215 【誰歓】エンドローグ
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―― 2F・倉庫 ――
[何かを訴えようとしている太一が、息を呑むのが分かる。>>63 浅い呼吸に、泳ぐ視線、震えの止まらない指先。 それは間違いなく、薬物に飢えた禁断症状。 微かに聞こえた声は謝罪の言葉が混じっていて>>63、自分自身と戦っている事が伺えた。
瑞希が触れるよりも先に、手を掴まれた刹那。]
……――っ!?
想像以上に強い力で引き寄せられて、床に身体を押し付けられる。 一瞬、何が起こったのか分からずに、その衝撃にぎゅっと目を閉じて耐え、薄っすらと瞼を開くと。 自身の身体に覆い被さるようにして、身体を挟む太一が見えた。
ドクン――。と心臓が波打つ。
それは忘れかけていた彼に対しての畏怖と>>0:248、過去から来る記憶を呼び起こされて>>1:13、驚きと共に、じわりと恐怖が身体を支配していく。]
(76) 2015/02/07(Sat) 15時半頃
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―― 記憶 ――
[人通りの少ない住宅街。 一人で帰路に着いた帰り道。
不意に背後から忍び寄る影に気づけずに。 思い切り肩を掴まれて、公園へと引き摺り込まれた。
街灯の届かないその場所で、覆い被さる影しか形は掴めず。 無理矢理押し付けられる身体と、荒いだ息が耳につく。 ザラついた手が肌を、衣服を弄って。 気持ち悪さしか感じられずに、 不快さと恐怖心だけが脳裏と身体を埋め尽くす。 ただその影から逃れたい一心で。 必死に抗いながら、無心で悲鳴を上げ続けた。 悲鳴を聞いて駆けつけた住民に助けられ、事無きことは得たものの。 ずっと身体の震えは止まらずに。 心には、今も深い傷跡を残す――]
(77) 2015/02/07(Sat) 15時半頃
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―― 2F・倉庫 ――
[ひゅっと息を吸い込んで、太一を見上げる。 怯えは隠すことは出来ず、ふるりと弱く首を振って]
……い、や、……
[喉を振り絞って口に出来たのは、たった二文字。 髪を揺らし、肌を擽る吐息にびくりと身体を震わせて。 逃れるように視線を下方へと落とせば、太一の手がスカートへと降りるのが見えて、思わずその手から逃れようと身体を捩る。
スカートのポケットにしまった注射器のことなど、その時ばかりは忘れていた。 ただひたすら男の重みから逃れたくて。 太一の身体を突き飛ばそうと、彼の手に胸に当てようとしたその時。]
(78) 2015/02/07(Sat) 15時半頃
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―――――ガンッ!!!!
[突然の衝撃音が耳に届く。>>65 その音の原因を確かめるべく目を向ければ、額を床に押し付ける太一が見えて、目を瞠る。
身体の上から太一の重みが消えていく。 呟く声は、耳に届いてはいるものの>>66、 すぐに反応することは出来くて。
ゆっくりと身体を起こし、手の震えを堪えるように胸元のシャツをきつく掴む。
改めて彼を見上げれば、太一の額には血が伝い、顔色は白く。 瑞希自身より、彼の方がよっぽど悲壮に見えて]
……あ、……
[そこでようやく、彼が薬物への飢えに堪えていた事を思い出す。]
(79) 2015/02/07(Sat) 15時半頃
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待っ、て……
[約束したはずなのに。>>1:166
倉庫を出ていこうとする太一の背に声を投げる。 彼の耳に届くのが早いか、彼が倉庫を後にするのが先か。 もし声が届いたとしてもその声はか細く。 交わしたはずの約束とは、随分とかけ離れていた。>>1:166**]
(80) 2015/02/07(Sat) 15時半頃
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あ、え、ま、まって……
[じわり、と彼の目を濡らしたもの>>73>>74に気が付いて、 探し物も投げ捨てて思わず飛び上がった。
人を泣かせたことがないとは言わないが、 寧ろ長いこと、泣かせ、泣きながら意見をぶつける日常を送って来たのだが、 これは予想していなかった。
どうしよう、という気持ちを込めて、ネイさんと千秋を交互に見上げる。]
ご、ごめんなさい! ちが、ちがうんです、そういうつもりじゃなくて……あっでも、それはちょっと、きびしいですって めっちゃニンジンじゃないですか タマネギ……タマネギ、ふふ
[慌てて要領を得ない弁解を口にしながらも、場違いに少し笑みがこぼれた。今度は自然と。 焦ってまた赤くなった頬と緩む口元を押さえて、笑いの混じった声でまた「すみません」と呟いた。]
(81) 2015/02/07(Sat) 15時半頃
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― 洗面所 ―
[逃げるように。走って。走って。走って。 いつのまにか、最初に目を覚ました洗面所>>0:5に寝っ転がっていた。 振り絞るような、瑞希の拒絶の言葉>>78が耳から離れなくて。 あの忌々しい幻聴は、もう聞こえなくなっていた。 のそのそと、立ち上がる。洗面台の前に立つと、苦笑した]
ひでえ顔してやがる。
[鏡に映った自分の顔を見て、ぼそりと呟く。 まるで死人のように、青白い。そして]
……血。
[自分で打ちつけた額には、赤黒い血が付着していて。 あの夏の記憶が、ふっと頭にフラッシュバックした]
(82) 2015/02/07(Sat) 18時頃
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― 夏の記憶 ―
[大丈夫か、と。マウンドに倒れ込んだバッターに駆け寄る人々。 数瞬遅れて。ああ、自分が放ったボールがバッターの頭に当たったのだ。と理解する]
……うそ、だろ。デッドボール。
[小さく呟いてから、我に返る。野球帽を外して、頭を下げた。 いつまで経っても立ち上がらないバッター。しん、と応援の声が止んで静まり返る球場。運ばれてくる担架。自分への非難の視線。 ひどく、頭が混乱した。つう、と冷たい汗が流れる。 担架に乗せられたバッターの額には。血、血、血……]
俺が、やったんだ。
[その目は虚ろで。先程まであった、『あと1勝で甲子園』とかいう浮かれた気持ちはなくなっていて]
……俺の、せい。
[その回は、滅多打ちされて大崩れとなった]
(83) 2015/02/07(Sat) 18時頃
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― 洗面所 ―
……どうすればいい。俺は。
[絞り出すような声で、鏡の中の自分に向かって呟く。 その顔は今にも泣きだしそうで]
どんな顔して。 謝ればいいんだよ。
[また俺は同じ過ちを繰り返したんだ。 瑞希の怯えた声>>78が頭の中に木霊して。 誰かを傷つけることしかできない自分なんて。 消えてしまえばいい]
いっそのこと。 このまま、ここから出られない方がいいのかもな。
[ぽつり、と本音が漏れた**]
(84) 2015/02/07(Sat) 18時頃
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記者 イアンは、メモを貼った。
2015/02/07(Sat) 18時頃
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……そっか。
[>>75 先ほどからの梶の言動は、どうにも子どもみたいだった。 一緒に行きたくないとか、一生わかんないだとか。それは全部、自分を突き放すような言動だったけれど、傷ついた、とは思わなかった。 むしろ何処か、迷子の子どもに対峙しているような、放っておけないような感覚さえ覚える。
よし、と顔を上げた。 梶が一緒に行きたくないというので、それじゃあ一足お先に台所へどうぞ、後から行くから。と言った旨の言葉を投げるつもりだったけれど。]
……じゃあ、ごはん。 食べに行こう。
[あっさりと、話を切り替えるようにそう言う。 唐突過ぎる提案に、彼はどのような反応を見せただろうか。
彼の抱え持っているものは知らない。分からない。 だって彼は、煽るような突き放すような言葉で、それを悟らせはしない。 だから分かるわけはないけど、ひとつだけはっきりしたことは、彼もまたおなかがすいてきているということだったので。>>55 ひとまず腹ごしらえをせんと、梶の服の裾を掴んで歩き始めようとするだろう。*]
(@11) 2015/02/07(Sat) 18時頃
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子守り 日向は、メモを貼った。
2015/02/07(Sat) 19時頃
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[完全に千秋の自業自得だというのに、瑛美までがそんなつもりではなかったのだと謝ってきた。>>81]
あやまらなくて、いいです。その、僕が勝手に、嘘、ついて、勝手にダメージを受けて……っていうか……。
[ダメージ、ではなかった。ただ不意打ちで衝撃を受けただけで、それはむしろ、逆の意味合いで。 続けるより早く、瑛美が笑いをこぼした。その視線は玉ねぎならぬ人参に注がれていた。千秋は先ほどまでとは別の理由で赤面した。たしかに、これはない。]
(85) 2015/02/07(Sat) 20時頃
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確かにこの場所はおかしいけれど、危ない場所じゃあなさそうだからね。 誰かと料理を作るなんて、普段でもしないからね、ボクは。
[口を動かしつつも、野菜の皮を剥き終われば、冷蔵庫に入っていた肉に胡椒を少々振りかける。下味をつけておくのは大切だ。本当に。 幸い、千秋がかなりしっかりしているようで、自分が口を出さずとも、手持ち無沙汰なエミに指示を出してくれているのは助かる。
と、その指示の中の、不自然な言葉>>49が耳についた]
(86) 2015/02/07(Sat) 20時半頃
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[棚の中の調理器具の場所なんて、知っていなければ分からない。 彼は、ここに来たことはないはず。なのに、それを知っていたということは――]
…ま、そんなこともあるよね!
[至った結論は、どうやら正解らしい。 狼狽えたようにこちらを伺う少年に、肩をすくめて見せる。 言葉も、口調も、至って軽く。決して責める気はないのだから]
(87) 2015/02/07(Sat) 20時半頃
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[自分の言葉はどうだったかは分からないが、少女の言葉は彼にしっかりと届いたらしい。 彼の頬を濡らす涙>>73>>74、それから駆け寄る少女の姿>>81に、ふ、と笑みを洩らす。微笑ましい。素直にそう思った]
じゃあ、後は頼んでもいいかな? ボクは少し皆に声をかけてくるよ!
[千秋はそれなりに料理が出来るようだし、これならカレーは無事に出来上がりそうだ。 自分の出る幕はこれ以上ないだろう。
‥‥というのは建前だ。馬に蹴られて死にたくはない、というのが本当のところ。 早口で告げた後は、足早に食堂から飛び出して行くだろう*]
(88) 2015/02/07(Sat) 20時半頃
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[ツボに入ったのか、ふつふつと湧き上がって止まらない笑いを堪えている中で、 千秋>>85の言葉は半分聞き流しているような状況だったのだけれど、
突然の宣言と、そのままに動いた道化師>>88に、ばっと顔を上げて。]
え、あの、ちょっと わたしが呼びに行く方が絶対良い……
[料理スキル的には、恐らく。 背中にそう声をかけたが、その背中は遠ざかっていった>>88だろうか。
ほとほと困った顔で、千秋を振り返る。 さっきまでの騒動なんて、スッポ抜けた風に。]
えー……どうしましょう わたし、ひとっ走り呼び戻してきた方が良いですか
(89) 2015/02/07(Sat) 21時頃
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──回想──
──おはよう、ございます。
[自分の喉を震わせて、響く音。
……初めにこの場所で目覚めてから、一体どれだけの時間が経過したのだろう。 時計やカレンダーも無く、窓の外の風景も変化しないこの空間では時間の感覚はすぐに失われていったし、わざわざ計ることもしなかったから今となってはもう分からない。 けれど、この空間で眠っては目覚めるたびに、何かを確認するように呟いているのは朝の挨拶。
既に何処か遠くところどころ朧になりながらも、時折蘇っては迫る記憶を手繰り寄せれば、最初に響くのは、声だ。 刺々しく、思い出すたびに今も少し身体が重くなる。]
『日向さん、貴女は。……どうして、喋ろうとしないの』
(@12) 2015/02/07(Sat) 21時半頃
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[場面緘黙症、という言葉を聞いたことがあるだろうか。 あまり広く知られてはいないかもしれない。家庭等では話すことが出来るのに、学校等ある特定の場所や場面では発話が不可能になる、そういう症状だ。 ──"学校"という集団の中で、日向あおいが直面した問題にはそんな名前がついていた。
家以外では話せない。家族とは喋ることが出来るが、それ以外の他者とはほぼ話せない。話せたとしても、ごく小さな声は聴き取ってもらえないことが常だった。 随分人見知りをするんだね。引っ込み思案な子だね。そう言われて育った。 理由を問われても説明のしようがない。どうしても喋れない、それだけだ。
小学校にあがって暫くした頃ぐらいだろうか。 流石に心配した母親に病院に連れていかれ、その症状に名前をもらった。 だからといって何が変わるわけでもなかったが、医師の「適切に支援していけば話せるようになるケースも多い」という言葉に、両親は随分安心したようで。 言葉を習うにつれて筆談で伝えることも覚えて、小学校のうちはそれで良かった。 親しい友人の前では時折小さな声で話すことも出来るようになったし、このまま改善してゆけば、と漠然と思っていた。]
(@13) 2015/02/07(Sat) 21時半頃
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[ゆっくりと改善は見えつつも、大勢の視線を集める場での発話は相変わらず苦手なまま、中学生になった。 中学生ともなれば、皆、他者に関心を持つようになる。 殆ど喋らない自分に奇異の視線を向ける者もいたが、数少ない小学校からの友人がフォローに入ってくれて、さほど気にはならずに済んでいた。
そうして、中学二年生になった時のことだった。 二年の担任は、年若い女教師だった。 努力、友情、そして勝利。どこかの少年漫画のような、そんな言葉がよく似合う人。 努力すれば。友情や愛情を持って接すれば。不可能なんて、きっとない。 ……彼女の視線が、"話そうとしない大人しい引っ込み思案の生徒"へ向くのは早かった。]
『日向さん、貴女も皆とお話したいでしょう?』 『少し勇気を出せば、大丈夫!頑張ろう』
[笑顔でかけられた言葉に、訳も分からないまま曖昧に頷いていた。 話は、したかったから。 きゃあきゃあと燥ぐ女子生徒の輪、くだらないことで盛り上がる男子生徒の輪。 そういうものを何処かで羨ましく思っていたのは、確かだったから。]
(@14) 2015/02/07(Sat) 21時半頃
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『日向さんが話せるように、皆で頑張って助けてあげよう』
[ある日の朝のHRで、女教師が言った言葉が始まりだった。 ……そこから始まった、彼女言うところの"特訓"は、もうあまり思い出したくはない。 教室の隅の"喋らない少し変わった子"が、一気に、望んでは居ない形で舞台へと引っ張り出された。 スポットライト代わりに突き刺さる視線で、手も足も口も強張る。 話そうとすればするほどに悪循環が生まれるばかりで上手くは行かない。]
『今日は無理だったけど、明日はきっと大丈夫よ』
[柔らかく励ますような言葉に、──もう頷けない。 耐えかねて、筆談で『どうしても難しいです』と伝えた。 弱音を吐いては出来るものも出来ないと諭された。そんなことの繰り返しだった。]
『……あおいちゃん。先生の言うこと、聞いた方が、きっといいよ』
[理解をしていてくれた小学校からの友人すら、遠慮がちにそう言った。 だんだんと必死さを増してゆく教師の姿に、少しでも喋れるところを見せれば状況も落ち着くのではないかと、そう思っての言葉なのだと今なら思える。 けれど、当時はただ目の前が真っ暗になって、期待にうまく応えられない自分への失望感が増した。]
(@15) 2015/02/07(Sat) 21時半頃
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[──夕暮れの教室で、彼女が言った。
『日向さん、貴女は。……どうして、喋ろうとしないの』
もう柔らかい元気に満ちた声ではない。刺々しく、責める意味を帯びた疲れた声だった。 ごめんなさい、と思った。私のせいで、疲れさせてしまった。
同時に、聞かれたって分かるわけない、とも思った。 話そうとしないんじゃない。話せないんだ。 どんなに期待をされたって責められたって。仕方ないでしょう、出来ないんだから。 話せない。そうなんだから、どうしようもないでしょう。 こうして胸のうちで渦巻く思いすら、上手く口に上らせることができない。 それが、どれだけもどかしいか、苦しいか。 何不自由なく上手く話せる人になんか、分からない。ぜったいに。
手元の紙とシャープペンシルに視線を落とす。 突き刺さる言葉の棘がいたむから、声の代わりの文字すら1文字も綴ることが出来なくて、そのまま固まるしかなかった。 そうやって、筆談というコミュニケーションツールすらまともに扱えなくなっていった。]
(@16) 2015/02/07(Sat) 21時半頃
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[家の中では相変わらず話すことが出来たけれど、中学二年生にもなって未だ上手く話すことの出来ない自分を、両親も流石に不安に感じているようだった。 親なのだ。話せないよりはきちんと人と話せるようになってくれる方が嬉しいに決まってる。 仕方ないとは理解しつつも、学校での状況と合間ってそれは徐々に重みを増した。 胸のうちを侵すように黒い水が広がってゆく感覚で息が苦しい。溺れてゆくみたいだ。]
『……学校では、やっぱり話せない?』
[ある日の夕食の席で、遠慮がちに母がそう問う。 それに返事を返そうとして、自分の声が出ないのに気付いた。 ──どうして。 視界に映るのは、慣れ親しんだ自宅。 ここは、ここでだけは、喋れるはずなのに。 ばくばくと煩いぐらいに心臓が音を立てる。手が、ひどく冷たかった。 喋れないことが母にばれないように、それだけを考え俯いて首を振る。逃げるように席を立って自分の部屋に駆け込み、勢いよく布団を被った。]
……っ、……
[どうしよう、喋れなくなる。もう、──私、どこにいっても話せなくなる。 ……だれか、たすけて。 そう叫びたかったのに、擦れた音が喉を滑る。硬く硬く目を閉じた。]
(@17) 2015/02/07(Sat) 21時半頃
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──もうひとつのプロローグ──
[目を覚ます。のろのろと身体を起こした。 目を擦りながら辺りを見回す。……和室だった。殺風景な、和室の隅。>>0:13 どこか見覚えがあるようでいて、咄嗟には思い出せない。その程度の、さして特徴もない部屋だった。 其処が明らかに自宅でない奇妙さや警戒よりも、……まず芽生えたのは、其処が明らかに自宅でない安堵。ぼうっと部屋を見回して、は、と気づく。 咄嗟に喉元を抑えて、……何を言えばいいのだったか。 ああ、そうだ。寝起きだから、]
……おはよう、ございます。
[誰もいない空間に向かって零す、声。 それは確かに自分の鼓膜を震わせて。]
……声、出てる……
[呆然と、呟いた。
──それが、日向あおいの目覚め。 そうして彼女は、此処へやってきた。]
(@18) 2015/02/07(Sat) 21時半頃
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[寧斗もまた、千秋を責めなかった。>>87]
す、すみません。あの、ちゃんと説明、しますから。
[しかし、寧斗は千秋の言葉を待つより先に下準備と共に自分の役目は終わったとばかりに、皆のことを呼びに食堂をでていってしまった。]
あ、と、ええと。
[残されてしまって、千秋は戸惑う。もちろん、カレーの作り方の話ではない。]
その、とりあえず、カレー、仕上げちゃいましょうか。
[あとは炒めて煮込んでルーを落とせばとりあえず完成はする。]
(90) 2015/02/07(Sat) 21時半頃
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[その時も、他に人と出会っただろうか。今の彼ら彼女らと同じように、出口を探したり、この空間に違和感を抱いたり、おなかがすいて、食料を探しに台所へ向かいもしたかもしれない。
けれど、扉も窓も開かない空間で。 目覚めた時にそうだったように、自分にはひたすら安堵しかなかった。
疲れていた。もう、此処しかないのだと思った。 ……不思議に、この場所では話すことが出来たから余計にだったかもしれない。 発話を求める視線が突き刺さることもない。居心地が良かった。
時折胸を刺すように、あの頃の記憶が蘇る。 どうしたら良かったんだろう。今も分からない。 だけど、もう戻れない。戻らない。 だから暗い影は、波のように打ち寄せては消えてゆく。 そして、また眠る。起きて、声を確かめる。そんな繰り返しだ。
日向あおいは、今も、此処にいる。*]
(@19) 2015/02/07(Sat) 21時半頃
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子守り 日向は、メモを貼った。
2015/02/07(Sat) 21時半頃
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とりあえず、ってーー
[野菜が切られて、米が研がれて、あとはそれから? バラバラの食材たちに、"とりあえず"という言葉はどうにもチグハグに思える。]
どうするんですか、これ ーーあ、ええと、お鍋
[さっき指示された棚を開く。 それっぽい鍋を引っ張り出しながら、あとも、もう指示に従うばかりのつもりで。]
(91) 2015/02/07(Sat) 22時頃
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―― 倉庫 ――
[暫くの間、放心していただろうか。 物音は聞こえなくなり、ただ倉庫に一人、ぽつりと。
伸ばした手は太一を掴むことは出来ずに。 掴んだ所で手は震えていて、引き止めることが出来たかどうかは怪しい物だった。 その手を自身の二の腕へと当てて、深く息を吐き出す。
少し、気持ちが落ち着けば、壁に手を付けて支えながら立ち上がる。 ふらりとよろめいたのはまだ、足が震えていたから。
それでもこの薄暗い倉庫に一人では居たくなくて、無理矢理にでも重い身体を動かす。
太一の症状はきっとまた発症する。 もし、その時、彼の本意じゃなくとも誰かに襲い掛かることになれば。
きっと、傷つくのは――一人じゃない。 ]
(92) 2015/02/07(Sat) 22時頃
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―― 倉庫→2F・廊下 ――
[ ――太一を探さなければ。
倉庫を後にして、廊下に視線を巡らせる。 太一の姿は既になく、その場に他の人影はあっただろうか。
すぐにでも名を呼んで駆け出したい気持ちもあるが…、 先程の自身の失態を思い出せば>>78、それはきっと余り得策ではない。
一人ではどうにもならない。
誰か。 誰か。
何かあったら…>>@1:11
焦燥に駆られて、思うままに足を向ける。]
(93) 2015/02/07(Sat) 22時頃
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[あおいと別れた時の言葉を思い出して、ふと彼女のことを思う。 秘密を共有した彼女なら、きっとすぐに事情は把握してくれるだろう。
ただ―― たどたどしくも、感情を真っ直ぐぶつけるような彼女は>>@1:8、薬物とはイメージが程遠く、対処法など知らないだろうと、簡単に予測出来る。 それに自身よりも小柄な彼女では、太一が暴れた時、止められないだろうとも。 それはホールで出会った他の少女達もまた、同じ。
そう考えると…男性か。
太一と衝突を起こした事のある慶一と、今の太一は遭わせる事は避けたい。 何かあった時に、抑えられることの力を持つ人、もしくは薬物への知識を持つ誰か……。
瑞希は先程思案していた二人の顔を思い出しながら>>58、人の気配を探す。 思案を巡らせている内に、身体の震えは収まっていた。*]
(94) 2015/02/07(Sat) 22時頃
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[千秋は呼びに行った方が良いかという瑛美 >>89 のことを積極的に止めることが出来なかった。 それは料理の面では戦力外だからとかそういう話とは関係なく、ただどう接して良いか分からなくなってしまったからだった。 ひとっ走りと言いながら、今にも駆け出しそうな瑛美は、見た目の印象以上に活動的だ。]
ええと、ここからはそんなに人手もいらないですし、一応、僕ひとりでもできますけど。
[千秋だったら、相手の言葉がどこまで本当かも分からない状態で、会話を続けることなど、したいとは思えない気がした。]
(95) 2015/02/07(Sat) 22時頃
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一応、ってそんな だって、えーと、何人分?
[そういえば、これってここにいる全員分なのだろうか。それなら大した量だ。 煮え切らない答え>>95に、ううんと首を傾げる。]
大変じゃないですか? なんか、説明さえあれば、手伝えないわけじゃないとは思うんですけど……たぶん
[すぐに引きとめれば良かったけれど、今から行くんじゃ余計な手間かなとも思う。 ひとまず、と手に持った鍋をかかげる。]
で、このお鍋どうしたらいいんでしたっけ
(96) 2015/02/07(Sat) 23時半頃
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