182 【身内】白粉花の村
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[呼び止められる声>>23に彼女はきつく目を閉じ駆け出す。得体の知れない恐怖、罪悪感、自責の念、よく解らないネガティブなものが頭の中を支配していた。
無我夢中で走ると、ぐらり と歪む視界。 彼女は壁を背にしてへたり込む。先日突発した眩暈は未だに止むことはない―どころかその勢いを強め、最近では眩暈どころか意識の維持が精一杯という所まで進行していた]
…潮時ね。
[彼女は荷物入れを漁り、先の一件の時に処方された薬を口の中に放り込む。もはやその効果は薄れ通常の用法の3倍量を服用する様になっていた。
死期が近い。そう感じていた。]
…あら?あの張り紙…
[夢中で駆けていた為、何処へ向かったという訳でもない。目の前には掲示板があった。 今日も転院者を知らせる張り紙が出されたのか。そう思いその紙に視点の定まらない視線をやると、彼女はその目を見開いた。]
(25) 2014/07/04(Fri) 01時半頃
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レティーシャ…? クシャミ…?
[覚えのある名前に朦朧とした意識をかろうじて繋ぎ、掲示板に寄っては間近で確認する。 確かにその名前は「自分と似た者」達二人のもので、何も告げずに去ってしまったその水臭さと、仲間はずれにされたような疎外感を仕返すかのように感じて。彼女は覚束ない手で荷物入れを漁りペンを取り出し、その二人の名前の中心に線を書いてその頭上を三角で覆った]
これで、よし… 相合傘…ずっと仲良くして居なさい。二人で…
[治療の見通しが立った彼らはいい。だが自分はどうだろうか。限界を感じ、こんな所にへたり込んでいる。彼らとまた「仲間に戻れる」未来はあるのか。不安にかられながら薬が体内に巡るのをただ待つだけだった]
(26) 2014/07/04(Fri) 01時半頃
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[殆ど意識もせずに漏らした言葉を、その意味を、じわじわと頭が理解し始める。
ずっと奥底に押し込めて目をそらして見ない振りをしていた物を、 まさか自分の言葉で認識させられるとは思ってもいなかった。 感じたのは口にしてしまった後悔とかそんなのよりは、 脱力感に似た何かで、なんだか無性に気が抜けた。
首筋に当てていた手を、止められなければゆるゆると退いてく。 自然と横に逸れた視線は、伏し気味の位置で一度留まる。]
――…なんで泣いてんの?
[横目の端に僅かに映った儘だった兄の顔を、何かが零れ落ちていく>>21のが見えて。虚ろがちだった瞳に、怪訝めいた色が乗った。
涙を流させるような事を、言っただろうか。 思い当たるのは先の言葉くらいだけど、それが涙に繋がるとは到底思えない。 兄が泣く所なんて、久しいどころか記憶に残っているかすら怪しいのに。
すぐに拭われてしまったそれに向けていた視線を下げると、 半端に崩れていた体制を、背にしたシンクに凭れなおして正して。]
(27) 2014/07/04(Fri) 02時頃
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気のせいでしょ、
[僅かに瞼を伏せて、吐息を零すように、何処か自嘲めいて薄く笑う。 之だけぐだぐだと同じ所に留まって動けないでいるのに。
何が不満で、何が不安なんだよ。 置いて何処かへ行けるくらいなら、もうとっくにそうしてる筈だ。
どうしたらいいかなんて。何より分からないから答えられるわけもない。]
…は?
[不意に引き寄せられた身に、えらく間の抜けた声が出た。 常なら抱いていた筈の嫌悪感よりも困惑が優って、 抵抗も忘れたように弛緩じみて突っ立ってる。 思い出した所で、そもそも抵抗する気が、何でか湧かないんだけど。
その全部に戸惑ったように視線を彷徨わせて、 のろりと腕を持ち上げると、相手の腕の辺りを軽く掴んだ。]
(28) 2014/07/04(Fri) 02時頃
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[押し退けようと小さな抵抗を示す細い腕>>24には気付いたけれど、離すつもりは毛頭無く。か弱い力が、少女の衰弱を物語っているようで、不安は煽られる。 嘔吐は取り敢えず収まったようだ、とひとまずほっとしたけれど。]
……うん、そっか、ローズマリーのせいじゃないんだね ………デメテルも、悪くない。頑張ったね
[必死に何かを伝えようとするデメテルを落ち着かせるように、頭を撫でる手は止めずに。
やっと自分も落ち着きを取り戻すことは出来たみたいだ。視線だけ動かして辺りを確認すれば、机の上に転がっている紙コップ。中からは元々入っていたであろう飲み物が零れてしまっている。そのままデメテルの視線を追って床を確認する。吐瀉物の中の白い液体を見れば、大体の流れは分かったように思う。
ちがう、ちがう、と必死にローズマリーを弁護する少女を見たら、水分を含もうとしたのは、デメテル自身なのだろう。 それでも、彼女は、自らそれを吐き出した。その事実が、とても嬉しいことに感じて。]
頑張ってくれて、ありがとう、デメテル
[思わず抱き締める力を強めてしまったけれど、苦しくはなかっただろうか。]
(29) 2014/07/04(Fri) 02時半頃
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[目は逸らしたまま、ゆっくりと引いていく手>>27を横目で見送りながら。 怪訝そうにかけられた疑問に、かっと目元を染めた。]
な、…いてない。 ……おまえだって、
[今にも泣きそうな顔をしていたじゃないか、と。そう指摘するのは自分の恥まで認めるようで癪だけれど、反射的に言い返す。 不可抗力で熱を持つ顔を、無理やり袖口で押さえながら、けれど目を合わせることはせずに。 これはただの生理的なものだと、口の中で呟いた。 ――溜まりに溜まった感傷やら衝動やら、そんな全てを飲み込んで溢れた雫は、さっさと白衣へ染みて消えてしまえば良い。
伸ばした腕が拒絶されなかったことには、自ら仕掛けた上で驚愕したのだけれど。 こうしてただ素直に触れるのは、それこそ一体いつぶりなのだろうと、そんな事を思いながら。むずかる子供のように、自分に似て柔らかい髪に、ゆるりと顔を寄せる。]
(30) 2014/07/04(Fri) 03時半頃
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[ぽつりと落とした自分の懸念に、気のせいだ、などと言われたところで。>>28 この子供が――あと数ヶ月も経たないうちに、自分を置いてってしまうと。 自分は誰よりも、知っているはずなのだから。
なかば恨むような心地のまま、腕を掴んできた手には、思わずと身体が震えた。拒絶される前にと、手早く先の答えを紡ぐ。]
……置いていける訳がないだろ。 おまえが居なきゃ、…駄目なんだ。僕は。
[言葉だけを取れば、とうてい弟に掛けるものではない。それでもどうせ理解しているだろうと、こじ開けられた本心を隠しもせずに、言葉に乗せた。 かといってどうすれば良いかなんて、濁された返答から汲み取れはしなかったのだけれど。]
………、
[弟が常のように拒絶したならば、そのまま退がって距離を置く。 もしもめぼしい抵抗がなかったとしたら、回した腕を強く引いて、その肩口に再び顔を埋めるだろう。
どうしても今は、顔を合わせたくはなかった。 すっかり常の調子に戻ってしまった弟が、僅かに憎らしくて仕方がない。自分はまだ、ようやく呼吸が落ちついたばかりだというのに。]
(31) 2014/07/04(Fri) 03時半頃
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[大量に投入した薬が体に廻る。ぐにゃりと歪んだ世界は治まったけれど。今度は体が重い。薬効が脳を刺激する。彼女は壁に肩を押し付け、立ち上がり移動する]
…いい事、思いついたわ…
[朦朧とした意識の中、彼女は思う。太陽を浴び、自然に身を預ければどれだけ楽か。緑に塗れて 花に塗れて この意識を預けられたらどれだけ幸せか。]
…中庭、まだ行った事無かったわね…
(32) 2014/07/04(Fri) 04時半頃
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―中庭
…あら? [目の前の、藍色の花弁を見ては こんな花あったかと思いつつもその色彩に目を細める。学術名「アサガオ」そう呼ばれていたか その花は確かに力強く咲いていた
その先を進むと、紫陽花が広がっていた。 懐かしい色彩ひとつ その目で確かめると挨拶もせず去った少女を思い出し、彼女はなれない鼻を鳴らすのであった]
…あら?
さんかく… 紙飛行機…?
[紫陽花の花の上に墜落した、文字のある飛行機を解く。 その折り目は正確で、読むのに容易だった。]
…レティーシャ? [転院の知らせ、治療の吉報。それは先程掲示板で知ったとおりの事実だった。
(33) 2014/07/04(Fri) 06時頃
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…、僕は、泣いてない。
[自分がどんな顔をしてたかなんてよく分かんないし。泣いてないんだから一緒にされても困る。 実際にも泣いたんだけど。少し前に。 そんなの忘れたと言わんばかりに、憮然とした表情を浮かべて否定を向ける。
袖口で覆われた顔の下はどうせいつもみたく真っ赤になってるんだろう。 第一そんなんじゃ、隠しきれてない。]
(34) 2014/07/04(Fri) 13時頃
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―…っ、 …かわいそーな奴。
[一瞬、息が詰まった。恋人か何かにでも言うような台詞>>31の中の真意が何処にあるかは多分、分かってる。さっき自分で指摘したばかりだから。 可哀想な僕がいないと、自分の価値が揺らぐのが、怖いんだろ。 何かの錯覚ではないかとすら思うけど、そんな事告げる必要はない。 相手がそう思っている限りは、大丈夫だ。むしろそうでなきゃ駄目だ。 自分だって、そんな可哀想な兄に必要とされることでしか、自らの立ち位置を把握できないんだから。
俺も可哀想だけど、アンタも十分可哀想だ。 捻じ曲がった同情を押し付けて、 そうやって安定を保つ。大丈夫、今迄通りだ。
強く引き寄せられる慣れない感覚に幾らか身が強張ったけど。 呼応するように腕を掴んだ手にぎゅと力を篭めたけど。
乾いていた瞳がじわりと湿っていくのを感じたけど、今なら多分バレない。]
(35) 2014/07/04(Fri) 13時頃
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ごめん、
[吐き出した謝罪は、文字通り何れは置いていく結果になるだろう事にか。 矢張りどうあがいても歪んだ感情の捌け口にしかならない事へか。 今迄散々繰り返しえ来た我儘に対してか。
よく分かんないけど謝った。]
(36) 2014/07/04(Fri) 13時頃
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[院外にあるポストを確認していたら、珍しくも手紙が届いている事に気付いた。 そっとそれを裏返してみれば、『レティーシャ』と。先に転院した女性の名前が書かれていて。 その事実に気付けば、ふ、と。笑みを浮かべる。どうやら元気でやっているらしい。
誰に向けられて書かれたのか分からないそれを開けて良いものかと逡巡して、開けなければ宛先も分からないのだからと自分を納得させる。 出来るだけ丁寧に開いてみれば、出てきたのは三枚のメモ書きで。
《1枚目》はマリーに。転院したこと、お酒に付き合ってくれたお礼、それからマリーの体調を案ずる内容を纏めて。右下には紫陽花のイラストを添えて、大事に育ててあげてねとコメントを書き足した。
《2枚目》はネルに。気遣ってくれたお礼とまたお話しようね、お互いの病気が治ったら絵本を読ませてね、なんて内容を転院したことを伏せて。
二枚のメモには、それぞれその様な事が書かれていた。 ああ、これは後で二人の部屋に届けておかなければ。そんな事を考えつつ、何気なく三枚目のメモに目をやる]
(37) 2014/07/04(Fri) 14時頃
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……、
[――奇病を煩った患者に感謝されたのは、初めてではないか。 紙一杯に書かれた感謝の気持ちに目を細めて、ふ、と。笑みを洩らす。少しだけ涙腺が刺激されたけれど、まあ、誰にも見られることは無かっただろう]
[二枚のメモをそれぞれ別の封筒に入れ直して、ローズマリーとネルの部屋にそっと差し入れる。 彼女の注文通りにしっかりと送り届けたのを確認してから、再び笑みを作ると来た道を戻って行った]
(38) 2014/07/04(Fri) 14時頃
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[可哀想だ、と>>35。 自分が先に掛けた言葉を返されて、ぐっと息を詰めた。引き寄せる腕に自然と力が入って、それが一体何の抱擁なのかも理解らなくなる。]
……………、理解っ、てる。
[――自分よりも下の相手につけ込んで、それで自尊心を満たして、そんな自分が惨めだってことくらい。 弟の前でだけは絶対に言ってやるまいと思っていたけれど。 言わないままのその本心を見抜くのも、結局は弟だけなのだ、と。 そう理解してしまえば、もう虚勢を張ることすら億劫で仕方がなかった。
自分を拒むことはせず、ただ掴む力を強めた手に、悟られないよう深く息を吐いて。 弟に向ける感情の、その全てが利己的なものではないとは、きっと伝わっていないだろうけれど。]
……、何、?
[そこで小さく聞こえた謝罪の声>>36に、ふと目を上げる。曖昧な響きのその言葉に、まだ少し熱っぽい瞼を瞬かせた。
弟からの謝罪なんて、ずいぶんと長い間、聞いた覚えがない。 何があろうと、たとえ弟自身に非があってそれを本人が自覚していようと、頑なに口にはされずにいたその言葉に。 謝られているのだと理解するまで、僅かに時間が必要だった。]
(39) 2014/07/04(Fri) 14時半頃
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何、を、…謝るんだよ。
[そうして、その貴重な謝罪の言葉は、いったい何に向けられたものなのか。 まるでやんわりと拒絶されたような気がして、顔の熱が引くのも待たずに、思わずゆるりと身を引く。弟の腕を振り払うまでには至らなかったけれど。 反射的に恨みがましい言葉を吐こうとして、それより前に、潤んだ双眸に目が向いた。]
……やっぱり、泣いてるんじゃないか。 なんで泣くんだよ、…おまえこそ。
[理解できないことがあまりに多すぎて、得体の知れない感情に荒れた気持ちは、中途半端に彷徨う。 謝罪の言葉とともに泣きそうな顔をされれば、あどけなさを残した顔は、常よりも更に子供じみて映った。]
[――また泣いているのか、と。 自然と浮かんだ思いは、ずいぶんと昔に置いてきた記憶だけれど、――今までろくに感じずにいた罪悪感を覚えて、表情を曇らせる。
散々暴れまわったおかげで乱れた低い頭に、わざとぞんざいに手を置いて。 幼少期の反復めいて、泣き止まない子供をあやすように目元に近付けた唇が、許されるのか。その衝動の理由が何なのか。 冷静ぶって、その実かき乱されたままの思考で判断するには、まだ至れない。]
(40) 2014/07/04(Fri) 14時半頃
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[転院の報せ それは本来なら喜ばしい報せであるのに、何故その紙がこんな形で放ってあるのかと考えれば、それを理解出来る事は無くて。 個室の連なる窓を眺めると、成る程窓から放られたのだ。と、折り目の付いた紙を見て納得する。]
…レティーシャ。 貴方は今、どんな気分かしら?
[この手紙を受け取った時、あの少女は何を思ったのだろう。そして今何を感じているだろう。 ふと上を見上げると、青い空は何処までも繋がっている気がして。]
(41) 2014/07/04(Fri) 14時半頃
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[フラフラとその歩みを進め、彼女は休息を求め自室へと戻る。 そのドアを力なく開けると、足元に見慣れない>>38封筒。]
…何かしら
[重い体を引きずり、封筒を拾うとベッドに身を投げる。 横になり封を切ると、思い掛けない差し出し主に彼女はその目を細める。]
(42) 2014/07/04(Fri) 15時頃
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…ふふ。
[何も言わずに去ってしまった事の報せを文で受けては、その「らしさ」に微笑む。 端に描かれた可愛らしい絵を眺めては、部屋に活けられた紫陽花を見る。]
…大切に、するわよ。 少なくとも…私が大丈夫な内は…
[その文を抱きしめる様に胸に握りしめては、傍の薬箱を開ける。 無茶な服薬が祟り、もうその中身は空だった]
…ごめんなさい、ね…
[彼女はその握られた文を目頭に当てる。 こうすれば、あの指を包んだ優しい温もりが感じられる様に思えて]
(43) 2014/07/04(Fri) 15時頃
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[わかってるならいい。 上っ面を取り繕われた誤魔化しなんかよりはずっとマシだ。
兄にはその惨めに歪んだ執着めいた何かを、持っていて貰わなくては困る。 例えそれが堪らなく気持ち悪く、嫌悪感を齎されるものであっても。 結局は自分にとっても必要な事なのだから。 こんな事、気づきたくもなかったのは、きっとお互い様だろうし。
兄に抱き締められる>>39のなんて不快である事に変わりないし、 それなのに拒まない自分はもっと不愉快で、 全部気持ち悪くて仕方がないのに、仕舞い込んでた感情を理解してしまった以上、腕を掴む力を緩める事が出来ないでいる。]
―――…、
[どうして、謝ったりしたんだろう。 随分と言い慣れない言葉の響き、特に目の前の相手に告げた事なんて、 それこそいつの事だったか覚えていないくらい記憶に遠い其れ。 口にしただけで何処かむず痒さすら覚えて口を閉ざしていたけど。
戸惑いがちの声とともに引かれた身に、はっとしたように咄嗟に双眸を開いて、腕が伸びきって離される前に、引き留めるように強く白衣を握り込んだ。口の中が乾く。]
(44) 2014/07/04(Fri) 16時半頃
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……、泣いてない、
[まだ涙は零れてない。もう、しょっちゅう泣いてたガキじゃない。 未だに僅かに残る意地が否定の言葉を反射的に紡ぐ。
多少雑な動きに揺らされるように頭が少し下を向く。 霞みだす視界をせめて戻そうと、持ち上げかけた右腕が、近付けられる顔に気付いてぴたりと止まった。 目元に寄せられた唇に双眸を細めて、触れた柔らかい感触に眉間に皺を寄せる。 未だに兄の中では幼い頃の弟の儘なんだろうか。自分はもう、ほとんど覚えてなんかいないのに。]
…、なんなんだよ、もう、
[顔を俯かせて、半端な位置で留めていた右腕で袖で雑に目元を擦る。 すれた布地が微かに痛いせいか、まあそんなんじゃないんだろうけど、 余計に後から押し出されるように涙が溢れるから、そのまま袖を当てて、水分を全部吸い込むまで待つ。]
(45) 2014/07/04(Fri) 16時半頃
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[身を引こうとした時に握る強さを増した手>>44に、にわかに目を開いた。 胸の内の汚いわだかまりを散々ぶちまけた後でも、拒絶されるどころか縋られていることが、未だに信じられずに。
――これじゃあ、形振り構わず逃げ出すこともできない。 自分でも絶対に許せないけれど――それでも今手を離されたら、そのまま身を引いて踵を返してしまいそうだった。 引き止める意思を持って回された腕に、救われたのか、責められているのか。
目元に触れた唇がじわりと濡れる感覚と、僅かに動く表情と。 反射めいて返された反論>>45の説得力なんて無いに等しくて、いっそもう、その言葉に触れてやることはしない。]
……僕だって、知るか。
[俯いて見えない唇から落ちた湿っぽい声に、咄嗟に言葉を返した。 先から繰り返した言葉の応酬は、ままならない今の状況には、無意味としか思えなかった。]
(46) 2014/07/04(Fri) 22時頃
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[顔の間に割り込んできた弟の腕に僅かに身を引きながら、自分の行為を拒むように当てられた袖を見る。 繋ぎ止めるような動きを見せるくせに、いざ近付けば押し返される。そのことが腹立たしくて、それよりも何よりも、今はただ、不安を煽った。]
…どっち、なんだよ。
[――ごめん、と。 何へのものかも理解らない先の謝罪は、結局は自分を拒むものだったのかと。 ここまで暴かれて、恥を晒して。腹の内だって、とっくに知られていて。 それでも身体に染み付いた未練は、執着は、未だしぶとく燻り続ける。]
……それなら、いっそ突き放せばいい。
[もしもそうされたのなら、酷く傷付けられた自尊心のままに、金輪際弟に近付くことなんてできなかったかもしれないのに。 弟はどうなのか、何より自分が、望んでいるのか、いないのか。 それさえ理解しないまま、目元を覆う腕を掴んで、緩く引いた。――無理やり引き剥がすほどの力は、とうてい込められなかったけれど。]
(47) 2014/07/04(Fri) 22時頃
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嫌なら嫌で、……良いのなら、良いで、 ……おまえが、そんなだから。
[――こうして離れられないままなのだ、と。 身勝手な理屈で、責めるように吐き出した言葉は、けれど震えて掠れた。 朱くなった目元を見ながら肩に手を当てて、引き寄せていた身体を、再び押しやって。]
――だから僕までもが、こんなところまで来たんだろ。
[泣きそうな声に反して、瞳はすっかり乾いていたけれど。 喉の奥からこみ上げる惨めな言葉を、無理やり堰き止めるように、一度噛み締めた唇を、弟の歪んだ口元へと寄せる。 先の口付けの延長と考えれば、児戯めいても取れるそれは、けれど今の自分達がするには、あまりに歪だろう。
受け入れられるとは、はなから思っていなかった。 例えば不意をついたのならば、その唇の端に噛み付くことくらいはできただろうけれど。
――それでももしかしたらその感触は、初めてのものではなかったかもしれない。 けして自分を受け入れることのない弟を、唯一の捌け口を、なんとか繋ぎ止めようと。 その為ならきっと、何だってできたから。]
(48) 2014/07/04(Fri) 22時頃
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[これまで幾ら押し退けても跳ね除けても、鬱陶しい程に離れようとしなかったくせに。 今になって離れるのかよ。置いてかないでなんてみっともなく告げてしまった自分の言葉が頭の中で、何度も執拗に反芻される。 掴んだこの手を開いてしまえば、あっさりと置いて行かれるのか。 いっそそうしてくれれば、楽になれるのか。
それを確かめる事も出来ずに、一層指先に力が入る。 握り込みすぎて血の気も失ってる掌の中で、白衣はきっと無残にぐしゃぐしゃになってるに違いない。 こんなんじゃ、迷子になった後の子供と変わんない。
目元に押し付けてるカーディガンがじわじわと水分を吸収して、大分濡れてしまった。体温程度じゃそれを温めてはくれない。冷たい。 その腕を引かれた所で、緩い動きに合わせてのろのろと従うだけで。 ガキんちょに遊ばれる人形にでもなった気分になる。 こんな力無い動作、振り払うなんてワケないのに。]
(49) 2014/07/05(Sat) 00時頃
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[兄が言う通り>>47、どっちなんだろう。 抵抗しきる気もないのに、拒絶めいた事もしたくなる。 複雑に絡み切った心情なんて到底理解できなくて、 相手からすれば余計にそう感じるのだろうけど。
それを責めるような言葉達が、連なって耳に届く。 ずきずきと心臓が痛むのに、表情を歪める気力すら何処かへ行った。]
……俺が悪いの?
[漸く声を絞り出したけど、結局思考を放棄して相手に答えを求めた。 そうならそうで、もういい。認めてしまいたい。もう疲れた。
一度離れた筈の唇がもう一度寄せられて>>48、今度は口許に触れる。 ――ああ、やっぱり気持ちが悪い。 相手を受け入れる気なんてない。自分が受け入れて欲しいが為だけに。 その行為を許諾するように、両腕を持ち上げて相手の後ろ髪を緩く掴んで身を寄せた。
包帯で固定された指は動かしづらいけど、そもそも動かそうとすると容赦ない痛みが襲ってくるけど、そんなことはどうでもいい。]
(50) 2014/07/05(Sat) 00時頃
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[掴んだ袖>>49からじわりと滲む冷たさに、思わず眉を寄せる。 カーディガンとシャツとに阻まれて、その最下層にあるはずの体温は伝わってはこない。おまえの中身は冷え切ってでもいるのかと、あり得ないはずの思考は否定しきれずに。 自ら引くような動きに合わせて、不快にすら思える冷たさの上から、その腕を握り込んだ。]
………あ、
[自分が悪いのか>>50、と。 諦めたようなか細い声に、思わず言葉を詰めた。必死で責任を押し付けようと動いていた口は、そのまま緩く結ばれる。 動かないことに却って違和感を覚える表情からは、変わらず何も読み取れないままで。]
……違う、
[咄嗟に落とした言葉は、口にしてから後悔した。思考なんて、まるで役に立ちやしない。
――全てただの責任逃れだと。ひたすらエゴを、自己満足を押し付けて、そうして縛り付けたのは、他ならぬ兄である自分だと。 自分ですら理解しているのだから、散々それを 拒絶してきた弟が、気付かぬ筈がないだろうに。
望むまま、願ったまま、"可哀想な子供"に仕立て上げられた弟は、それこそ自分の望んだ存在のはずだった、――けれど。]
(51) 2014/07/05(Sat) 01時頃
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…くそ、……っ、
[優越感も何も、あったものじゃなかった。 口にした言葉が戻ることもないし、撤回するつもりもない。そんなこと、未だに主張し続ける自尊心が、許す筈がない。]
――惨めなのは、 おまえを、こんなにしたのは。
……、僕、だろ。
[拒否されることなく接近を許した唇と唇の間で、呼気混じりに吐いた言葉は、そのまま冷えきった部屋の空気に溶け込む。]
(52) 2014/07/05(Sat) 01時頃
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[ゆっくりと寄せられる身体と、力なく引かれた髪を、意識の隅で捉えながら。 腕を離した手を寄せられた頭の後ろへ回して、抱え込むように唇を重ねる。
髪に触れられるのは好きではない。力任せに引きちぎられたことも、記憶のどこかにある。 ――だからこそ、慣れとも、諦めとも取れる往生際の良さは、やはり異常に思えて落ち着かない。 いっそこのまま有耶無耶にしてしまえたら良いと、そんな願いは浅はかだったと、そこで知る。]
…っ、
[知らぬうちに慣れた手順通りに、ゆるりと唇の淵を辿ってから、拒否が無ければ割って入ろうとするけれど。 いっそそのまま、常より強い力で舌を噛み切って気道を潰してくれたなら良いのに。 喉に残る鈍い痛みを今更思い出しながら、乾き切って痛みすら訴え始めた目を伏せた。]
(53) 2014/07/05(Sat) 01時頃
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……っ、
[彼にむぎゅう、と抱き締められれば、ああ彼の服が汚れてしまう、なんて思ったけれど。でも、彼の優しい一言に、心が嬉しさで跳ねた。>>29 持ち歩いていたハンカチで口元を抑えていた手を拭けば、そのまま自分も腕を彼の背中に回した。 ぎゅ、と彼の存在を確かめるように。彼の言葉をより深く受け止められるように。彼の胸に顔を埋めて、その暖かさを実感した …残りの命が短かったとしても。 病が、治らなかったとしても。自分は、幸せだ、と。そう思えたから]
……ネル、 そばに居てくれてありがとう、
[そして、ぽつりと。溢れ出た気持ちを、彼の瞳を見て、伝えた。彼女の大人びた笑顔や嬉しさは、伝わったのだろうか。]
(54) 2014/07/05(Sat) 01時半頃
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