20 Junky in the Paradise
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[その女中に、主の従妹が紡いだ、謝辞の言葉。
女中は目を見開いて]
ご主人、様が?
――いえ、礼を言うのは、きっと私の方です。
私もきっと――此処に居られて、孤独ではなかったのですから。
[歳の近しい主を、友人と思う事は終ぞなかったが。
親しみを感じていなかった訳ではなく。
何処かに姿を消した主人を思い、女中はしばし瞑目した]
だって……。
[そんな力なんてありはしないのはわかっているのに、何かできるかと一瞬でも思ってしまって。]
[髪にそっと触れるマーゴの手は優しい]
『そんなの…冗談じゃないわ』
どうかしたの?
あの人たちが何カ?
[マーゴの語気には苛立ちが滲み、眉は顰められている]
『其れはもうアタシじゃないわ』
[言葉の向かう先は、恐らくは彼女の亡骸を抱く男─彼女が炎の中から助け出した男でもある─。]
[二重映しになる、死せる者と生ける者の光景。
其処には先程、スティーブンにこちらへと送られた青年の姿もあった]
――――
[先程は冷たい視線で見詰めていた彼の死。
しかし、屋敷を訪れた時の彼の様子を思えば、微かな後悔が胸を過ぎった]
私が、止められていたなら――か。
[今となってはどうする事も出来ず、ただマーゴとのやりとりを見詰めている]
[差し伸べられた手を取って、マーゴの荊からの脱出を手伝う。]
あれ?今ハ……
[さっき灼熱の棘を刺してきたはずの荊は、今度はぬるくすらない。
気をつけるのは棘だけだ。
手を取り、肩を掴んで荊の戒めの外へと。]
痛くテ我慢できなかったら、言ってね、マーゴ。
……あァ、大丈夫だったヨ。痛くも熱くもなかったんだ。心配はいらないかラ。
[荊から抜け出す事のできたマーゴが自分の手を取って、何事もなかったかと裏表をひっくり返さんばかりに見ている。]
[そのままでマーゴが語り始めたのは、とある不器用な青年の話。]
[──いつしか、繋がれていた手は離れてしまっていた。
自分の手からマーゴの顔へと視線を移す。]
そういえばあの人には、「邪魔するな」、「盗るな」って何回も言われたんダ。あの時ハ、何の事だかわからなかったけど─
──あの人の傍にいる気がないのなら、これからマーゴは何処にいるつもりなノ?
[離された彼女の手に向かって、手を伸ばした。
一人でいて欲しくない 願わくば、傍にいて欲しい]
邪魔してるのは何時だって自分なのにね
ほんと莫迦なんだから
[スティーブンの言葉を聴けば呆れて呟くも、
問いにはヤニクを見詰めて瞬く]
アタシ? ふふっ
悪魔に天国は似合わないでしょう?
女王様の犬とは遊び足りなかったし
冥府の犬と遊びにいこうかな
[云うも冥府が何処に在るのか知る筈はなく、
伸ばされる手に気づけば手指を伸ばして触れる]
心配して呉れるの?
ほんと変なヒト
そろそろお開き、でしょうか?
[正気に戻りつつある――或いは、元々正常ではなかった――面々を見ながらぽつりと呟く。
視線は悲鳴を上げる男の――最期に見た記憶のある男の行く先を追った]
[狂った様に鳴り響く柱時計の音。
まるで澱んだ時が一気に流れ出すかの様に、
溢れかえる時の氾濫が齎す混乱]
キレイだわ
とても キレイ
ホウカイの音が聴こえる
壊れて イク
[ノーリーンの呟きは恐らく予想通りなのだろう。
残る人間は少なく時は動き出したのだから]
最後は華やかだといいのに
あの人ハ──どうなるんだろう?
[生者たちの混乱と恐慌─一因は自分の死体にもあったりするのだが─を見つめながら呟いた言葉は、マーゴに向けられたのか否か。]
[触れた手をそっと、けれどしっかりと繋いだ。自分の意志でこの手を離すつもりはなく。]
そうですね。
永遠に、傷痕として残るなら。
――きっと、消えてしまった方が。
[マーゴの言葉を耳にして、それに返すともなく呟いた]
何もかも、終わってしまう?
[3人の生者をただ見ているしかできぬまま。]
[繋がれた手を見て三度瞬くも解く事はなく、
ヤニクの言葉に喧騒の方へと顔を向ける]
また誰か来るんじゃないかな
だってみんな未だ醒め切ってないみたい
スティーブンがこないとイイけど
[呟きはスティーブンの死を願わぬからなのか、
彼との再会を望まぬからなのかも曖昧]
ヘクター辺りは既に傷がいたそう
[ 脅え ]
[ 逃げ ]
[ 惑う ]
カラダは一番無事っぽいのに
[ノーリーンの言葉に返すともなく、
ヘクターの様子を眺めて呟く]
アタシを殺したのはスティーブンだけど…
可能にさせたのはアナタなのに
忘れちゃったの?
[スティーブンが穿った痕の他に傷痕はないけれど、
ヴェラに首を締められた事も今は覚えている。
聴こえぬ声を囁く声音は酷く優しくて微かに愉しげ]
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