159 せかいのおわるひに。
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― 稽古場 ―
「何故…、何故…、貴方が死なないといけないの!」
[狭い舞台で台本を片手に、ジャージを着た女性が...に呼びかける。]
異な事を言うね、君は。
人はいつしか必ず、死ぬんだよ。
産まれた時から、必ずね。
[同じく、台本を片手にこちらも薄手のTシャツを着ただけの...が言い返す。そんな事を言っている訳じゃないと言う類の台詞を投げかけられれば、こちらも返す。]
どれだけ怠惰に過ごそうとも、
勤勉を務めようとも、
人に与えられた時間は、寿命という個々の器に入った運命の砂時計の、砂が落ちきるまででしかない。
たまたまそれが僕には――
[照明の光を浴びて、吹き出た汗が流れ落ちる。一生懸命に役を演じる――のではなく、役を演じる自分を演じている。
その違いが以前はなかった。
云わば学芸会の劇。きちんと演じられる役者であればよかったものと、一流の演劇とは決定的に違う。]
僕は思うんだ。
殺されるというのは、未来を奪われる事じゃないんだ。
[演劇の主演という存在は、物語の主役である。
が、芸能の主演はそうではない。
観客がそれを見に来る一番の目的である存在である。
上手い下手ではない。その人間に惹かれ、魅せられるからこそ、見に来るのだ。
どんなドラマや映画を見ていても、物語が面白かったよりも、期待していた見に来たその人が、その人であって本当に良かった――そう思える存在。
嘗ていた世界で、主役として光り輝いて行った存在達は、大概がそうだった。台本を読み込んで諳んじるよりも、時代背景の設定周りの勉強に励むよりも、大事だったこと。それに気付けなかったから、輝けなかった。産まれついて持っている者もいる。周りから与えられる者もいる。どっちでもない以上、自分で手に入れるしかない。]
死ぬまで生きる事――それはどんな人間だって変わりは無い。
そう思えば、死ぬという事がわかっているというのは割かし幸運の類だろう。
[中身の希薄な台本。この劇団の脚本家志望の青年が必死に手直しを重ねて練り上げられた脚本。国語の課題ではないので、この内容を理解する必要は無い。キャラクターに投影して、彼の思考になって言葉を発する必要は無い。努力の使いどころが異なっている。]
でもな! でも僕は……
『火事だぁぁぁぁぁぁ――――っ!!』
[舞台裾からタイミングを見計らって叫ぶ声。]
ふふ……もう時間、だね。
さあ、もう行くんだ。
「僕は、なに?!」
いいから!! 行くんだ!!
[遠くからでもわかるように大きく首を横に振って、ジャージの女性の背中を押す。触った程度なのに大袈裟に突き飛ばす所作をするのが微かに引っかかったが、意識の外に追いやった。]
「兄さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
[ジャージの女性が叫ぶ中、背を向けて駆けて行く。付け火の中で焼け死ぬ役。ここで章が代わる。]
『はい、カァァァァァァァァァァト!!』
[都会でのホールでの開演までの微調整。彼らにとっては一旗上げる為の場所。自分にとっては、次の舞台に上がる前の最後の場所。]
お疲れ様でしたー。
[笑顔で監督以下、劇団員に頭を下げる。誰かからバスタオルとスポーツドリンクの入ったボトルを貰い、例を言う。]
「じゃあ夕飯休憩して、もう一度通し稽古な。その前に…」
あ、僕。夕飯買って来ますよ。
どこかリクエストありますか?
[アルバイトでも、演劇場でも変わらない。受け入れられやすい自分でいる。じゃあ嘗て受け入れられなかった自分は今、どこで何をしているのだろう。*]
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