172 ねむたい村
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[机に突っ伏したまま、薬師寺と不動の会話を聞く。 既に会話の意味を理解する力はだいぶ落ちていて、単なる音にしか聞こえなかった。 起きていたとしても、理解できるような内容ではなかったかもしれないが]
[会話が単なる音としかとらえられなくなると、一層眠気が増した。 ミミズのような字がのた打ち回る紙切れを眺めていたが、自然と目蓋が下りてくる]
(8) bou 2014/04/13(Sun) 03時頃
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[寝てはいけない。このままでは塩西の二の舞だ。 彼のように嫌な仕事を押し付けられるのは勘弁願いたい。それが庭仕事だったりゴミ置き場の掃除だったらなおさらだ。
このまま眠気に負けて仕事を適当に宛がわれるとして、教太郎が虫嫌いだという事を配慮してくれる人は居るのだろうか。 薬師寺や不動はある程度配慮してくれるかもしれない。土井辺もあるかもしれない。ゴロウは果たしてどうだろう。
そもそも、一人暮らしをしている奴が虫位対処できなくてどうする、と言われたらその通りでしかないとは思っている。 それでも避けられるのなら、全力で避けて通りたいが]
(9) bou 2014/04/13(Sun) 03時頃
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[寝てはいけないと思ってはいても、眠気を意識だけで押さえられるにはもう限度を超えていた。 酒を飲んだ事で少し上がった体温が、じわじわと突っ伏した机へと移っていく。机に映った温もりが心地よくて、一層だるさが増した。上体を起こすのも、目蓋を上げるのももう億劫で仕方が無かった]
…………………〜〜、 …
[声を上げれば眠気が覚めるやもと口を開こうにも、もううめき声すらまともに上がらない]
[そのまま、自分が起きているのか寝ているのかの自覚もよくわからないまま、教太郎は机に突っ伏した状態で静かになった**]
(10) bou 2014/04/13(Sun) 03時頃
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[べそをかく土井辺に気付けぬ程、教太郎の意識は眠気の奥にまでいっているようだ。毛布がかけられても礼をすることも身じろぐことすらなく、むしろより深い眠りへと誘われていく]
[眠りが深くなったおかげか、夢を見た気がした。 …言い方が曖昧なのは、眠っているのに気付かなかったせいもあるし、見た夢が過去の記憶で、ただ回想しているだけにも思えたからだ。
寝る間際に虫の恐怖を思いながら眠りについてしまったせいだろうか。 それは、虫が嫌いになった日の記憶だった]
(29) bou 2014/04/14(Mon) 01時頃
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[教太郎には幼馴染が居た。実家の仕事の関係で知り合った、有塚繪里子という、花農家の娘だ。 歳も同じ、学校も一緒で、畑と田んぼ以外に何もない道を二人でよく遊んで帰ったものだった]
[小学生に上がってからの初めての夏。 その時も、その辺に転がっていた木の枝を振り回していつもの通りに二人で帰っていた。 例え、遊ぶものなど何もない帰り道だったとしても、地面に落ちた小石でも葉っぱでも、自分の影すら玩具にして遊ぶのが子供と言うものだ]
[その日、幼馴染が見つけた玩具は蟻の巣だった。
田んぼの横に流れる浅い川の近くで見つけたそれを、幼馴染はひどく面白がった。 捨て犬に餌を上げる感覚だったのだろう。おやつにする為残していた給食の蜜柑を彼女は剥いてアリの巣のすぐ近くに置く。
しかし蟻には少々大きすぎたのか、警戒心だったのか。 その両方だったのだろうが、なかなか蟻は地面に置かれた蜜柑を巣穴へと持っていこうとしない]
(30) bou 2014/04/14(Mon) 01時頃
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[少々気が短く、また子供らしい思考を持ち合わせていた彼女は、 「巣穴が小さくてきっと持っていけないんだ」と言った。 そうして、教太郎の横で手にした木の枝を使って蟻の巣を掘り起こし始めた]
[巣穴を荒らされた蟻は当然パニックを起こしたように大量に湧き出てきた。何を思っていたのか、その傍に居た幼馴染と教太郎の足の上に大量の蟻が登り出す]
[足の上を這う蟻のあまりの数に同じくパニックを起こした教太郎に、幼馴染は「川で洗い流そう」と叫んで言った。
よくよく思い出せば気付いたのだろうが、その時の教太郎に余裕など微塵も無かった。
―――入った川には蛭が居ると、祖父に教えられていたことを忘れていたのだ]
(31) bou 2014/04/14(Mon) 01時頃
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[結果。濡れた足に蛭をくっつけたまま大泣きで帰ってきた教太郎は、示村家全員に散々笑われて出迎えられた。 …同じ目にあった筈の幼馴染の女の子が一切泣いていなかったのも相まって]
[恐怖と散々笑われた恥ずかしさが幼い頭にしっかりと植え付けられ、その日以降、教太郎は虫が苦手になってしまったのだった]
[それを助長させる幾つかのエピソードも、またその幼馴染によって起こされているのだが、幸いにもこの時の教太郎の夢には出てきていない]
[十数年後、現在の教太郎は眉間に薄くしわを寄せながら、机の上でようやく就けた眠りを満喫している**]
(32) bou 2014/04/14(Mon) 01時頃
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[日が昇って、朝日が差す頃には教太郎は目を覚ます事だろう。 いつの間にか毛布が掛けられているのに、首を傾げながら。]
[……ところで、とある虫はビールを好む という雑学をご存じだろうか >>2:54]
[残念ながら今回のケースが通説通りだった上で、その日の教太郎にとことん運が向いていなかったなら。 床に落ちたままのビール缶の傍に、不穏な影が通ったかもしれない]
[そうして、寝起きから騒ぐ羽目になるだろう。 彼の独り立ちはまだまだ遠そうである**]
(33) bou 2014/04/14(Mon) 02時頃
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