308 【R18】忙しい人のためのゾンビ村【RP村】
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[ わたしは必死に反論したわ。
絶対に許すわけにはいかないと思ったの。
何かほかに手立てはないかと、
記憶を探って知恵を振り絞って言ったのね。
けれど、奥さんは非常に苛立った素振りで、
ぶんぶんと大きく首を横に振るばかりだった。
そしてヒステリックな口調で叫んだわ。]
ないわよ!
そんなの出てきっこないし、
助けなんてさんざん求めたわ。
でも、この混乱の真っ只中で、
誰も気に留めちゃくれなかった。
無理なのよ、今はまだ。
状況が落ち着くまで、
なんとかして生き延びないと……
[ 奥さんはぜいぜいと肩で息をしていた。
呼吸を整えるように深呼吸をして、
そして、またわたしをじっと見るの。
良いわよね、あれだけいたら、
しばらくの間はきっとしのげるわ
真剣な目でそういう奥さんに、
わたしはこれ以上何と言えばいいの?
代替案が何も思い浮かばない、
自分の頭とこの状況がひたすらに憎かった。]
だめよ、絶対に。
あの子たちを食べるだなんて……
[ わたしの声はいつしか泣きそうだった。
そんなわたしを見たご主人が、
ずいぶんと落ち着いた様子で口を開いたわ。]
エドワーズさん、考えてみてください。
普通の状況ではないんです、そうでしょう。
きっと皆そうしています、家畜だけじゃない。
乗馬用の馬やペットのミニブタを食べてでも、
人々は生き延びようとしているはずです。
それと何が違うんですか?
何としてでも生き延びようとすることが、
そんなにも残酷で、醜いことなんでしょうか
[ 顔を覆ってしまいそうなわたしの手首を握り、
わたしの目を覗き込むようにして彼は言った。
ご主人もやっぱり真剣な目をしていたの。
正しいことを言っていると信じている者の、
まっすぐで強い眼差しをわたしに向けていた。
……言葉が出てこないの。
ノーリーンを撃ったときと同じよ。
彼らの言うことは間違っていないようにも思えた。
けれど、わたしの心は確かにノーと言っていたわ。
それでも小さく首を横に振るわたしに、
ご主人は畳みかけるように言葉を重ねたわ。]
お孫さんを死なせたいんですか?
私は、息子に生きていてほしい
[ 喉がからからに乾いていたわ。
魂を吸われてしまったみたいに動けないわたしに、
ご主人は考えておいてください≠ニ言った。
その場を去っていく二人の背を見送りながら、
わたしの頭の中はもうめちゃくちゃだった。
あの子にひもじい思いをさせたくないわ。
いつか自分の綴った言葉が頭の中に響いていた。
けれど、そんな惨いことが許されるはずない。
ねえ、そうでしょう?
わたし、何かおかしなことを言っているかしら。]
[ お願い、答えて。いのちに優劣があると思う?**]
― 数日後・コーヒーショップ『abbiocco』 ―
[あれから何日が過ぎただろう。
窓から覗く空模様だけでは、正確な時間は掴めなかった。
壁掛け時計の針は、濁った膜に覆われてよく見えない。
畑の間を走る道路から、車の音は聞こえなかった。
規制がかかったか、
あるいは車に乗る人そのものが少なくなったのだろう。
数少ないエンジン音も、明らかに壊された形跡のある
ドアを見れば、速度を上げて走り去っていく。
ここを訪れる者はいない。
孤独が満ちるはずだった――それなのに。
例外は、いつもと変わらぬ体勢のまま俯いている。]
[最初、彼がその場を離れた時、助かったと思った。
好きな方を選べと言ったけれど、
あんなもの、二択の皮を被った一本道だ。
悔いのない選択など、今ここには存在しなかった。
しかし彼はすぐに戻ってきた。
その手にあったのは、
申し訳ばかりの缶詰と土のついたままの野菜だ。
彼はコートの袖で拭った人参に齧りつく。
眉間に皺を寄せ、泣きそうな顔をしている癖に、
目の光だけは消えないまま。]
……ふ、 ふ。
[思わず小さな笑い声が零れた。
シーシャが視線だけでこちらへ問いかける。]
ふ……いや、すまない。
前言撤回しようと思ってね。
私はキャロルにはなれないが、
ははおや
君は、キャロルによく似ているよ。
[薪を燃やす炎に似た赤毛を思い出す。
太陽が落ちて来たみたいな笑顔を思い出した。
シーシャは虚をつかれたような顔をした後、
一瞬だけ眉間の皺を解いて笑みに近い表情を浮かべた。]
[それからずっと、10フィートの境界は保たれている。]
[寝る時は私のベッドを使いなさいと言ったけれど、
シーシャは頑として聞かなかった。
生きる為に必要な分だけ動き、
必要ない間はすべて店の壁に背を預けて過ごしていた。
会話はほとんどない。
日に何度か彼の名を呼んでは、拒否の一言で幕を閉じる。
あの日から、状況は平行線のままだ。今日も駄目だった。
――嗚呼、
そんなことをしている間にまた夜が来てしまうのに。
空が暗く滲んでいくのを、濁った左目で見つめていた。]*
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[ それから、同じことの繰り返しだった。]
(56) 2020/10/24(Sat) 23時頃
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[ ビルの非常階段で、眠りに落ちかけては目覚めた。 せめてもの護身用にと抱えたモップの柄。 何度目だろう、がくりと体が揺れて、頭を振る。 ビルの隙間の空は白んできていた。
朝日の差す空をぼんやり眺めていると、 "何か"が非常階段の扉を突然叩いた。]
ひ───
[ ここにもこれ以上いられない。]
(60) 2020/10/24(Sat) 23時半頃
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[ モップを持ったまま、階段を駆け下りる。 路地を出ようとするとその先には"何か"の姿が ちらりと見えた。 こちらはダメだ。 踵を返し逆に走り、通りへまろび出る。 できるだけ安全なところへ。
でもそんな所どこにあるんだろう?]
(61) 2020/10/24(Sat) 23時半頃
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[ 逡巡し、足が止まると斜め後ろから呻き声がした。]
や───
[ 思わず振ったモップの柄に、鈍い感触が響く。 そこにいたのは呻き声を上げる"何か"で。]
───っ!!!
[ 声にならない悲鳴を上げながらモップを引く。 "それ"はぐらりと後ろに大きく揺れた。 私は通りを走る。走る。走る。
ビルの路地、エントランス、自販機の陰。 非常階段、駐輪場、マンションの裏。 止まっている車は大抵ロックが掛かっていた。 他人の家は──どうしても罪悪感が消せなかった。
つまり、私の居場所は今この世界には どこにもなかった。]
(62) 2020/10/24(Sat) 23時半頃
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みず……欲しい……
[ 何度目だろうか、小さなコンビニの裏手で 座り込んだ私は思った。 水も、食べ物もない。 頼りのスマホもバッテリーが心許なくて。 そもそもこんな状態でスマホの決済も 使えるのかどうかわからなかった。
きっと私は"あいつら"と変わらない目をしていた。 そのまま横に積んであったコンテナに少しだけ 身を預けると。
ごとん。
コンテナの影からコロコロとココアのボトルが 転がり出た。 恐らく廃棄予定だったのだろう。 いくつかは袋が破られていたが、賞味期限切れの おにぎりも落ちていた。]
(65) 2020/10/24(Sat) 23時半頃
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余計、のど乾くじゃん───
[ へへへ、と笑い声が漏れているのに、涙が出る。 ココアを拾い上げて飲み干すと、やっぱり甘くて 喉に絡まって仕方なかった。 乱暴におにぎりのパッケージを開けると、 海苔が全部持っていかれてただの白いおにぎりに なってしまった。
何もかも滑稽で、笑いが止まらない。 早く飲み込まないと、またあいつらが来るのに。]
(66) 2020/10/24(Sat) 23時半頃
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[ そうして、何度も同じことを繰り返して、 やっと自宅だった場所に帰り着けたのは 4日目の夕方だった。]
(67) 2020/10/24(Sat) 23時半頃
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[ どうして家へ戻ってきたのか自分でもわからない。 でも、もしかしたら──あの猫がいる気がした。
マンションは、半焼というレベルだろうか。 火の手の出ていた東側は真っ黒になっているが、 私の部屋近辺は多少煤けているだけに見えた。]
う、わ。
[ エントランスに人気はない。 プラスチックが焼けたような臭いがあたり一面 充満していた。
あまりの焦げ臭さに口元を手で覆いながら とぼとぼと階段を上る。 あの時猫を連れて逃げ出せたのが奇跡かもしれない。]
(68) 2020/10/25(Sun) 00時頃
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[ 家に帰ってこれたのも、運が良かったと思う。 そう私は自分に言い聞かせる。
日常を失っても体が無事で良かった。 火事になっても家が焼け残っていて良かった。 せめて猫を外に連れ出せて良かった。
今までずっと、自分にかけてきた呪いの言葉を また自分に向けて唱える。]
(72) 2020/10/25(Sun) 00時頃
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ただいま。
[ 誰もいないはずの私の部屋。 そろりとドアを開け、中に入る。 電気のスイッチは反応しない。 部屋中にもやはり焦げた臭いは充満していた。
部屋の鍵を後ろ手に閉めようとした時、 「みゃおん」と声がした気がした。]
──アーサー…──!!
[ 私は声を上げて部屋に入った。 最後の最後で神様は]
(75) 2020/10/25(Sun) 00時頃
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