191 忘却の箱
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[昼下がりに差し掛かり始めた陽光が廊下を四角く照らす。 男は、約束を果たそうと食堂に行く時と同じ道を戻っていた。
四角い光は、やはり何処か人が創り出したものなのだろう。 思い出したのはサナトリウムに色を運ぶ画家の存在。]
(……そういえば、最近麻雀の姿を見てないなぁ)
[鮮やかな色彩。 彼が感じている世界。 サミュエルの所を訪れた後、寄ってみようか。なんて考えて。
音楽に、思いを馳せる。 彼の鳴らすギターはどんな音だったか。 今頃、ピックを構えて弦を弾いたりしているのだろうか。 ……彼のギターは、とっくに錆びているのに。*]
(0) 2014/09/07(Sun) 00時頃
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―回想•食堂―
[急に咲いて、散って–––––––––– ぷつり、ぷつりと、途切れ途切れの言葉>>3:17を繋ぎ合わせれば、何故か思い浮かんだのは、かつての自身が経験した情景。 微睡む頭、咲いて、切り落として。
手品を見せた相手の反応は、まるで子供のよう。 目を丸くする相手尻目に甘いコーヒーが喉を通る。 砂糖を出した辺りを指を沿わせて確認する手は、無骨であるはずなのに…空目したのは、つるんとした肌の子供の手。 それは、遠くから聞こえた少女>>3:27の声も相まったからかもしれない。 ……「クマ」って、此方の隣人のことかな。
「手品か」と、それを真似してパンを捏ねる様子を見ても、その場は微笑むだけ。]
……君が、今持っている物は…何物か…
[小さな声は少し自嘲を含んでいた。 相手には、聞こえていないかもしれない。]
(2) 2014/09/07(Sun) 00時半頃
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[相手が立ち上がったのはその後のことだろうか。 顔だけをクマのような相手に向けると、首を傾げている。]
ふふ、冗談だよ。
[そうしてスティーブン>>3:52>>3:53に向き直る。自分も彼と共に病室に向かう用事があることを思いつけば、急いで立ち上がって 話の片手間に包んだ余りのビスケットを袖の中にしまい込む。
差し出された手には最初、キョトンとした表情を向けただろう。 しかしすぐに、その手を取ろうとして…自分の持ち物のことを思い出し、音を創り出す箱のベルトを肩に掛けようとすると、不思議と軽く、温かい>>3:82。 礼を述べてから、自身の名を確認されれば]
そう、ヤニク。よかったら覚えて貰える? 君とはまた、話したいから。 ……あ、あと「さん」はいらない。 たぶん、君の方が歳上だ。
[ペラリとめくった赤いパーカーの下。洗い過ぎてクタクタになったカッターシャツに、消えかけの油性ペンで書かれた『YANICK』のスペル。 それは、相手の腹に書かれた文字体と似ているだろう。 "よろしく、ズリエル"]
(3) 2014/09/07(Sun) 00時半頃
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[その後、三人で食堂の入り口に向かおうとすれば、ズリエルは少女と話をし始めただろうか>>95。 そうなれば「自分は約束があるから」とその場を一人離れて先を急いだだろう。 遠くで手を振っている、日頃から研究熱心な男性>>112を視界に収めたのでヒラリと手を振りながら、
約束をした彼の所に向かう足取りは、いつも通り。*]
(4) 2014/09/07(Sun) 00時半頃
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–––––––サミュエル、お待たせ。
[コン。コン。 空箱を叩くようなノックを数回繰り返す。]
………、サミュエぇル!入っちゃうよ!
[もしかしたら、いつものようにイヤホンで音楽を聴いているのかもしれない。 一際大きな声で呼び掛けてから、扉に手をかけた。 しかし、扉の先には、主が不在の雑然とした空間が広がっているだけで。
約束を……忘れてしまったのかな? 部屋を見回す。 一際目を引く、弦が錆びて、埃を被ったストラトギターが一本。]
…………あぁ、ごめんよ…君に嘘を吐いちゃった…
[本当は、君と演奏をしたことなんてなかった。 君の奏でる音を聴いたことなんてなかったんだ。]
(22) 2014/09/07(Sun) 02時半頃
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[それでも、このギターは埃をかぶってもなお、音を鳴らしてもらうのを待ち望んでいるようだ。 空っぽの袖だけを振り回して、埃を綺麗にはたいてやる。]
新しい弦と…ペンチ、あとアンプ…は、高望みか
[右手の人差し指で弦を弾くと、朧げで戸惑うような音色が響く。 ……そうだね、君の音はこれじゃないんだろう。 夏の暑さも、照りつく陽射しも切り裂くような。 心臓を直接鷲掴むような。 音色。
弦を張り替えれば、眠りから覚めてくれるだろうか。*]
(23) 2014/09/07(Sun) 02時半頃
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―回想・タイムの記憶―
[ 「切ってしまったのかい?」
背後から聞こえた声に、思わず周囲をキョトキョト見渡す、どうやら男に尋ねているようだ。
彼>>12に出会ったのは腕を切り落として間も無い頃だっただろうか。 切り傷を指でなぞるような質問に苦笑しながら、振り返る。
なるほど、彼の左腕にはこれからブーケになるであろう紫色の花が蔓延っていた。]
(50) 2014/09/07(Sun) 22時半頃
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……、 腕から花が生えた時は、花束を作るなんていう発想は…無かったかなぁ。
実験って、花の生える位置の調整をしたりするのかい?……よく分からないけれど。 確かに、君の腕の花はまだ穴ぼこだらけだね。 でも、いずれ、
[いずれ、その花は、人の意思に関係なく身体中を覆うのだろう?
開けた口を、静かに閉じた。]
…………………ブーケが出来たら、その左腕をどうするの?
[今はまだある左腕の役目を終えた時、彼の身体の一部の行方は。
途端、彼の左腕に咲く花が根無し草のように見えてしまって。]
(51) 2014/09/07(Sun) 22時半頃
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―廊下―
[サミュエルの部屋から備品室に向かう最中、見知った少女の後姿>>21>>60を見掛ける。
過去に何度か挨拶代わりの手品を見せた事があっただろうか。 その時の反応は、男の頭の中にまだ残っている。感受性豊かな少女の反応。 男がかつて、尊んでいた物。 さぁ、少しだけ…かつてステージのスポットライトを思い出そう。
後ろから覗き込むようにして、微笑む。]
こんにちは、ペラジー。 食堂の時はすれ違ってしまってよく分からなかったけれど、やっぱり今日も綺麗だね。
[花ではなく、少女に対して贈る言葉。
年齢よりも純粋であどけない少女に対しても、男は女性としての対応を忘れない。 それはサナトリウムに来てから、誰かこの少女に"女性"を教えてくれる人はいないのではないだろうかという…ちょっとしたお節介だった。]
(69) 2014/09/08(Mon) 00時頃
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そうだ、ちょうど君に渡したい物があるだけれど……今、お時間は大丈夫?
(70) 2014/09/08(Mon) 00時頃
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[目の前で揺れる、赤。
世間話を切り出そうとした時には気がつかなかった。 赤は、彼女>>72の、右目からだということ。 よく見れば、リノリウムの床に散っていた花びらの終着点は目の前の彼女だということも。
多感な少女の反応を微笑ましく見ていた男の顔から笑みが消える。]
ペラジー……これは…?
[背を低くする。肩に掛けた箱がギシリと泣いた。 彼女の目から零れそうな花をそっと撫でる指。
女の子、なのになぁ。]
…………痛くないのかい?
[渡したいもののことなど、些細に思える。 目を細めて、どこか悲痛そうな表情のまま問いかけた。]
(75) 2014/09/08(Mon) 01時頃
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[花の種類が何かを聞きたい訳では無かった。 少女の右目に咲いたのは彼女>>76のにとっての"何"であるのか、それだけが。 でも、聞けるはずがない。だって…… こだまとして返ってきた問い掛けでようやく我に返った。 どうして彼女よりも、自分が痛そうな顔をしているのだろう…お門違いだ。 返事をする前に、いつも通りに微笑む。]
ううん、何処も痛い所は無いさ。 そっか、花の種類は…僕も詳しくないから、教えてあげることは出来ないや…ごめんね
[花を撫でていた指を彼女の視界の外で動かす。 それは、これから見せる魔法の準備。]
僕は君の花の種類は分からないけれど…
[相手の左目の前に手を翳す。 大袈裟にクルリ。一回転。 そしたら、どこから出てきたのかナプキンに包まれたビスケットが二枚差し出されていただろう。]
君の花からお菓子を摘むのは得意みたい。
(84) 2014/09/08(Mon) 02時頃
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―回想・サミュエルの部屋―
[錆びたギターから目を離せば、再び部屋の中に視線を巡らせた。]
(新しい弦、ないかな)
[あるのは、適当な家財とギター。 人の部屋に入ると、無意識にアルバムや手紙の類を探してしまうのは我ながら悪い癖だと思う。 彼の部屋に、それらしいものは無かった。]
……自分から捨てたのか…
[思い出すのが辛かった? 覚えていたことを忘れたと自覚するのが怖かった? 男も恐れる疑問を、他の誰かに問う事は出来ない。 "無い"という事実は、目の前に存在している事象以上に心に響く。 何と無く重い心持ちで備品室へと向かう。
しかし、次にこの部屋を訪れる際、ベッドの上に"有る"であろう花を見れば、男は…*]
(85) 2014/09/08(Mon) 02時頃
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[ようやく見れた、いつも通りの彼女の笑顔>>89。 安心出来る筈なのに妙なシコリが残るのは、どうしてだろう。 やはり右目の花のせいか。
胸に小さなわだかまりを感じながらも自分の手品で表情が明るくなったのを見れば、一時は気持ちが紛れる。 拍手の音に心底嬉しそうに破顔して]
優しいお嬢さんの為なら、お菓子なんていくらでも。 さて、僕はそろそろ––––––––
[立ち上がってベルトを提げ直したところで再び頭をもたげる不安。]
………右目のこと、スティーブン先生に伝えておこうか? 診察室に行くなら、僕も付き添うけれど
[右目以上に相手の病状が進行している事には気が付かないまま、手は所在なく宙を彷徨って。**]
(91) 2014/09/08(Mon) 03時半頃
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[相手がポケットにビスケットを仕舞うのを見届ける。 診察室へ向かうのを促したのはその後のことだったか。 診察室行きを承諾してくれた相手に、内心胸を撫で下ろした。]
患者の経過を一番把握しているのは、先生だからね。 見せるに越したことはないよ、きっと。
[そのまま二人して診察室へと爪先を揃えただろうを 少女は右、男は少女に歩を合わせて左を歩きながら。
道中、珍しく口数少なになりながら少女の右目をチラチラと見る。 暫くして、相手の口から出た言葉>>94に、時が止まった。
どうにかすぐに歩き出して、口元も笑おうと努めていたけれど。]
……僕らは今から診察室に行くんだよ、ペラジー。 君の右目の花をスティーブン先生に診てもらう為に。
(105) 2014/09/08(Mon) 18時頃
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迷いそうなら、診察室まで手でも繋ごうか。
[何だか無償に恐ろしくなって、男は少女に手を伸ばす。 掴んでくれたのなら、決して離れないようにキツく握り締めて、少しだけ少女の先を歩いただろう。
(Parsley, sage, rosemary and thyme…)
どこかから歌>>86が聞こえた。 勇気にも行動力にも真実を見出せなかった男は、ただ、少女に手を投げ出した。]
(106) 2014/09/08(Mon) 18時頃
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―回想・タイムの記憶―
[彼>>87>>88の口調は快活で、彼自身を蝕む病に対して敵意も辟易も感じていないように見えた。 …可笑しな人だ。 話を聞きながら、ふと笑う。]
ブーケに、ウエディングドレスか…素晴らしいね。 式の時には、僕の分も一席用意しておいてくれよ。 紫の花に白が映えて、ああ…マーチェならきっと最高の1枚を描いてくれるだろう。
[彼は言う。 次は青だと、虹色の花壇にするつもりなのだと。
花は彼の命の一欠片でもあるのに。 そんなに生き急いで、何を考えているんだろう。 「可笑しいかな?」 笑みの奥に勇気を出せないでいる彼が居ることなんて、分かり得ない。]
ちょっと、分からない、なぁ。
(107) 2014/09/08(Mon) 18時頃
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まぁ…笑えないよ。
[眉尻を下げて微笑んだ。*]
(108) 2014/09/08(Mon) 18時頃
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[繋いだ右手の指先を擽る、感触>>110>>111。 見なくても分かる。咲いているのだ。 彼女の"何か"が。
診察室に辿り着くまでその手をしっかりと握って。 扉を開ける時でさえ離さず、無作法にも足でこじ開けただろう。
開けた瞬間に飛び込んできたのは、地に膝をついた知人>>98>>99と、傍らであやす仕草をする医師の姿>>118。]
……スティーブン先生。
[言葉少なのまま、繋いでいた手を離すと、男は数歩下がって少女の背中に優しく手を添えた。 視線はシーシャとペラジーの間を行き来しながら。]
(122) 2014/09/08(Mon) 20時半頃
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[医師>>125がペラジーに微笑みかける。 この人は、いつもそうだ。 患者と医師という枠の外で僕らと接してくれる。 その言葉で、いつでも花の苗を人間たらしめてくれる。
だから、その彼が、少女に問い掛けた言葉は、喉奥から心臓を塞ぐように息苦しい。]
(131) 2014/09/08(Mon) 22時頃
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それでも彼は微笑んでいる。 男も、一瞬目を見開くことはすれど、すぐに落ち着いたものに代わった。]
…………、
[ふわり、ふわり。 少女の左腕>>128に柔らかく芽吹く、花。 呼吸を忘れた。
思わず、奥にいたシーシャ>>129>>130を見た。 いつものように発作を起こしはしないかと。 それでも、彼は、笑う。
息を飲む。 ただその様子を静かに見つめていた。 背中に当てがった手が、指先が震えることには気がつかないまま。]
(132) 2014/09/08(Mon) 22時頃
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["どこか痛いのか" そう、かつて少女>>134に聞かれた時の事を思い出す。
理解するしかなかった。 もう彼女に手の震えの意味は分からない。 目元の赤さの意味も、シーシャの笑顔の裏も。]
………ああ、とても…寒いんだ… 君のおかげで、だいぶ温かくなったよ。
ホラ、次は彼の…シーシャの番だ。
[首を横に振って、小さな、掠れた声で呟いた。
それは彼>>135も同じようで。 少女の頭をくしゃりと撫でた後、いつも通りの笑顔と少し震えた声の主の方に、彼女の背中をそっと押した。]
(136) 2014/09/08(Mon) 22時半頃
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[嘘を吐いた。 自分はただ寒いのだと、だから、この手の震えも掠れた声も、君には何の関係も無いのだと。
嘘を吐いている。 彼もまた、疑いを知らない少女に笑いかけて。
悟られてはいけない。 悟られてはいけない。 誰も彼女に真実を教えてくれるものは無い。
彼の腕に包まれた花の香り >>137>>138は、此処まで香ってはこなかった。 ……少しだけ、よかったと思う。
まるでその様は"真実の恋人"のようじゃないか。]
……今日は、中庭がいい天気だったよ そういえば、歌も聞こえたなぁ… 今日は人が多いのかも
[誰にともなく、独りごちる。]
(139) 2014/09/08(Mon) 23時頃
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