310 【R18】拗らせ病にチョコレヱト【片恋RP】
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[彼女の返答によっては、ショコラリップより更に男に不釣り合いの、苺フレーバーのリップクリームが手元に残る可能性を、この時失念していた。]*
(88) 2021/02/14(Sun) 16時半頃
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― 回想:ドジにSNSは難しい ― [先輩は鍵垢にした方がいいですよ、と。 後輩に言われたのは昨日のランチ時のこと。]
…と、いっても。 あたし、海の写真くらいしか流してないし。 海って、特定難しくないかな。
[学生時代だったか、人に勧められて作ったアカウント。 添える言葉もフォロワーも殆どなく、日記のように、 否、日記よりも頻度は低く。 部屋から見た海、それも木も浜も映り込ませない、まっ平な水平線だけを。 何か感じた時だけ、写真を撮って 備忘録程度に流すだけの、アカウントだった。
でも先輩、時々私のLineに誤爆しますよね、買い物メモ。 その言葉に、思わずパスタを巻いていたフォークが止まる]
(89) 2021/02/14(Sun) 17時頃
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あー。 あーーー。 あーーーーー………… うん。
鍵にしよ。ありがと。
[一瞬で察した。 寧ろ日常に潜むリスクを常々考え続けていた自分が、 序でに言えば仕事上コンプラや炎上リスクに敏感な自分が、 この落とし穴に今まで気付かなかったのも 一種のやらかしだったかもしれない。 というか今まで海の写真以外をうっかり上げなかったのは奇跡では?
こうして@Raymond_seaは昼間に鍵付きとなった訳だが。 自分のアカウントに鍵をつけても、 ちょっと目について助けただけの、見知らぬ女子高生の口に戸は立てられんのであった>>85]*
(90) 2021/02/14(Sun) 17時頃
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[ 僕の好きな人には、好きな人がいるらしい。 ]
(91) 2021/02/14(Sun) 17時半頃
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[ それを知ったのは、いつ頃だったかな。 初めて相談を受けたのは、 確か、ランク戦真っ最中で。
あまりの衝撃にゲーム用のタブレットが 指先から滑り落ちて。 格下相手に一敗を喫する羽目となった。 ]
……… 我が国では、 恋敵を殺害する行為は許されてたっけ? [ 動揺のあまり、そのような疑問を口走り。 そのままタブレットで検索した。 (当たり前だが)どうやら許可されていないとわかり。 絶望した日の事は、今でも脳裏に焼き付いている。 ]
(92) 2021/02/14(Sun) 17時半頃
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[ 当然の事だけど。 恋とは、何もしなければ成就しないのだ。
そこで、恋敵を害したところで、 僕の好きな人は、幸せにはならない。 本当に相手が好きなら、身を引くべきだ。 ─── なんて、殊勝な方向にシフトできれば まだ綺麗な話で良かったんだけれど。
どうにか法に触れない範囲で破滅させられないものか。
穏やかとは言い難い願望と、 失恋が決まっている想いを燻らせながら。 僕は今日もスマホが通知を鳴らすのを待ち続ける。 ]
(93) 2021/02/14(Sun) 17時半頃
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レイ。 いつもありがとうですよ
レイがたくさんお仕事をして、 そのお金を僕に投げてくれるおかげで、 僕は今日も美味しいご飯が食べられるのです。
(94) 2021/02/14(Sun) 17時半頃
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─── 105号室 ───
[ ROM専リスナーは流石に無理だけれど。 常連の名前は大体覚えている。 配信中。スパチャを読み上げながら、>>86 手を合わせて。
「女子の振りして食う飯は美味いか?」 「美味しい、よ!!!!!!」
脳内で自問自答を繰り広げつつ、 今日も朝日が眩しいなぁと、 目の淵に涙を溜めて、窓の外を眺めるのだった。 ]
(95) 2021/02/14(Sun) 17時半頃
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ところでリスナーのみんな。 ネットでしか繋がってない相手の住所を知る方法 何か知らないですか?
「 みぃ。何企んでる」 「 犯罪はやめておけ 」 「 鎖国しました 」
[ …… なんでバレた? ]**
(96) 2021/02/14(Sun) 17時半頃
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─ 二階/201号室前 ─
分かります。 それが無ければ、永遠に食べずにいられるのですが
[ 中身を問い掛けたことは無いが、たまに202号室に荷物が届いていることは知っている。 一つではない選択肢から買い出しを選びがちなのは、圷が今語ったような>>78経験が自分にもあるからだった。 こちらの場合は食事に関心が薄いだけだが。
推測には黙って頷く。 会話が億劫なのではない。隣人と顔を合わせた時はこんな風に静かに世間話を交わしている。 一般的には多いと言えないその機会は、こちらの休みと圷の〆切明けが重なれば常より多くなることもある。 ]
(97) 2021/02/14(Sun) 17時半頃
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事件の容疑者を捕らえて連行する。 さも自分は清らかなように他人を責める、そんな役です
[ 他者の秘密に踏み込んではならない。共同生活において信用は大切だ。 管理人は、当人から許可を貰い話していることも注意の際に伝えてくれた。
作家と役者に重なるものは少なくとも、明かさなければ理解が得難い生活という面には共感するものがある。 何も語らずただ観客として姿を見せてくれる姿勢>>79も、竜海には好ましく感じられた。
今日はどうだろうと客席にその顔を探す行為は無意識に根付いた。しかし、来ない時も気にはしない。 適度な距離感は歪みを生むこともなく、静かに続けられる。 ]
(98) 2021/02/14(Sun) 17時半頃
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[ 不意の一言──というよりは、自らそれに驚いたかのような圷の反応が こちらにとって、そんな関係性に初めて落とされた異物だったかもしれない。>>80 語るものと聴くもの、視点は逆さとなり相手の気持ちは理解が難しい。 ただ静かで冷たい雪の上に、一滴が黒点を作ったかのような。
微動だにしない口角、黒い目。竜海がその疑問に一切の変化を示すことは無く。 無感情で表層を覆ったまま、彼を見つめていた。 ]
俺は非常に無神経なので、存分に騒いでもらって大丈夫です でも、火事になったらなんとかして気づかせて下さい
[ そうして、普段通りの世間話のように振る舞う。 何も語らず話を戻すというのは、そういうことを求められているのだろうから。
いつも掴めない言葉の多い相手>>81らしいと思う。 ]
(99) 2021/02/14(Sun) 17時半頃
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[ 構われることは嫌いではない、誰かの厚意を受ければ有り難く感じそれを忘れない。 嫌悪より好かれるほうが良いに決まっている。
だけど、正しい者達にとって人間らしくないという大田竜海は、その評価の通り人間についての理解が低くて。 正直に言ってしまうと「あいするひと」に対してよりも関心が薄かった為に。
そういう圷の態度は接する度好ましく感じる。 ]
(100) 2021/02/14(Sun) 17時半頃
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[ 気紛れで親しんだ者に断片を零すことと、唐突な一言ではどうも受け取り方が違うようだ。 その男と圷とでは築いた関係性に差があるのも理由かもしれないが。 踏み込まれるよりも、ほんの少しの投げやりと意地悪のほうが良い。 ]
家賃が払えなくなったら、立ち退き前に挨拶しますから その時は最後に書いてる本の名前を教えて下さい
[ 鉄面皮の奥の思考が返答を遅れさせた。 自分なりの冗談を受け止めることとなるのは、階段に向かう遠のく背中。
大田竜海は同じ場所に立ったまま見送るように動かない。もし振り返っても一礼するだけだ。* ]
(101) 2021/02/14(Sun) 18時頃
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タツミは、ヨスガに話の続きを促した。
2021/02/14(Sun) 18時頃
タツミは、レイに話の続きを促した。
2021/02/14(Sun) 18時頃
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― 『軌道』 ―
[書籍化の話が出たのは、年が明けてすぐのことだった。 担当との打ち合わせはメールがほとんどだ。時々ボイスチャットで会議することもあるが、直接会う機会なんて滅多にない。そんな中、新年一発目だからと会社に呼び出された。
亀のマークが目印の書甲羅社は都心との中間にある。久々の電車に疲れ果てた姿で訪れると、年若い担当に満面の笑みで迎えられた。特別小柄ではないのだが、背後に小型犬が幻視できる。 そして告げられた話に、己はどんな表情をしていたのだろう。向かいの表情が曇った。]
別に、嫌な訳じゃないさ。 予想してなかっただけで。
[SNSも活用していない己には、感想が届く機会は少ない。ごく稀に出版社宛に届いたメールが転送されることがあるが、辺境のHPでメールアドレスを探してまで感想を送る猛者はそういないのだ。実感がない。 知らない才能を己に見出している様子の彼にお世辞はいいと一蹴するには、あまりにもまっすぐな目をしている。作家の気分を上げることも担当の仕事だというのなら、彼はきっと優秀なのだろう。背後の犬がドヤ顔しているような気がした。]
(102) 2021/02/14(Sun) 18時頃
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でも、そんな予算あるの。 この弱小出版社に。
[これは仕事だ。あるかも分からない才能だけでは成り立たない。必要なのは元手と、それを回収できる見込みだ。
話題にも上がらない作品を書店で見ただけで手に取る人間が、どれだけいるだろう。数億冊の中からたった一冊に選ばれる奇跡が、何度あるだろう。 今求められているのは奇跡を数回起こすことではなく、当たり前を何万回も繰り返させることだ。
それは彼も理解していた様子で、待ってましたと言わんばかりに企画書を出した。]
……Vtuber朗読企画?
[要するに関わりのないジャンルと組むことで、新たな客層を獲得しようという試みだろう。 とある会社>>76が主催するもののようで、候補のひとつとして会議にあげられるらしい。採用されれば、広大なネットの海に見知らぬ者の声で物語が放流される訳だ。話題性は十分。PRとして効果的だろう。]
(103) 2021/02/14(Sun) 18時頃
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なるほどね。それで呼び出された訳か。 ……いいよ、別に。好きにして。
[作品そのものを用いる以上、作家本人の許可がなければ進められないプロジェクトなのだろう。許諾すると、担当の青年は安堵の喜びに彩られた表情を浮かべた。 だからどこぞの誰か>>75が口にしたことと同じ懸念は、歯の裏にくっついたままだ。]
(104) 2021/02/14(Sun) 18時頃
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[幼馴染みの男女が共に成長していく中で芽生える恋。 友人がいる。ライバルがいる。障害もすれ違いもある。
恋は、結ばれなければならないものか。 恋は、伝えなければならないものか。 決められたものだけが、恋なのか。
ならばこの胸に残る痛みは、何だというのか。
物語は終盤に差し掛かり、抱え続けた恋心を ついに相手へ伝える場面が迫っている。
まるで最初からそうなることが決まっていたかのように 引き寄せられていく。 ここまで来たら、足を止めてもその先へ行き着くだろう。
人はそれを、運命と呼ぶのかもしれない。]
(105) 2021/02/14(Sun) 18時頃
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[――そんな、どこにでもあるような、まるい話。 角も、棘も、どこにもない。ありきたりだ、と思う。 男が作品に落とす視線は、いつも冷め切っていた。]
(106) 2021/02/14(Sun) 18時頃
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[口元が落ち着かずタバコに手を伸ばそうとしたところで、小さく舌打ちをした。その程度の抵抗では、懸念は口内にしがみついたままだ。 担当が苦笑して灰皿を勧めたが、手で制して首を振る。]
いい。人前では吸わないから。
[実際、シャツの胸ポケットは空だ。宙に浮いたままの手の着地点を探すように、担当の手元にある資料を示す。]
それ。朗読者候補? ちょーだい。
[アバターらしき写真とプロフィールが載っている。この中の誰かが己の世界に声を授けるのかもしれない。そもそも選ばれた場合の話だが。取らぬ狸のなんとやらだ。 数枚に及ぶ資料を眺めた後、三度折り畳んで空白の胸ポケットに押し込んだ。]*
(107) 2021/02/14(Sun) 18時頃
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レイは、エフという作家名はエゴサしづらそうだ、と資料を見ながら思った。
2021/02/14(Sun) 18時頃
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[視線の先、彼女が口を開くのが見えて>>55、思わず肩を震わせた。 のも、束の間。 彼女の声と視線は明らかに自分ではない誰かに向けられており、よくよく見てみれば彼女はその手に持ったパンを耳に当てていて、
………パン?
思わず二度見をしてしまう。 同時に他の何人かがこちらに視線を向けたことにも気付いたが、これはさすがに自分にも分かる。自分ではない。彼女を見ている。
ほっと胸を撫で下ろし、いや、自分もあまりじろじろ見ては失礼だと再び視線を地面に落とした。
しかし、あそこまで堂々としているとまるでパン型のスマートフォンが開発されたのではないかとすら思えてしまう。さすがに技術大国日本といえどそのような物が開発されたと聞いた覚えはないが、 ……いや、そもそも彼女は、どうしていきなりパンと話し始めたのだろう?もしや本当に、あの時パンが彼女に語りかけ、彼女はそれに応えて……?
など、考えつつ。 自分に視線が向いていない今のうちに、とばかりに足早に仕事場へと向かう。 ヒールの音も遠ざかる。今見た光景が衝撃すぎたせいか、先程までの笑い声ももう気にならなくなっていた。]
(108) 2021/02/14(Sun) 18時半頃
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[それから2ヶ月程過ぎ、ついに選考会議が始まるらしいと昨晩届いたメールで知った。あの時言われたもうひとつの条件は、未だ満たされていないままだというのに。
――ペンネームを決めましょう。
Fなんてアルファベットでは、作者名が数多の言葉に埋没してしまう。先生らしい名前をお願いしますね、なんて無茶を言うものだ。 別に識別さえできれば、適当でもいいだろう。
そう思うのに、何度も開かれた形跡のある三度折られた紙の前で、返信用のメール欄はずっとまっさらなままだ。
何でもいいはずだ。何でもいいはずなのに。 己はまだ、自分に名前をつけることができないでいる。]*
(109) 2021/02/14(Sun) 18時半頃
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― 仕事場にて ―
[台の上で手を組み、横たわる女性。 日本式に手を合わせて祈りを捧げると、彼女の顔を覆う布を捲った。 まだ若いと言える年頃の彼女の肺にはどうやら水が溜まっているようで、さながらオフィーリアか。
それは自分が唯一、"人"と正面から向き合える瞬間。
時間が経ち、歪んでしまった身体を美しく整えていく。 それは決して口を開かないし、決して目を開くこともない。 だから自分を見て嘲笑することも、罵られることも決してないのだ。 自分が手をかけ、まるで生きているかのような安らかな寝顔を取り戻させたとしても、決して。
なんて。 なんて心安らかでいられるのだろう。]
(110) 2021/02/14(Sun) 18時半頃
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[──逆にいえば。 それ以外に、自分が"生きている"人間と接する時、心休まることがないという事なのだが。
故人から顔を背け、そっと溜め息をひとつ。
たとえば──たとえばもし、自分を苛む笑い声を一瞬で掻き消してくれたあの彼女が、 "こう"、なってくれたなら。 自分も彼女に、正面から、素直に向き合えるのに。
なんて、思った。]*
(111) 2021/02/14(Sun) 18時半頃
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地下軌道 エフは、メモを貼った。
2021/02/14(Sun) 18時半頃
ヨスガは、エフの名が記載されたDMに目を通す
2021/02/14(Sun) 18時半頃
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[ 大田竜海は恋をしている。 その相手は賀東荘の住民で、ずっとここに住んでいる。
──他の誰もがその数にはカウントしないのだが。 ]
(112) 2021/02/14(Sun) 19時頃
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─ 一階/ロビー ─
[ 風呂を終えてから暫く立ち、もう昼が近いか。
明日からはバイトがまた連日入る。 時にセットや大道具の運搬も行い、バイトには肉体労働も含む竜海は鍛えていないわけではないが、そろそろ年齢も気になる頃。
本来なら充分な休息を取るべきところだが、此処にいるほうが眠るよりもずっと癒やされた。
部屋の外にいる時のお決まりの定位置で、いつもと同じように絵を眺める。 ]
(113) 2021/02/14(Sun) 19時頃
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[ 賀東荘のロビーにある絵は、『氷海』というタイトルの無名の画家による作品だ。 旅館時代から同じ位置に飾られ続けている。
薄氷と白と灰色で殆どを彩る世界は、海の雄大さと冬の厳しさを表現している。 何処にも人工物は見当たらない光景、繊細な筆がその極寒に幻想を宿していた。 現実性の主張が抑えられている為に日本の海のようにも海外にも感じさせられ、和の多く含む建物の中でも浮くことは無いまま目だけを惹く。
唯一の暖色は、その海を眺めるように凛と立つ白い外套の青年の肌の色。 ]
(114) 2021/02/14(Sun) 19時頃
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[ 生活も危うい収入の息子に結婚を急かす両親は、何も考えていないわけではない。 彼らには良いところの女性を紹介してもらうだけのツテがあった。 婿がその気になれば以前よりも更に大きな、一般人でも知るような劇団に移籍させられるような家だ。
大田は代々医者の裕福な家系である。 ゲームやアニメーションは教育の方針で許されなかったが、芸術に触れさせることには積極的だった。 かつての旅館に家族で泊まりに来たのも、海近い地の美術館に行く為だった。
本当の運命は旅館のほうに佇んでいたわけだが。 ]
(115) 2021/02/14(Sun) 19時頃
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[ それは竜海には、何よりも鮮やかに見える。
こちらを向くことのない海より深い色の瞳が何を抱いているのか、いくら眺めても底は深く心を捉えて離さない。 凍てつく潮風で髪が乱れずとも、吐いた白い息が見えなくても、彼はその世界で生きているようにしか見えなかった。
少年時代の初恋だった。 それ以来、絵画の中の人物にしか想いを抱いたことはない。 何故付き合えないのかと詰め寄ってきた少女に想い人がいることを打ち明けさせられ、諦められないという彼女に美術室の婦人画を紹介させられ 嘘をついて人気者の女子を馬鹿にしたと虐められることになっても、変われなかった。
人間が経験と時間を積み重ね、容貌を変えていく様と、丁重に塗り重ねた絵の具で生まれる小さな世界の住民の姿
両者に何の違いがあるのか分からなかった。 ただ、より美しく感じた方に恋をするようになっただけのつもりだ。
あの劇の中の狼少女ならば、理解してくれるのかも知れない。 彼女は人間も一皮剥けば同じであることを、その裏を覆う表皮の層が人物を構成していることを、二つの意味で知っていたから。 ]
(116) 2021/02/14(Sun) 19時頃
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[ 『氷海』を眺める目にも温度は無い。 ただその執着が、真っ直ぐに額縁の中に注がれる。* ]
(117) 2021/02/14(Sun) 19時頃
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