろうか、あるいはアンケートの、窺うでもなく考えて]
……?
[違和感。 通話までの僅かな躊躇いには、青年は気が付かなかった、通常の範囲の反応だと思った、けれど。何か、妙に緊張したような空気に、どうしたのだろうと思い、 ――彼女の肩が揺れる。スマートフォンが耳元から払われる。 その確かな異常に、電話の終了を待ち閉じていた口を開いた]
どうか、
[どうかした? そう尋ねかけて、止まる。着信音。ぴぴぴぴ、ぴぴぴぴ、 「信号」のパターン、無機質の電子音]
(96) 2016/10/03(Mon) 18時頃
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[空気が、固まる。冷え切る。彼女の「通話」の内容を、青年は知らない。ただ、その態度は明らかに異様で。それ以上に、聞き慣れた着信音が、青年には今、違って感じられていた。にわかに思い出す。感情が呼び起こされる。聞き慣れた着信音。聞き飽きた着信音。何度も、何度も、何度も、聞いたそれ、 昨夜に聞いた、]
……
[まさか、と浮かぶ思考を、違う、と思い込みたい希望が遮る。鳴り続けるそれを取り出し、画面を見て、息が詰まる。 非通知。 何処から? 誰が? 非通知。この電話は。いや、違う。あの、彼方、あの奇妙な通話とは違う、非通知ならば何もおかしい事はない、ガラケー時代と比べれば珍しいけれど、非通知のワン切りやら何やら、まれにはある事だ、怪しい電話番号のそれと変わらない、何もおかしくない、でも出ないべきだ、だから出ないべきだ、こういうものは返したら相手の思うツボなのだから、番号があるなら後で調べるけれど、そういつもそうする、非通知ならただ無視すればいい、無視し続ければいい、ただ切れればいい、 呼吸が速くなる。動悸がする。頭が締め付けられるような緊張。 そうだ出なければいい、出るな、]
(98) 2016/10/03(Mon) 18時半頃
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[思いながら、青年は、応答をタップしていた]
(99) 2016/10/03(Mon) 18時半頃
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…… っ、
[耳元に通話口を寄せた青年が、息を呑むのが。見る間に、蒼褪めるのが、彼女には明白に見えただろう]
なん…… 何っ、なんだよ、……!!
[低音が僅かに上擦り、掠れる、そうして荒く吐き捨て、着信を切り、画面側を叩き付けるようにテーブル上に置いた、その一連は見て取るまでもなく、尋常ではなく]
(100) 2016/10/03(Mon) 18時半頃
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[聞こえたのは、ざわめきだった。 あの彼方からの声と同じ、 否、それが、遥かに大きく、 近くなった、
無数の声、出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して 呻き、悲鳴、囁き、怨嗟、出して出して出して出して出して 笑い声
出して出して出して出して出して
出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して出して早く出して出して出して出して出して出して早く出して出して出しても出して出して出しもうて出して出して出して出して出すして出して出して出してすぐ出して出してもうす出して出して
もうすぐ ]
(101) 2016/10/03(Mon) 18時半頃
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……、
っ、 ひっ、 !
[混乱を露わに、青年は彼女の方へ顔を向けようとして、その半ばでびくりと震え、引き攣れたような悲鳴を零した。ばっと、後じさるように、テーブルを揺らし、背凭れに身を押し付けるように背をぶつける。 推せられるだろう視線の先は、テーブルの下に向き]
(102) 2016/10/03(Mon) 18時半頃
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…… あっ、 あぁ、はは、えっと…… なんでもない、……うん、なんでもない…… なんでもないよ。ごめん。……
[数秒、十秒、十数秒、一分の三分の一に満ちるか満たないかの間を置いて、青年は、笑み、言葉を紡いだ。 笑みは酷く引き攣っていたし、顔面はこれ以上なく蒼白で、何よりそれまでの全てからして、極めて不自然な「平静」]
ごめん、あの……ごめんね。 急に用事で……うん。 えっと、これ、メール書いてあるから、 今度連絡して。
[続ける、唐突な言葉。唐突な離席。 ただ名刺を取り出して差し出し、財布を取り出して中から珈琲分の小銭を出して脇に置きやる、その一連ばかりが、場には不釣合いなような悠長さがあって]
(103) 2016/10/03(Mon) 19時頃
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[躊躇うような数秒の間の後、テーブルのiPhoneを拾い上げる。何処かよろけるような動きで青年はギターケースを担ぎ、テーブルの脇に立ちあがって]
……またね、
■■■■ちゃん。
[最後に呼びかけた声は、その一部は、彼女には水の中で発せられたもののように不明瞭に。そして、青年とは似つかない、高音のものに、聞こえた事だろう。 青年は、ただ「たえちゃん」と呼ばわったつもりだった。呼ばわったつもりのまま、何の異変の自覚もなく。 彼女は同時に、それを見もした事だろう。
青年の右肩に、覆い被さられているかのように数房流れ落ちた、長い黒髪を。 首筋に、手足に、絡み付いた、無数の白い指を]
(105) 2016/10/03(Mon) 19時頃
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ドリベルは、みょんこの反応には恐らく気付かないまま、足早に去りゆいて。
2016/10/03(Mon) 19時頃
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― 某大型百貨店本店付近・コンビニ ―
[歩く。足早に歩く。走り出したいような衝動を堪えて、ひたすらに歩いていく。とはいえいつまでも歩き続ける事もなく、あてもないそれをやめ、青年は適当なコンビニエンスストアへと入った。 そういえばライター忘れてきた。使い捨てだからいいけど。買わないと。喉もまた渇いちゃったし。ジュースでも買おうかな。ああ、そうだ、夕飯はどうしようかな、赤羽着いてからでいいか、 浮かべるのは極めてたわいもない日常的な思考。それは無意識に先刻のそれを押し込めるようなものだったが、実際、ありふれたコンビニに入り、ありふれた店内放送を聞きつつ、ありふれた陳列を眺めていると、気持ちは休息に落ち着いてきた。落ち着いてきた、といっても、全くいつも通りには到底なれなかったが]
…… 、
[恐る恐る、iPhoneを取り出して見る。履歴は――また、消えていた。非通知の着信の痕跡は、其処にはなかった。息を吐く。ゆっくりと。ふと、奇妙な笑いが唇に出た]
(107) 2016/10/03(Mon) 19時半頃
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[あの場から離れたかった。あの場から――テーブルの下、奈落が開き、白い人人が蠢き、その無数の手を伸ばしてきた、夢に似た光景――離れたかった、 だから咄嗟に店を後にした、けれど。 あれはただの幻では、なかっただろうか。すぐ後に全部消えてしまった、あれは白昼夢でしかなかった、のではなかっただろうか。また来た電話だって、全部。全部、 彼女から見た自分の様子は、ただ異常でしかなかっただろう。それは、だが、――それだけが事実なのではないだろうか。それだけが。全て幻で、幻覚、]
…… はは、
[笑う。おかしくて。笑うしかなくて。微かな声で。 ボクは本当に狂ってしまったんだろうか? …… だとしたら、バンド名が洒落にならないな、なんて、 …… 片仮名混じりの文体が頭に浮かぶ …… そうじゃないとしたら? ………… どっちにしたって ……………… どうすればいい? ……………………]
(115) 2016/10/03(Mon) 19時半頃
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……、
[メールが来ているのに、気が付いた]
――――――――――――――― 先輩。 秋葉から話を聞きました。
まだ、電話は掛かってきてるでしょうか? もし、何か あったら、言って下さい
―――――――――――――――
(116) 2016/10/03(Mon) 19時半頃
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――――――――――――――― あれからは、少しも なかったら良かった、んだけど 鬼電ってやつかな
ねえ おかしなこと聞くけどさ ボクは正気なのかな ボクは正気だと思う?
ごめん、ほんとにおかしな事だね ―――――――――――――――
(117) 2016/10/03(Mon) 19時半頃
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[ああ、これこそ、正気を疑われるようなメールだ、なんて思いながら、木露にそんな文章を返信した。白く明るい店内の片隅で。窓外に広がる夜へ入る景色を*見やった*]
(118) 2016/10/03(Mon) 19時半頃
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― 夜・JR新宿駅西口 ―
[JR新宿駅の西口。ラッシュの最盛こそ過ぎれど、その名残も未だあり、人々が溢れた、人声が満ちた、閑静とは対極にある駅の一端。改札を入る前、広告で四方を埋めた角柱に、青年は背を預けるように立っていた。 青年は、電話をかけていた。 かける方は久し振りだな、なんて、不穏で下らない冗談みた思考を、頭に過ぎらせつつ]
…… あ。 てる? ごめんね、いきなり。 用事だって言ってたのにさ。
[程無くして、電話が繋がる。相手は、メンバーであり旧来の友である、ヴェスパタインだった。本名からの呼び名を始めとして切り出す、それに彼はもう用事が終わった事を口にし、 「……大丈夫か? 何か、あったのか?」 そう、気遣わしげに問いかけてきた。 その静かな調子に、浮かぶ顔に、少し不安が和らぐのを感じた]
(170) 2016/10/04(Tue) 01時半頃
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……、…………
[沈黙。切り出すまでの間。どう切り出したらいいのか、切り出してもいいのだろうか、悩む合間があって]
……てるはさ。 もし、ボクが、オカルトな…… 例えばそう、幽霊に追われてるとか、そういう事。 そういう事で、困ってる、って言い出したら。
どうする?
[躊躇いがちにもそう口にすれば、今度はあちらが沈黙する。緊張が高まる。長い、否、青年には長いと思える、空白が空いてから、彼はぽつりと言葉を発した]
『……正直、すぐには信じられない。 俺は、オカルトは……幽霊なんていうのも。 信じてはいないから。
でも、お前がそう言うなら信じたいし、 どうにかしてやりたいと、考えると思うよ』
(181) 2016/10/04(Tue) 02時頃
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…… そっか。 有難う。
うん、いや、何でもない。 何でもないんだ。 別に、何かあったとかじゃ……ないから。
…………うん。 じゃあ、また明日。
[彼らしい、生真面目で真摯な物言いに、微かに笑む。明日雄一も一緒に夕飯でも食べようという、その提案に同意を返した]
『……今、駅か何か、か? 少し、聞こえづ な、騒 しく 』
[ふと、疑問形に零された声には、そうだよ、と返事をした。何も、気になどしなかった。駅か何かかという、それは、その通りであったから。騒がしい駅に、あったから]
――また明日。
[その言葉だけ、繰り返して]
(182) 2016/10/04(Tue) 02時半頃
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― 赤羽・自宅 ―
[それから一時間も経たず、青年は自宅に帰り着いた。部屋に上がり、電気を点ける。照らし出される室内、テーブルの上に残る紙を見れば、やはり胸は騒いだが、あえて考えの外に置き。 置いて、それでもどうしても、落ち着かずに。ひとまず、普段から半ば以上閉め切っている――主には本が灼けるからだ――カーテンを、全て閉め切った。 夕食を取る、といっても食欲はなく、栄養ゼリーだけを啜る。時計を見る。早い時間。予定していた通りに、すぐに寝てしまおうと思う、思い、その前に、少しだけ、リンフォンを進めようと考える。パズルなどやれば幾分気も落ち着く、そう、昨夜と同じ事を、]
(183) 2016/10/04(Tue) 03時頃
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[尾鰭だけが出来ていたリンフォンは(いつの間にか、尾鰭が出来ていた、それは)、順調に形を変えていった。考えた通りに、指先の作業と思案に没頭していると、何もかも忘れられるようだった。十二分に気を逸らせた。 次々と成っていく様は、この状況でも楽しく感ぜられもして。
右鰭が出来る。 (リンフォン――RINFONE) 背鰭が出来る。 (完成したら、何になるの?) 顔らしきものが出来る。 ( 私は気が付く事はなく)
これで左鰭が浮かぶのだろう、突起を掴む。 ついに出来る。もうすぐ、完成する。 もうすぐ、]
…… もうすぐ、?
[頭に浮かぶ。思い出させる。重ねて聞いた声。 もうすぐ。 それは、何が、何を、]
(186) 2016/10/04(Tue) 03時半頃
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[かちり、と、 突起が押し込まれ、そして現れる、 小さな音が、やけに大きく、部屋に響いた]
(187) 2016/10/04(Tue) 03時半頃
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[何かが閃く。 頭に閃く。 全てが、突然に、浮かび、重なり、繋がっていく]
[文字が、赤く、脳裏を流れていく]
[―― RINFONE]
(188) 2016/10/04(Tue) 03時半頃
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[何かの気配を感じて、 視線を感じて、窓を見る]
[いっぱいに カーテンが開かれた 窓の外 赤く染まった空を背景に
無数の目が こちらを みていた **]
(189) 2016/10/04(Tue) 03時半頃
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― ■■ ―
[走る、街を、走る。 見慣れた街。けれども見慣れない街。赤い空、赤く染まった、赤と黒の、朽ちのない廃墟、人のいない、誰もいない、赤い街、 知らない街、 その只中を、走っていた]
……っは、……はぁ、……!
[あてもなく。 だが止まる事も出来ず、走り続ける。 背後に迫るそれから、逃れるために]
(253) 2016/10/04(Tue) 21時頃
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……あ゛っ、 は……
いやだ、嫌…… ああ、あぁあ、あぁ……
[漏れるのはすんでで言葉になる程度の迷妄。 幼子のような詮無いもの。 だがそれ以外にどうしようもなかった、あまりに非現実的な、あまりに絶対的な、何にも勝る根源的な強大な何にも勝る恐怖それ自体のような存在に状況に、青年に抗う術などなかった。 涙が滲む。荒い息と共に、唾液が零れ落ちて]
(264) 2016/10/04(Tue) 21時半頃
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[走りながら、 今にも縺れ転びそうになる足を走らせながら、 青年はiPhoneを取り出し、通話を試みる。 もう通じなどしないのかもしれないと思いながら、 まず選んだのは、木露に向けて]
(266) 2016/10/04(Tue) 21時半頃
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|
[傍ら、
青年の電話番号を知る者は、 メールアドレスを知る者は、 どちらも知らずとも、青年と関わりある者は、
それを受け取ったかもしれない。
あるいは、「彼方」と発信元の出る、応答したとしても何の音も聞こえない、奇妙な悪戯電話としか思えない電話を。 あるいは、発信元がシステム的にはありえない完全な空欄になっあている、赤い空らしき不鮮明な添付画像だけの空メールを]
(268) 2016/10/04(Tue) 21時半頃
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[発信は、ややあって切れた。 やはり繋がらないのかと思ったところで、 今度は逆にかかってきた電話、 表示される木露の名前に、急ぎそれを取り]
(273) 2016/10/04(Tue) 22時頃
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『……あっ…… き、木露? 木露だよね、なんだよね、ねえ、
駄目だ、駄目なんだ、どうしよう、どう……どうすれば、 やばい、あぁあ、 ――呼ばれてたんだ!!
あれはっ、地獄の、(耳に痛いようなざわめき)』
[通じた後には、彼はそのような声を聞いただろう]
(274) 2016/10/04(Tue) 22時頃
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『ど……何処に、 家にいたんだ、でも、違って、 気付いたら赤くて、赤い、あのパズル、 リンフォン、が、出来たら、
赤い世界、赤くて、……知らない街…… 何処、……何処なんだよぉ…… 彼方なのか? 彼方、 地獄、 ボクは、
追ってくるんだ、追ってくる、もう……
(277) 2016/10/04(Tue) 22時半頃
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助け、 助けて……(先よりは小さいざわめき)
助けて、くれ、(高音の女の笑い声)
あ、』
(278) 2016/10/04(Tue) 22時半頃
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[直後、彼の傍らにいた人間にも聞こえるような、 低音が上擦りひきつれたような、叫び声が響き渡り。 通話は、ぶつりと、切断された]
[それ以降。 電話をかければ、いつまでも通じず。 メールも返信はいつまでもなく、 青年は、音信不通に、なった]
(279) 2016/10/04(Tue) 22時半頃
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[手が伸びる]
[手が伸びてくる]
[手が、奈落から、……――]
(280) 2016/10/04(Tue) 22時半頃
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[住人を失った、三階の一室。 其処には歌詞らしきものが書かれた一枚の紙と、 電源が入ったパソコンのみが、際立って存在していて。
二十面体の姿は、 元からなかったように、何処にも、ありはしなかった]
(281) 2016/10/04(Tue) 22時半頃
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[青年の失踪は、数日経ち、バンドの公式サイト・ブログから報告がなされ、Twitterやネットニュースの話題に上がった事だろう。TVや新聞の大手メディアには一部だけ欠片だけ取り上げられる形ながらも、ネット上では、随分に。 「解放治療カルテ」、そのファンによる悲痛は勿論、 そればかりでなく]
[某バンドの失踪したベースは、悪魔崇拝、終末論、そのような類の、異常な思想に傾倒していた。結果、地獄の実像を、世界の真実を、知り、ついに発狂してしまった。 音はそれらを歌詞に、曲に、二つに分けて残した。 曲はネット上に不明の音源ファイルとして回り、 歌詞はメンバーによって隠匿されている。 二つが合わさると地獄の門が開くという、 実際を、防ぐために]
[そんな、*都市伝説として*]
(287) 2016/10/04(Tue) 23時頃
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