254 東京村U
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俺はね、つまり。……ごめん。
やっぱり少しだけ怖いんだ、まだ。
君たち二人と会えて嬉しいのは本当、話してて楽しいのも本当。
ただ………出来ればハナコちゃんが”あの世”に案内してくれるんじゃないと、いいなと、思ってしまって。
[ちらりと眺めやる日菜子の手首には痣のような跡がある。あれは引っ張られた跡なのではあるまいか……?
かわいいとの評には、困ったように眉を下げる。結局誤魔化すことを諦めて素直に問うと、参ったなあと無邪気そうに見える小さな影と少女とに首を傾げた*]
ここ、どこだよ!?
[自分は、知らないマンションの一室にいた。]
つか、なんでパンツ姿なの、オレ!?
[さっきまで新宿の、新宿不動産にいたはずである。
身ぐるみを剥がされて、下着一枚の状態。
携帯などは、勿論、あるわけが無い。]
つーか、どうなってんだよ、コレ!?
[一二三は訳も判らず、*叫んでいた*]
[どうも間の抜けたような気分である。いや、そう暢気なことを言っていられる状況でもないのだが。
元々は、一人だった。
幾ら歩いても出られない駅、そこに現れたのが彼女二人(?)だ。相手が年下の女の子とはいえ一人より格段にありがたかったし、何よりも互いに顔を見知っている安心感も互いにあっただろうと思う。
ただ。歩き出して少ししてから、また不安が押し寄せてきてしまったのだ。彼女の右手を引く小さな影、その影の行く先へと自分たちは歩いている。
影──”ハナコちゃん”は機嫌が良いようで、歩む様子はごく楽し気、今のところ壁を抜けていく風もなし、一見すればごく普通の可愛い小さな女の子のようだ。…影でなければ。
しかしそれでいいのか。小さな手に引かれて歩く、そちらが本当に正しいのか。その影は一体何者なのか……?]
良かったら、ハナコちゃんのこと俺にも教えてくれないか?
[警戒するような言葉を紡ぐとき、一応日菜子へと向けて声を少しだけ潜めてはみたものの、さて効果はどうだったろう。幽霊の聴覚など知りはしない。全部聞かれていても、驚くに値しないとは思ってる。]
まだ先は長そうだしね。
[見遣る先、まだ見知らぬ駅は広々として*続いている*]
[お兄さんの質問の意図、にああ、そっか、と気づいて]
たぶん、ですけど。
はなこちゃんがいたのはいつも家の中、だったと思います。
昨日だって、助けてくれた……んだと思うし。
「アノヨ?」
[影が首を傾げる。
するりと右手から手が離れて、ハナコちゃんがパタパタとまわりを走り回る]
「アッチよりこっちのほうがタノシイ」
「いろんなモノある。ヒナちゃんツレテ行こうとしたのは、コワい人」
[抗議するような声が、するけれど、顔は笑っていて]
はなこちゃんは、大丈夫だと、思います。
私を引っ張ったのは、左の方だったし……。
[ふと見た左手に、黒く煤けたものが映った気がして、でもハナコちゃんがまた右手をとれば、それは消えてしまった]
―新宿衛生病院―
[同僚は結構律儀な奴だった。どうせ暇だからと、図書館から言われた通りの本を10冊ほど借りてきたのだ。あと赤ブドウも持ってきた]
え……デラウエアってこの時期にはもうスーパーにねーのか……
嘘だろお前、だって今だぞ?……マジで?
まあ、いいか。ありがとよ。無事に五体満足で再会できたら、一杯奢るぜ。
……就職決まってからになるかもしれねーけどな。
どこがいい?店決めといてくれ。
[いくら言ってもないものは仕方がない。ひとまずなんだかんだで人のいい同僚に感謝した。気にするなと笑う同僚は、しかし”五体満足で”という部分には少し引っかかったようだったが、気を付けろよ、と言っただけで戻っていった]
さて……どこから手を付けっかな。
[赤ブドウ(種なしだった、気の利く奴だ)をつまみながら、山と積まれた本に手を付ける。まずは流し見る程度に、それからじっくりと]
……ん?
[ふと見かけた一節に目を止める。何度も見返す。そこにはこう書かれていた]
『トリンギット(Tlingit ['tlɪŋkɪt])はインディアン部族の一つで、アラスカ、カナダの先住民族。正しい発音はクリンキット['klɪŋkɪt], もしくはクリンギット['klɪŋgɪt]。もともとはフリンキット(Lingít)[ɬɪŋkɪt]と呼ばれていた。彼らの自称「リンギット」とは「人間」という意味である。
トリンギット族はアラスカ・カナダ西部、ブリティッシュ・コロンビア、ユーコン川流域に住み、発達した母系の狩猟採集社会を構築していた。
鮭やクジラを獲って暮らし、ポトラッチやトーテムポールの風習で知られていたが、19世紀末から20世紀初頭にかけて白刃が持ち込んだ伝染病によって壊滅状態となり、全滅した村も多かったとされる。
トリンギット族及びトリンギット亜族に伝わる創世神話はいくつかあるが、最も有名なものは次のくだりであろう。
「その時、人々は暗闇の中で過ごしていた。昼に太陽はなく、夜に月はなく、天にいかなる星もなかった。人々が暗闇の中で生きているのをあるワタリガラスが不憫に思った。ワタリガラスは神の住む天の家に変装して忍び込み、天の家から太陽と、月と、星を盗み出した。そしてそれを人々に開放した。その時から、空には太陽と月と星があるのである。」
カラスと太陽の関連性は世界中の神話や伝承で語られているが、とリンギットの各部族に伝わる神話は、特に太陽とワタリガラスの結びつき強く語られている。』
………これだ。
[山岸五郎が食い入るように見つめているページには、ワタリガラスの姿があった。日本のハシブトガラスより大きな……ちょうどあの大カラスほどの大きさだ。
そして、その近辺のページにはトリンギット族の文化資料として、彼らの村に遺されていた羽の生えたトーテム像の写真が映っていた]
あの部屋の最初の死亡者……桜井安吾の専攻は北米先住民族に関するフィールドワーク………
ひょっとしたら。いや……
多分これが、当たりだ。
[山岸五郎の呟きは、誰にも聞かれる事はなかっただろう**]
[ハナコちゃんのことを、お兄さんの声が少し小さく響いた。ハナコちゃんは気にせず右手を引っ張って進んでいて、聞かれたことには一度だけ振り向いたけれども、笑っただけ]
……私も、よくは知らないんです。
時々、家の冷蔵庫が開くようになって、私ママかパパが閉め忘れたのかなって思ったけどちがくて。
でも、怖いって言うより不思議なだけだったんですけど。
昨日帰ったら、ママとパパがもう帰ってきてて、誰かと話してるんです。
「私」がそこにいて、会話をしてるみたいに。
そしたら、出てきた「私」はただの影だった。
あそぼうって、私の部屋に逃げ込んだから、後を追って、それから、――テラスに。
[そこから先を良く覚えてない。
誰かに、引っ張られて、それから]
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……そうですね。 まず、順序が逆になってしまい大変申し訳ございませんが 木露の新作の件。こちらは情報解禁までは口外無用でお願いします。
[挨拶を済ませて以来一言も喋らず、存在感を消していた編集者を名乗った女が顔を上げる。]
いくつかの都市伝説を調べた結果、私どもも似たような体験や経験談に触れることとなりまして。 たとえばカラスの乗った車が事故を起こしたですとか、 斧を持った男がベッドの下に潜んでいるですとか、 ドッペルゲンガーを見た、ですとか、 天井を抜ければ知らない街だったですとか。
[アンケートに答えたら、父母が成り代わられたですとか。]
その一環で調査しているのが……すでにご存知かもしれませんが、アンケートにまつわる噂話として、いわゆる『書いた願いが叶う』といった、ご利益の話ですね。 そういった噂話に関してのご見解や……そもそものアンケートの意図などを、生の声でいただければと。 もちろん、掲載したくない情報や固有名詞などは伏せさせていただきますので。
[ポジティブな言い方に置き換えてはみるものの、無表情の張り付いた顔つきや抑揚のない早口からは警戒心が見える。]
(170) 2016/10/06(Thu) 23時頃
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