254 東京村U
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俺は退院したら、暫くこっちで勉強して…受験、してみようかと思っててさ。 仕事はどうも、なくなりそうだし。時間も空きそうだし───多少の貯金くらいは、これまでもしてきたからね。
せっかくだから、大学を受けてみようと思うんだ。 丁度こっちに、うちの寺の宗派の大学があってさ。 K大学って世田谷の。知ってる?
[大学名を挙げて従妹へと視線を流す。これは自ら長い時間で悩み、考え、そして母とその後上京してきた父とも話して決めた結論だ。自分に出来るだけのことを試したいのだと、その為にも再び学び直したいのだと話した結果、経済的支援は受けないとの条件で了承を得た。]
(144) dia 2016/10/09(Sun) 22時半頃
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俺は結局、決められたままの道が嫌だったんだよね。 寺の長男だから寺に入って、後継いで。
でも嫌だ嫌だとだけ言って飛び出したけど、自分の望みなんて分からないままだった。何でもいいから家を飛び出して、あてもないままフラフラとしていただけ。
だから───、もうやめたんだ。そういうの。
(145) dia 2016/10/09(Sun) 22時半頃
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この年だけど、俺はもう一度挑戦してみるよ。 澪音ちゃんと同じ、高校の勉強をし直してみる。
澪音ちゃん、今度得意分野を教えてくれないか? 現役相手に聞けたりすると心強いから嬉しいんだけどな。
[従妹相手にお願い一つ。以前よりも柔らかな印象の笑みで穏やかに頼みを告げて、目を細めた。]
(146) dia 2016/10/09(Sun) 22時半頃
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俺──…迷ってたんだよね、ずっと。 ずっと、出口が見えない迷路の中で。 もがいて、あれこれと探し回っても出口がまるで見えなくてさ。 でも気付いたんだ。…やっとわかったんだ。
入口も出口も結局は同じものだって。 気が付いてしまえば出るのなんて簡単なんだ。 出口は気付けばいつだって出られるくらいに、すぐそこにある。
……だからね。俺はもう迷わない。 迷わないで行けるとこまで進んでみようと思う。 進んだ先が、元からあった道に近くなったとしても、さ。
[独り言めいて落としてすぐ、照れたような笑みを浮かべた。 誤魔化すように「頼むね」と再び添えて、東蓮寺琉衣は随分と動くようになった左の手のひらを、確かめるかのように軽く握った───*]
(147) dia 2016/10/09(Sun) 22時半頃
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(148) dia 2016/10/09(Sun) 22時半頃
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─ 新宿不動産 ─
[退院後、やはり辞職することとなった新宿不動産に手続きの為に顔を出した。同僚や、正社員のオネエサマ方は随分と心配した顔を見せてくれたものだが。 その反応も、……今は暖かい、ありがたいものだと素直に思う。 余裕だのポーズだのと、捻くれたような気持ではなく。
顔を出したついでに真嶋家のマンションのことを聞き、そこで初めて日菜子がベランダから落ちた事故の話を聞いた。 一家は今もそこに住んでいるらしいと聞いて、頷いた。 あとできっと、訪ねてみようと内心思う。]
(149) dia 2016/10/09(Sun) 22時半頃
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えっ、いいんですか? ……、分かりました、ありがとうございます。 では、お言葉に甘えてこれは頂きます。
[頼んであった写真>>1:270を渡された。 記念だからとお金は要らないと渡された封筒入りの写真を、せめてもの気持ちと共に受け取り懐に仕舞う。]
(150) dia 2016/10/09(Sun) 22時半頃
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[新宿不動産の入るビルから出れば、聞き慣れた街の雑多な音が身を包み込む。何となく少しだけ切ない気持ちでそれを聞いていた時、見渡すように見遣った先に見覚えのある女の子の姿を見つけた。
訪ねようと思っていた人の姿に、東蓮寺の目が少しだけ大きく見開かれた。]
───日菜子ちゃん!
[雑踏に負けないよう、大きく呼べば彼女は振り向いたか。 ああ、彼女も覚えているだろうか、あの不思議な白い迷宮を。 まるで知っている街なのに見知らぬ場所のようだった、あの不可思議な巨大迷路を。]
(151) dia 2016/10/09(Sun) 23時頃
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元気そうで良かった。 事故のこと聞いたんだ…それで、おうちを訪ねようかと思っていたんだけども。
[ここで会えて良かったと、笑顔で告げ。 少し言葉交わしたのちに名を問われれば、あっと小さな声を上げて笑い、己の迂闊さを謝った。]
ああ、そうか。そうだったね、ごめん。 俺の名前は───…
(152) dia 2016/10/09(Sun) 23時頃
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[彼女が覚えているのなら、あの不思議な迷宮の話を再び語ろう。そして小さなハナコの思い出を語らおう。
そうしてひそやかに、そしてささやかに。 不可思議な体験は静かに共有されていくのだ。 人の口の端に上らなくとも…確かに、そこにあったはずのものとして。]
(153) dia 2016/10/09(Sun) 23時頃
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(154) dia 2016/10/09(Sun) 23時頃
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[あれから、東蓮寺琉衣が奇妙な迷路に踏み込んだということはない。時にはあれはやはり、夢ではなかったかとも思う。
それでも、折に触れてふと思ってしまうのだ。 あれは一体どこであったのか、と。 街行く時に道の端に見つける見覚えのない小さな路、その先は見知らぬ街に通じていたりはしないだろうか…、と。
人の心が作り上げる幻想迷宮、果たしてあれはそれだけのものだったのだろうか?鈴里にだけ通じた通話、あれは真に夢の出来事であったのだろうか。
確かめる術は最早なく、それでも日常は淡々として流れゆくのだ。まるで何ごともなかったという顔をして。]
(155) dia 2016/10/09(Sun) 23時頃
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……はあ…っ
[今日も人でごった返す新宿駅で満員の電車から開放され、東蓮寺琉衣はひとつ大きく息を吐いた。
新宿ダンジョン。 そう呼称されることもある巨大な駅は、今日も世界で最も多いといわれるほどの人間たちを飲み込み、また送り出していく。 小路は人知れず生まれ、また消えていく。 店はめまぐるしく入れ替わり、街は人に違う顔を見せ続ける。 街並みは今日もまた少しずつ、確実に変貌を遂げていくだろう。
新宿の街は今日も人々を呑み続ける。 変わり続ける眠らない街…それはまるで、変化を続ける巨大な生きた*迷路のように*]
(156) dia 2016/10/09(Sun) 23時頃
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――――冗談じゃねぇ!!!
(157) fuku 2016/10/10(Mon) 06時頃
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こんなところで大人しくしてられっか!!! オレは、家に帰る!!!!
[一二三は、大急ぎで部屋においてあったジャージを着込み、部屋を出ていく。]
(158) fuku 2016/10/10(Mon) 06時半頃
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[――――一二三が部屋を出た途端に聞こえる、館内放送の声。]
(159) fuku 2016/10/10(Mon) 06時半頃
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『おはよう、李沢くん。随分とぐっすり眠っていたけど、お疲れだったのかな?』
[玄関を出て、廊下に出ると一二三は館内放送には耳も貸さず、脱出への経路を探す。]
(160) fuku 2016/10/10(Mon) 06時半頃
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『おやおや、無視とはまたつれないなぁ。これからウチの事務所の仲間として歓迎しようと思っていたのに。』
[一二三はエレベーターを見つけると、エレベーターの下りボタンに手をかける。]
(161) fuku 2016/10/10(Mon) 06時半頃
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クソッタレが!!
[エレベーターのボタンは反応しない。一二三はエレベーターを諦め、非常階段を探す。]
(162) fuku 2016/10/10(Mon) 06時半頃
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『ハズレ。エレベーターを使えるようにするとか、そんなヌルい真似、すると思う?』
[一二三は階段のドアに手をかける。]
(163) fuku 2016/10/10(Mon) 06時半頃
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『鬼ごっこって本当にテレビみたいな展開だよね。手荒な真似をして悪かったとは思うけど、話だけ聞いてみる気は無いかい?』
(164) fuku 2016/10/10(Mon) 07時頃
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『君には、ウチの事務所の新しいアイドルグループの一員として頑張ってもらいたいんだよね。』
放送が聞こえた途端、一二三の足がピタリ、と止まった。]
(165) fuku 2016/10/10(Mon) 07時頃
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はぁ?????
[頭のなかでとどめきれない困惑が、絶叫となって廊下に*こだまする*]
(166) fuku 2016/10/10(Mon) 07時頃
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― 株式会社 黒い鳥 新宿オフィス編集部 ―
[黒い鳥の現場は、ひどく混乱していた。
営業部部長の川端、 副社長兼副編集長の今井、 編集部班長の新渡戸という、 社の中核を為す人物らが一斉に退職したからだ。]
(167) fb15k 2016/10/10(Mon) 15時頃
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[ある日突然、彼らはAOTORI本社 社長室へと呼び出された。 本社から戻った彼らは、みな一様に蒼白な顔をして、荷物をまとめて、人目を逃れるようにそそくさと帰宅していった。 それが、最後の出社日だった。 事前の社内告知も、引き継ぎも一切なく、陽炎のように消えていった。]
(168) fb15k 2016/10/10(Mon) 15時頃
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[社内には大きな変革が為された。 大宮社長兼編集長は、副社長兼副編集長へと降格。本社執行役員の新森が出向し、社長兼編集長へと就任するらしい。 新渡戸班は解散、所属していた編集者と手持ちの案件は別の班へと振り分け。 営業部は副編集長の山田が繰り上げ昇進で部長となった。
とにかく、人手が足りない。面接キャンセルとなった希望者にはこちらから連絡し、日を改めてこちらに来てもらうこととなった。(>>33)
社長が変わって以来、本社との連携が密接になり、その黒すぎる勤務形態が明るみになる。 今までは暗黙のうちに握り潰していた本社も、さすがに現場の惨状を見ては考えを改めたのか、勤務形態への変革へと動くこととなった。 手始めに、タイムカードの偽装強要を禁止。来期からは連続勤務日数に制限をかけるらしい。 それらの変革が現場にさらなる混乱を産んでいるという側面もあるものの、健全な向きへと舵を切り直そうとする本社と新社長の動きは、概ね好意的に受け止められていた。]
(169) fb15k 2016/10/10(Mon) 15時頃
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[なぜ、彼らは突然辞めてゆく事となったのか。社内には、未だ様々な憶測が飛び交う。 黒い鳥の上層部も、その仔細を聞かされてはいない。 その理由を知るのは元社長兼編集長の大宮と、本社の一握りの関係者、
そして]
(170) fb15k 2016/10/10(Mon) 15時頃
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[編集者の出目と、作家の木露のみ。]
(171) fb15k 2016/10/10(Mon) 15時頃
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[今日も黒い鳥が鳴いている。 喧しい鳴き声は、慌ただしい編集部の中へ溶けてゆく。
ベッドの下の斧男。 部屋へと侵入した男。 twitterで写真を送り続けた男。
彼らはみな別の人物で、偶然に同じ時期につきまとい行為が重なっただけだと言う。 一体どのようにして、斯様な行為を行ったのかという問いには、みな記憶がないのだと言う。
嘘のような、ほんとうのはなし。 その真実はどこにも広まらず。
物議を醸す色々な噂も、うたかたのごとく、
ふわりと浮かび、やがて消えていった。]
(172) fb15k 2016/10/10(Mon) 15時頃
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『朝のニュースです ── 日、午後四ッ谷のマンション五階から出火した火災は、昨夜未明に鎮火しました。
燃えたのは一室のみで死傷者数は1名、身元は現在調査中とのことで──』
(173) miseki 2016/10/10(Mon) 16時頃
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