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[兄貴はどこへ行ったんだろう。
ふらふら船内を漂っていると、医務室の様子が見えた]
――ミナカ。
[必死になってギリアンを助けようと治療を行う医者の姿。
ミナカのことが分からなくなる。
怪我をした時は、必死になって治療してくれた。
ガキ扱いしてくるもんだから、いつもむくれて対抗していた。
けれど、なんだかんだで良い奴だと思っていた]
でも。化け物だ。
[吐き捨てるように言いながら。
それでもこの医者の事を嫌いにはなれない自分がいた。
あのとき。もしも、自分がいきなり襲いかからなければ。もしも、ミナカから事情を聞いていたならば。あるいは。俺も。ギリアンも]
……たられば、を考えても仕方ないッスね。
[嘆息してから。ギリアンの回復と、ミナカの治療の成功を祈った]
[ふと見れば、喉笛に穴を空けた獲物が、血塗れでヘクターの足にじゃれついている。
もはや、興味の失せた獲物だ。
ただ……]
ああ、馬鹿ではないな。
[それが、酒に侵された脳のせいなのか、彼本来の能力だったのか、知りようもないが。
襲われながらもこちらに背を向けず、手斧を離すこともなく。
迂闊にも見せた隙に、反撃の手を振り下ろしてきた。
その行動に、男なりの賞賛を漏らした。]
メモを貼った。
[厨房に残る者達は、はたして気付くだろうか。
斃れた時は、まだそれなりにヒトらしかった、半人半獣の化け物の姿が、徐々にその本来の姿に戻りつつあることを。
衣服に包まれ、頭も潰れた状態ではあるが、覗く手足が明らかに獣となっていることを。
もし、物好きが、血に塗れたヴェラの着衣を剥いだなら、そこにあらわれるのは、ヒトよりも圧倒的に獣に近い躰かもしれない。*]
[厨房に徐々に人が増えてくる。
そのたび、獣の耳がぴくんと揺れた。
グレッグがミナカに喧嘩を売り、結果、ギリアンに傷を負わせ、船長の怒りを買って殺された、という話を聞いた時もまたしかり。
表情は相変わらずだが、耳だけが時折動く。
つまりこの男、感情がなかったわけではなく。
比較的感情の分かりやすく出る箇所……耳と尻尾が、普段、隠れていただけのことなのだ。
とはいっても、やはり、常人よりだいぶ薄くはあるのだが。]
― ―
[目覚めは、いつもよりもよかった。
二日酔いの頭痛もなく、脳を揺らす素晴らしく気分の悪い酔いもない。
怪我したはずの肩や脇腹の痛みもなく、ただ体は軽かった。
穏やかな正気を感じながら、ゆるりと目を開ける。
久しぶりに頭が楽だ。
ああ、そろそろ昼か夕方か、それくらいの時間なんじゃないかと思って。
起き上がりながら、鍋へ手を伸ばす]
……ん?
[すか、と空ぶって。
同時に、自分の手が透けていることに気が付いて、まじまじと手を見つめた]
[酔いつぶれて、起きた朝のように。
なにが起きたか、を必死に思い出そうとする。
とんとん、と頭を叩いてみたけども、よく思い出せなくて。
なんとなく視線を床にやったら、死体が二体転がっていてぎょっとする。
そのうち一体は、自分の顔をしていた。
もう一体、ヴェラの装飾を身に着けた半獣を怪訝そうに見て。
触ろうとしてみたが、半透明の手は触れることは出来ない。
手を光に透かしてみて、向こう側が見えるのをもう一度確認してから。
あ゛ー、と気の抜けたような声を漏らした]
あー……。
あれだ。
死んでる、これ。
[なんで死んだのか思い出せないというていたらく。
状況的に、急性アル中で死んだとかではないとは思う。
食い破られた喉と、普段持ち歩いてる斧が半獣へ刺さっているのを確認してから。
まだ酔いが浅かった頃に聞いた、人狼という単語を繋げて、大体のことを把握。
がしがしと頭を掻いて、ため息をついた]
……fuckin'
[感じたのは、悲痛や慟哭というよりも、とうとう死んだか、という気分に近い。
いつかは死ぬと思っていた。ただ、今だとは思わなかった。
仕方ないな、と口にしようとして。
なんか無性に泣きたくなったから、やめた]
……なんか。
いいことあった人生だったっけ。
[自分へ向けて尋ねてみるが、死体は語らない。
酔っててなんも覚えてないなあ。
なんて、へらへら笑いそうな顔だと思った]
― 第二甲板 ―
[ふよふよと船内を漂っていると、やがてホレーショーの姿
――首刎ねられちまった。
そんな声が兄貴から漏れ聞こえて。
ああ、自分のことを話していたんだ、と合点がいった]
……肝心な所で抜けてて悪かったッスねー。
[口を尖らせつつ、ふわりと空中から2人のやりとりを見つめる。
やがて副船長
……ニコ。
[厨房を覗いて。惨たらしい死体を2つ、目にするだろう]
……ばか。なにしんでるんスか。
[小さく呟いた。その言葉は死体ではなく、自分と同じく身体の透けたニコラス
[ヘクターが去り、ホレーショーも去る。
今度は、モンドが厨房を覗きに来ていた。
男はその一部始終を、己だった骸の傍らに立って、何するでもなく、ただ見つめていた。
時折、尾がゆるやかに揺れる。]
───。
[ニコラスが目覚めたのはどの時か。
生前のあの騒がしさはない、いいこといだ。
また少し尻尾が揺れた。]
[辺りを見回せば、何人か人がいる。
去っていくヘクターを見れば、あー、と声が漏れた。
よく覚えてない。
だから、並んでぼんやりして]
……あー。
グレッグ?
[
ぐしりと目を擦り、今日は視界がぼやけないなあと思う]
……そっちこそ、死んでるよ。
[なんだか奇妙な会話だった]
うん。死んでるッス。
だから俺も、おおばかもの。
[へにゃり、と顔を歪めて。
近くにやはり半透明のヴェラの姿
なんで……ニコを。
[低い声で唸ってから。
死人同士で言い争っても無駄か、と首を振った]
メモを貼った。
[静かなのはいいことだ。
この料理人が、普段からこうだったなら、おそらくこんな事態にはならなかったろう。
だが、後悔があるかといえば、ない。
そも浮かびすらしない。
話しかけられなければ、黙ったまま。]
[そのうち、グレッグが姿を見せた。
彼も死者だということは、ホレーショー達の会話から知っていたし、そうでなくても匂いで分かる。
だからと、特別な感情が浮かぶこともない。
紅味帯びた、無機質な双眸を向けるだけ。]
何故……?
[唸るような声に、不思議そうに耳が動く。]
煩かったから、静かにさせようとした。
『煩かったから、静かにさせようとした』
[瞬間、頭にカッと血が上って]
こいつ……!
[ガラにもなく顔を赤くさせて、
ヴェラに向かって拳を振り上げ――]
……っち。
[すんでのところで、その動作をやめた。
ぷるぷると震える右拳を、左手で押さえて。
ああ、死人でも怒りは沸くんだな、と冷静に考える自分がいて。
それでも、沸き上がる怒りは抑えきれず]
この。化け物め……。
[らしくない口調で、唾棄するように言い捨てて。
瞬間、はっと我に返り]
……申し訳ないッス。ちょっと頭冷やしてくる。
[震える声で、ニコラスに視線を送り。厨房を後にした]
生きてさえいれば、大人になれたのに。ほんとバカだな。
[
いつまでたっても少年としか思えない彼が低く下手人に声をかけて。
グレッグ、ぐれーっぐ。やめとけよ。
[怒りに顔を歪ませて、拳を握る彼へ困った顔で笑う。
癖のように、しゃがみこんで。
まどろんだように死ぬ自分の死骸を、間近で眺めた]
……どうせろくな死に方しないとは思ってたさ。
金のために人殺ししまくってたんだから。
[出来れば生きていたかったけども、と諦めのため息をついて。
ヴェラを見上げ、眉を歪ませて笑う]
できればもう少しましな理由で殺されたかったけど。
……そんなにうるさかった?
[振り上げられた拳
避ける素振りも、反撃の動作も、それどころか眉すら動かない。
諌めるニコラスの声
煩い、狂った笑いはそこにはない。いいことだ。]
───!
[化け物
口調どうこうより、純粋に、声の大きさに驚いたのだが。
人間から見れば、化け物であることは間違いはないのだろう。
グレッグが怒る理由も、分からなくはない。]
…………。
[声を震わせながらも拳をひいて、厨房から去ってゆくグレッグを見て、不思議そうに耳が傾く。]
[こちらを見上げてくるニコラスに気付けば、ゆっくりと視線を下げる。]
うるさかったな。
[質問には簡潔に。
寧ろ、マシな理由がどんなものなのか分からないといった風に、無表情のまま首を傾げた**]
メモを貼った。
メモを貼った。
……そりゃまた。
[
はは、と短い笑いひとつ溢すと、気が抜けたように項垂れた。
理不尽だ、とか。怒りとか。
思わない感じないわけではなかったが、殺されたときの記憶もないし。
多分、こっちも彼を殺してるし。
――もう文句言っても無駄だろ]
fuckin'
[だが一言くらいは言っておこう。
クソッタレ]
― 第二甲板 ―
[厨房を出る。ほう、と息を吐いた。らしくない。本当にらしくない。
自分の拳をじっと見つめて。やめとけよ、とグレッグを制したニコラス
……死んでからまともになったって。遅いッスよ。
[昔に戻ったみたいに、年上ぶって子供扱いしちゃってさ。
もう俺は大人だよ。なんだよ。なんだよ、もう]
なんか、調子狂うなあ。
[がりがり、と頭を搔いて。
でも、昔みたいなニコの姿を見て。
ひどく安堵している自分がいた]
……生きてるときに、まともでいてくれたらさあ。
[そしたら、もっと素直に接することができたんだ。
いっぱい話したい事があったんだ。いっぱい]
……天罰かねえ。
天罰と思っとこうかな。
[呟きながら、立ち上がり。
どこへ行くというあてがあるわけではないが、グレッグも気になるし。
ヘクターの側にいれば、話せずとも。
少しはこの荒んだ心も落ち着くかもしれないと思って、厨房の中から出ることにする。
食事の用意をしないで厨房から出ることが、少々奇妙な気分で振り返る。
血塗れでまどろむ自分の死骸があった]
……向いてなかったなあ、海賊。
[ヘクターには感謝しているし、親しみも感じてなかったけども。
感想としては、そうとしか言えなくて。
ヘクターに申し訳なくなった]
メモを貼った。
メモを貼った。
―第2甲板―
マトモだったらもっと早くに死んでた。
[
自嘲気味に言う声は、生前の狂乱はないが昔のものとも違っていた]
人殺すのが怖くてさ。でも、やんなきゃ殺されるから。
酒飲んで殺して、そしたらその後には殺した罪悪感に耐えらんなくて、酒飲んで。
酒がないと幻覚見えるようになった辺りで、ちょっとしまったかなあとは思った。
[キヒ、と小さく笑ってから。
低い位置にある頭を、べふべふ撫でておいた]
お前みたいに強くなかったんだよ。ごめん。
[口角を上げた顔は、酔いどれのときと確かに同一人物だと思わせるあけすけな雰囲気があった]
[fuckin' ───クソッタレ
今まで何度となく向けられた言葉だ。
死者から言われたのは、これが初めてだが。]
?
[何故これが天罰なのか、獣には理解できない。
厨房から去るというなら、話すことがないのだから、止める理由も特にない。
一瞬だけ振り向いたニコラスが、向いていなかったなと呟くのが聞こえた。]
……そういえば。
[ふとした気まぐれ。]
ヘクターは、聲が聞こえるらしい。
[何の声であるか、とか、魂がヒトかどうかまで分かるらしい、とか、そこまでは話さない。
いつもの言葉足らず。]
おまえは、あれによくまとわり付いていただろう。
[半ば独り言のように言うと、ふらりと、どこかへ姿を消した。*]
……しまったなあ、じゃないッスよ。
[ニコラスの声
どんどん変わっていくニコみて。すごく心配だった。
それで。どんどん素直に喋れなくなっていっちゃって。
[普段は頭を撫でられるのを嫌がるグレッグだったが。
ニコラスのそれは、気恥ずかしそうに受け入れた]
……俺は強くないッスよ。
[自嘲気味に呟いたあと]
ほら。強かったらこんな透き通った身体になってないし。
[誤魔化すように、きしし。と笑って。
ニコラスとこうやって喋ることができたのが、すごく嬉しい。
死んでからも、こういう時間を残してくれた神様に。
少しだけ。感謝した]
― 第三甲板 ―
[兄貴の姿を追うように。ふわふわと第三甲板へ降りたグレッグが見たのは。船長室を蹴り開けるホレーショーの姿
……兄貴。いったいなにを。
[掠れた声を出す。とても。とても、嫌な予感がした。
宝、盗られて……? いま、兄貴は何と言った]
弔い合戦とか。そんなの。良いッスから。
相手はあの船長ッスよ。
[必死に。サーベルを抜き放ったホレーショーに話しかける。
兄貴を止めようと手を伸ばすが、その指は宙を切った。
やめて。まだ間に合うから。
船長に頭を下げれば間に合うから。だから]
兄貴。そんなことしたら。下手すりゃ。
[不謹慎なことを考えて、途中で口を噤んだ]
メモを貼った。
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