47 Gambit on board
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[夜深く。男は己が率いる団員達に指示を与えに行き――其処
から帰る途中、だった。己が使う部屋へ向かうため、中庭を歩いていた。その半ばで、不意に、立ち止まる。がさり。大きな物音が茂みから聞こえたために]
――……?
[はっと其方を向き、警戒を抱きながら茂みを見つめる。サイモンが襲われた件が頭を過ぎった。名前を呼ぶ掠れた声に、誰ですか、と返し――]
……! ……ハッセ、師団長?
[現れたその姿に、確認するように尋ねる。顔はよく見えなかったが、髪や格好は、ヨーランダのそれであるように思えた。本当にそうなのだろうかという、疑問。だが胸中に生じたその思いは、傷付いた――暗い中、そのように見えた――姿を前に、すぐに霧散してしまった。警戒も、共に。
咄嗟に「彼女」に駆け寄って]
――っ、
[強い衝撃を受けた。
鳩尾に攻撃を受けたのだと、次の瞬間、気が付いた。
しまった、と思った時にはもう、体は地面に倒れていた]
が……はっ、……
[警戒を解いた刹那の攻撃だった。防御など出来ず、受身も取れなかった。背中を地面に打ち付ける。鳩尾の激痛に、少しの間、呼吸がうまく出来なくなった。そこに続け様に蹴り付けられる。ぎり、と歯を食い縛り]
く……!
[四度目の攻撃が放たれた瞬間、「防壁」を出現させた。腰に帯びた剣を抜き取り投げられて、再び己の隙を悔う。だがその時点では負けたとは思っていなかった。己には防壁と素の筋力、腕力がある。襲撃者を跳ね除ける事は可能だろうと思えた。
振り上げられる短剣を、やはり防壁で防ぎ――喉元に滑り込む手に、目を見開いた。想定出来なかった攻撃だった。己を首を絞めて倒そうとする人間が、そうそういるとは思えなかった、実際に到底いないからだ。
触れられた箇所に、その内側である喉に、冷気を感じ――]
……ぐ、……何……ぁ、
[それはすぐに、圧迫感へと、息苦しさへと変わっていった。内側から喉を締め付けられているいるような感覚に襲われる。対抗する術など、なかった。
体から酸素が失われていく。意識が溶け出していく。曖昧な視界の中で、「彼女」の姿が壊れるのが――ベネットの姿が、見えた。静かな声を聞きながら、男は不明の闇に落ちていった]
[そして、暫くの間、眠り続けていた]
― 救護室 ―
[それからどれ程の時が経ったか。闇に呑まれた意識の中で――また、昔の事を思い出していたような気がした。叫びに近いうわ言と共に起きたために、傍にいた看護士か誰かを驚かせた事だろう。意識を取り戻した直後は、ただ混乱していた]
……、……私、……?
……な、……
[声を出そうとして、引き連れたように喉が痛み、咳き込んだ。一瞬、喉の奥に冷たい物を感じたが、その感覚はすぐに失われ、重さのような軽く鈍い痛みと違和感だけが残った]
……此処は。……私、は。
……そう、……襲われて……
[少しずつ、状況が把握出来てきた。じわりじわりと記憶が滲み出してきた。己は襲われて、気を失ってしまったのだ。多分に粛清の犯人に――そう、ヨーランダに]
……
ハッセ師団長に、襲われました。……
[やがて経緯を尋ねてきた者には、そのように証言した。
何処か、奇妙な収まりのつかなさを感じながら]
[第1師団の装いをした若い兵士が入ってきた時、サイモンを見舞ってこの場所を訪れているのだろうかと思った。此方に近付く様にも、名を呼ぶ声にも、すぐには思い当たらなかった]
……、……?
[何だろうかと、疑問に思う。覗き込まれても即座にわからなかったのは、先まで意識が混濁してたせいもあっただろう。何より、――まさか皇子がこの場に来ているなどとは想像出来なかったからだ。やや遅れて、はっと目を見開き]
――ラン……っ、
[思わず叫びかけて、また咳き込んだ。
それが治まってから、至極困惑した表情を浮かべ]
……何故、此方に?
[ぼそりと、小さな声で問い掛けた]
……はい、私は大丈夫です。
お心遣い痛み入ります。
[軽く頭を振って答える。事情を知っているらしいランドルフの言葉には、複雑そうな表情をして]
……殿下のせいなどではありません。
私が至らなかったばかりに……
申し訳ありません。犯人を捕らえるところか、この始末で……
[俯き、拳を握り締めて言う。心からの申し訳なさと、悔しさ、慚愧を込めて。サイモンの名が出れば、彼がいる方向を一瞥しつつも。首を傾げる仕草を見ると]
……殿下……
ジャーヴィス師団長が起きたら、怒られますよ。
あるいは、ショックで死んでしまうかもしれません。
[サイモンが。顔向け出来ない現状ながらも、思わずそんな風に嗜めるように言った。丁度、サイモンが寝言を零したかもしれず]
殿下……
[ランドルフの顔を見据え、何かしら言葉を発しようとする。だが結局、黙ったままで頷き]
ええ。私は、気絶させられただけのようなものですから……
どうぞご心配なさらずに。
[共にサイモンの方を見やる。重傷を負った相手、表情に心配げな色を滲ませつつ]
承知しました。……が……
くれぐれも、お気を付けて下さいね。
あまり無茶な事はなさらないよう。
[内緒、と言われれば困ったような笑みを小さく浮かべてから、続く言葉は真剣な声色と瞳で述べ]
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