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う゛
[振り向いたそれと、目が合った。
脳が揺さぶられる感覚。
そいつが扉の前に辿り着く前に、
俺はとっさに扉を閉める。
ばん、ばん、と扉を殴る音が響く。
元帥が太い腕で扉を固定して
鍵を閉めるのが見えた。
我慢できたのはそれまで。
せりあがってきた吐き気をこらえきれずに
マスクを外して、俺はトイレに駆け込んだ。]
[なんで?
沙良の部屋に進の死体がある。
ゾンビになった沙良がそれを食べてる。
なんで?
俺さ、2人の幸せを願って身を引いた筈なんだよ。
片思いこじらせ童貞だって、身の程を知って
進には当たったけど、沙良に恨み言は言わなかった。
なんで?
明日なんかこなければいいって、
そんな罰当たりなこと願ったから、
二人には幸せな明日はこなかったの?
なんで?]
[あの日。進を殺したあの日。
俺が保身にかられて逃げ出さなければ。
沙良を説得していれば。
ああいうことには、なんなかったのかもしれない。
そう思うだけでもう俺は死んでしまいたい。
何が英雄だ。何が。
大事な友達だって好きな女の子だって
誰一人守れやしないんだ。
生きてる価値一番ないやつが
なんで生きてるんだよ。
なんで。]
「クシャミ。……クシャミ。おい、串谷秋!」
[揺さぶられる感覚に我を取り戻す。
珍しく焦った目をした元帥が、
俺をのぞき込んでいた。]
元帥。
[そういえばこいつの本名、知らないんだよな。
って、どうでもいいことを考えた後、
へらりと笑って、俺は声をあげて泣いた。]
[どうすればよかったんだよ。]*
[キャロライナに出会ったのは、実り満ちた畑だった。]
[海を越え、初めて降り立った大地は
写真で見たよりもずっと広く、私は少し辟易していた。
どこかしこ作物が実り、肥料のすえたような匂いがする。
先輩のサポートとはいえ、契約相手の前で
鼻を摘む訳にはいかず、実状確認の名目で
ひとりの時間を得てようやく鼻筋に皺を刻んだ。]
……何もないな。
[ここにいるのは元々大豆かトウモロコシだけで、
賛同する声も、声量を憚る必要もない。
後者は収穫間近で、実った種を青い葉の内に隠して、
白い髭を乾いた風に揺らしていた。
息苦しさなど欠片もしらないような土地に、
息をするのすら躊躇ってしまう。]
[規律正しい養父母の下、道を外れることなく生きてきた。
学業の成績は特別秀でている訳ではなかったが、
幸運にも職を得ることができ、就職してすぐ借りた
アパートにも、今では余裕を持って住み続けている。
シエスタを切り上げる度に真面目だな、と言う同僚へは、
両親に似たのさ。と、肩を竦めて見せた。
人というものが、あまり好きではない。
近づけば感じる体温が苦手だ。
――肌の奥に何かが入ってくる心地がする。
感情の滲む声が苦手だ。
――耳の底を己の意思とは別に擽られる感覚がする。
共有を強いられる時間も、並ぶことで生まれる比較も、
そして何より、それらの恩恵を得ながらも
疎い続けている自分自身が好きではなかった。]
……っ、 と、
[腰の辺りに強い衝撃があり、蹈鞴を踏んだ。
丁寧に磨かれた革靴の先が柔い土へとめり込む。
振り向いた視線の先には、燃えるような赤毛があった。]
“お兄さん、どこから来たの!?”
[キャロライナ――キャロルは、
ここら一帯の畑を管理する一家の末娘だった。
周囲に建物のほとんどないこの地で生まれ育ち、
スクールには通わず、家の手伝いをしているのだと言う。
大人とばかり接しているからだろうか。
彼女は私の知る子どもよりずっとしっかりしていて、
そして私の知る何よりも自由だった。
そんな彼女を揺れるトウモロコシの前で初めて見た時、
私は太陽の在処をようやく知れた気がしたのだ。
これまで、曇天の中で生きていたことに気づいたのだ。]
[それから暫く、仕事でこの国へ滞在することになった。
畑にも足繁く通い、合間はすべてキャロルと過ごした。
周囲は私が彼女と遊んであげていると思い、感謝したが、
実際は私が彼女に教えを乞うていただけだった。
二人きりの間だけ私は彼女を先生と呼び敬語で話したし、
彼女は私をミケーロと呼んだ。
夕食のパイを気づかれずに一切れ攫う方法。
女性の社会進出における問題点について。
屋根から見る星がどうして他より美しく見えるのか。
電話線を繋がず遠方と話すにはどうしたらいいか。
彼女はまず自分の考えを情感たっぷりに語り上げた後で、
必ず私へ「ミケーロはどう思う?」と尋ねた。
それに答えている間は疎う体温も声も、
自身への嫌悪も何もかもを忘れられたから、
私は夢中になって己が考えを述べた。]
[ある授業の休憩時間、私は先生へ尋ねたことがある。]
寂しくはないのですか?
[彼女はいつもひとりだった。
周囲とソリが合わない様子も、嫌っている訳でもない。
畑の手伝いもすれば、食事だって共にとっているようだ。
けれど、それでも、ひとりだった。]
“どうして? こんなにも自由なのに!”
[少女は笑いながら両手を広げ、当然のように答える。
出会ったあの日、呼吸を躊躇った感覚を思い出した。
論理的な理由などどこにもなくて、きっかけも曖昧だ。
けれど、それだけで、私は。]
[数ヶ月に渡る準備を終え、本国へ帰った後も、
毎年夏になると畑の様子を見る名目で彼女の元を訪れた。
一年目の夏、彼女は得意げに自分の名前を書いて見せた。
地面に枝で穿たれた文字は、最後だけ裏返っていた。
数年目の夏、彼女は顔に大きな傷を作っていた。
通りがかった旅人と喧嘩をしたのだと笑っていた。
それから更に数年後、彼女のお腹は大きく膨らんでいた。
父親はいないのだと言う。
名前をつけてと頼まれたから、丁重に辞退した。
翌年、シーシャと名付けられた男の子が生まれた。]
[シーシャはすくすくと育った。
キャロルはスクールに通わせないつもりのようだったが、
彼女の家族と共に説得すると渋々同意した。
シーシャはすくすくと育った。
元々身体の弱かったキャロルは床に伏せるようになり、
生まれつき足の弱かった私も加齢と共に歩けなくなった。
それから更に数年後。冬の迫る秋のこと。
すっかり古ぼけたアパートにシーシャから手紙が届いた。
キャロルが亡くなったらしい。
眠るような、穏やかな最期だったと言う。
私は暫し瞑目した後、手紙を丁寧に破いて捨てた。]*
[最小限の明かりが灯された、暗い家の中。
クローゼットの前にはソファーがあった。
隣の部屋まで押していくのは重労働だったが
それでも、なんとかやり遂げた。
辛かったのは、ソファーを押すことなんかよりも
兄貴がクローゼットから出たがる音を、
聞かなかったフリをすることだ。]
[壁を引っ掻く音が、断続的に聞こえる。]
[腰のポーチにはスマホの充電器とケーブル。
あとは……兄貴が、力のない僕にと見繕った
出刃包丁を布巾にくるんでつっこんだ。
長くて全部は入らなかったけど、
すぐ出せるならいいかと、
持つところだけはみ出たまんま。]
[あとは、地図の確認や明かりぐらいにしか
使えなくなったスマホをポーチに入れる。
このあたりの基地局が機能しなくなったのか、
充電をし直した後も、ネットには繋がらない。
それでも、スマホは手放す気にはなれなかった。
最後に投稿した内容はよく覚えている。
世界が今どうなっていて、
これからどうなるのだとしても
僕は、生きてやると決めたんだ。]
[ソファーの前に立って、
クローゼットの方を見る。]
「グ……ウァ、……アー……」
[聞こえるのは呻き声。壁を引っ掻き、殴る音。
時折、クローゼットの扉が歪むけれど。
紐やらガムテープやらでぎちぎちに固めて
ソファーでバリケードを作ったお陰で、
兄貴がここから出るのは厳しそうに見えた。]
兄貴。僕、行くよ。
兄貴を殺すのはどうしてもできなかったけどさ
絶対に、人を襲わないように
そうした、つもりだよ。
[ずっと泣き続けてきたからか、
もう、涙が出ることは無かった。]
僕、兄貴の分まで、生きるから。
どれだけ長くかはわからないけど……
やって、みるから。……安心して。
[兄貴のバイクの鍵を握りしめて。
僕は、玄関の方へと踵を返す。
それから一度も振り返ることはなく。
玄関ののぞき穴から外を見て、
扉に耳をつけて音がしないことを確かめてから
玄関の扉を、そうっと開けた。]
[僕のバイクは長い間乗って居なくて
メンテナンスのへったくれもない状態だ。
それを知っていた兄貴は噛まれた後に、
自分のバイクの鍵を僕に預けてくれていた。
大分前にお隣さんを落とした方……
裏の方からは、何かの咀嚼音が聞こえてくる。
僕はできるだけ音をたてないように、
兄貴の青いバイクの方へと向かった。]
は、……ガソリンちゃんと入ってる。
傷もないし、いつ見ても綺麗だよな…。
[高校の時に取って、少しは運転したけれど。
大学に入ってからはめっきり乗っていなかった。
僕が、兄貴のバイクに乗っていいんだろうか。
―――そんな風に悩んでいる余裕は、
今は全く残っていなさそうで。]
[バイクを表に引っ張ってきたときに
裏から顔を覗かせたゾンビと目が合った。
とても、人間とは思えない肌の色をしていて、
所々腐りかけ、口元は肉と血で汚れている。
今まで、あいつは何を食べていたんだろうか。
兄貴も……いずれ、ああなるんだろうか。
考えちゃいけないことを予想してしまって、
吐き気が込み上げて、動けなくなりそうだ。
よろめいた時に、バイクに腕が当たる。
よく磨かれた、透き通るような青。
兄貴が僕に託してくれた物。]
(―――ここにいちゃ、駄目だ。)
[こっちに向かって来ようとするのを見て、
慌ててヘルメットを被り、バイクに跨った。]
こんなとこで、食われてたまるか……って!
[一気にアクセルを捻る。
バイクは住宅街から大通りの方へ加速していく。
目指すところなんて、何も決めてないし、
不安しかないけれど、もう、やるしかない。
まずは都心から離れるんだ。
ここから一番近い高速のインターはどこだっけ。
平和な場所なんてあるかどうかはわからない。
それでも、なんとかして生き延びるために、
ゾンビがあまりいない場所を……探さないと。]*
メモを貼った。
― 夜・コーヒーショップ『abbiocco』 ―
[彼女の国へ転勤を希望したのはそれから数年後のことだ。
養父母も既に旅立ち、長年住んだアパートにも
物はほとんどなかった。
身ひとつで移住し、この地で車椅子を得た。
シーシャが就職して来たのは驚いたが、数年とはいえ、
赤ん坊の頃から知っている子と共に仕事をするのは
何だか不思議な気分だったのを覚えている。]
……。
[10フィート先で俯く顔を見る。
機能しない瞳では、表情を窺い知ることはできない。
色素の薄い髪が暗いのは、濁る瞳のせいではないだろう。
どちらからとも知れぬ、酸い匂いが鼻腔をくすぐる。]
[限界だった。傷だらけの右手を床につくと力を込める。
何日も動かずにいた関節は石のように固まっていたが、
動かしてみると硬質な音と共に案外簡単に曲がった。
壁を引っ掻きながらゆうら、ぐうら、立ち上がる。]
あ゛ー……ふ。
[もう動かなかったはずのものが動くのは
本来喜ばしいことのはずなのに、
地面についた足を見ても何の感情も湧かなかった。
気を抜けばあっという間に崩れてしまいそうだったから、
息を詰めて足を動かした。
静寂の夜に、不快な摩擦音が響く。
10フィートの均衡はあまりにも容易く乱れた。]
[どこへいくの、と。泣きそうな子どもの声がした。
返事をすることなく、唯一機能している裏口へと進む。
マスタと呼ばれた。ミケーロさん、と。ミケ、と。
呼び名が若返って行く度に、
子どもの声は徐々に癇癪に近いものへなっていく。
ひとりにしないで、と。掠れた声が届く。]
きみは……自由、なん だ。
[嗚呼、やはり私はキャロルにはなれない。
隣人の協力の下、使い道のなかった金で店を出しても、
彼女を真似て望むままに生きようとしても。
ねえ、キャロル。
――ひとりは、私には少し寂しかったよ。]
わたしが望む、のは、
君にわたしを殺させること、でもなく、
わたしがきみを外へ、追い出すこと、でもなく、
ましてや、わたしがきみを、がいすることでも、なく、
きみが、いきること だ。
[限界だった。
打開策を模索する思考は日に日に薄れていくのに、
身体は少しずつ楽になっていく。
すべてが己が手から離れていくのが分かった。
だからせめて、最期に、彼だけは助けたい。]
あいしている よ、 しーシャ。
きみ が、うまれて きて、うれしかっ た。
[後ろであたたかいものが動く気配がして、
“俺は、母さんのことあまり好きじゃなかったんだ。”
と何を言って音がわからな、あたたかいの。だめそと、]
[ちょうど目の前にある板を叩いた。
ぐしゃりと皮膚が潰れる音がして、冷たい風が吹く。
さむい。やだな。でも。そと。ひろい。]
……あ゛、 あ゛ー 。
[さむいから、あたたかいもの。
ここ? ちがう。そとで、さがす。
広大な大地に、二本の足を踏み出した。]*
[ ……そう、餌をやろうと思ったの。]
[ そうしたら部屋の前にジャーディンがいて、]
[ 開け放した扉の先に何かを確かめるように、
ひたすらにせわしなく視線を動かしていて、]
[ わたしの存在に気付いて、目を見開いた。]
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