88 吸血鬼の城 殲滅篇
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[熱い、血の滴り。
噴き上がり、落ちてくる赤い驟雨。
唇を舐め、剣士の身体を解放する。 もはや動かぬ体は、濡れた音を立てて石床に一度弾み、 赤の領域を広げながら、歪な形に横たわった。]
(0) nekomichi 2012/05/04(Fri) 00時頃
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[戦いの狂熱から覚めた瞳で、穏やかに剣士を見下ろし、 己を貫いていた剣に両手をかけて引き抜く。
新たに噴き出した血が、命を無くした身体にも降り注ぐ。]
―――オレを殺したいなら、 もう一度蘇ってこい。
[喉の奥で小さく笑ってから、 "子供"らの戦いを見届けるべく、死体に背を向ける。
意志が、執念が強ければ蘇ってくるだろう。 そのまま土へと崩れてしまうのならば、 それまでのことだ。]
(1) nekomichi 2012/05/04(Fri) 00時頃
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墓荒らし ヘクターは、メモを貼った。
nekomichi 2012/05/04(Fri) 00時頃
墓荒らし ヘクターは、メモを貼った。
nekomichi 2012/05/04(Fri) 00時半頃
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[振り返れば、まさに修道士が倒れ伏すところだった。 所有者の手を離れ、輝きを無くした杖が 石床を叩き、甲高く鳴る。
まるで、あるじを弔う鐘のように。]
(7) nekomichi 2012/05/04(Fri) 01時頃
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―――それじゃ、 クレアに会いに行くとするか。
[満足の笑みを浮かべ、凄惨な戦場に背を向ける。
討伐隊は全て死に絶え、或いは蘇って眷属となった。 もはや閉ざしておく理由も必要もない。]
(9) nekomichi 2012/05/04(Fri) 01時頃
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地下聖堂に行く。 後は任せた。
["子"らにそう告げ、螺旋階段へと向かっていった***]
(10) nekomichi 2012/05/04(Fri) 01時頃
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>>16
[名を呼ばれた。
螺旋階段の最初の段に足をかけ、 上半身をひねって、声の主を見る。
殴りかかってくる拳を受け止めようと片手を挙げ、 結局届かず垂れたそれに、小さく笑った。]
(21) nekomichi 2012/05/04(Fri) 22時半頃
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言っただろうが。 オレを殺したいなら、蘇ってこい、と。
[愉悦。赤に彩られた戦いの歓喜。 己と、剣士の血で全身を濡らした闇の主は、 剣士に背を向け、階段を下り始める。]
オレを殺れるようになったら、帰ってこい。 ―――― 一人で喰えるようになるまでは ここで飼ってやってもいいがな。
[愉しげな笑い声が、ともに降りていく。]
(22) nekomichi 2012/05/04(Fri) 22時半頃
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そうだ。
[螺旋階段の途中、 ちょうど、階段の入り口を正面に見る位置で、足を止めた。]
名を聞いておこうか。
可愛いオレの子だからな。 名無しじゃ、呼びにくい。
(23) nekomichi 2012/05/04(Fri) 22時半頃
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― 地下聖堂 ―
[螺旋階段を降りる途中で、闇に姿を変え、 ひといきに下へと降りていく。 それでも、いきなり地下聖堂に現れることはせず、 南の地下通路に降り立った。
全身を濡らしていた血は、一度闇に溶けたことで消え去り、 落ち着いた、常の風格を取り戻す。 傷までは塞がっていないが、服で隠せばそれも気にならなかった。]
(32) nekomichi 2012/05/04(Fri) 23時頃
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[地下聖堂の扉を開き、中へと踏み込む。 一歩、足を踏み入れると同時に、全身を包む薔薇の芳香。 深紅の花弁に飾られた棺に近寄り、 ゆっくりと中を覗き込む。
棺に在るは、花の如き乙女。 白いかんばせを飾る亜麻色は柔らかに優しく、 薔薇の唇からは真珠の歯が覗く。
損なわれていた、世にただひとつの華は、 再び艶やかな姿を取り戻し、花弁を開こうとしていた。]
(33) nekomichi 2012/05/04(Fri) 23時頃
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クレア。
[名を舌に載せ、指を伸ばす。 額に掛かる髪の一筋を払い、柔らかな頬に触れる。]
――― オレの、シェリ。
[愛しい人。そう、低い声で呼びかける。 その声が届いているのか、 繊細な綿毛のように睫が震え―――]
(34) nekomichi 2012/05/04(Fri) 23時頃
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迎えにきたぞ。
……… おかえり。
[開いていく深紅を見つめて、笑った。]
(35) nekomichi 2012/05/04(Fri) 23時頃
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>>24
[必ず殺してやる。 血を吐くような宣言に、密やかに牙を見せて笑う。 ああ―――愉しい戦いが、できそうだ。]
ジェフリー・ハリソン、な。
名前を忘れる前には、顔を見せろよ。
[最大の敵だという主張(>>25)には、小さく笑い声を立て、]
(37) nekomichi 2012/05/04(Fri) 23時半頃
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― 地下聖堂 >>43 ―
悪いな。 随分と――― 待たせた。
[伸ばされる繊手を首に導き、 背中と膝の裏を支えて、棺の中から掬い上げる。 顔のすぐ横で、花の香りが開いた。]
もう、おまえに寂しい思いはさせねぇ。
ずっと、一緒だ。
[手放しはしない。 思いを込めて、ほんの少しだけ腕に力を入れる。 肌がより密に触れあうだけの強さ。]
(48) nekomichi 2012/05/05(Sat) 00時頃
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― 地下聖堂 >>51 ―
[耳朶に掛かる吐息がくすぐったく、 肩を竦めて笑う。]
もちろんだ。傍にいてくれて構わない。 いや、居てほしい。
[重ねた頬は溶けそうに柔らかく、 無精髭が傷を付けてしまわないかと そんなことまで不安に思って、そっと顔を離す。 名残惜しくはあったけれども。]
おまえが灰になったとき、身体が裂けたように感じた。 こうしておまえをまた腕の中に抱けば、 嬉しくて叫びそうになる。
もう、どこにもいくな。
[正面から深紅を覗き込んで、強い口調で告げる。]
(60) nekomichi 2012/05/05(Sat) 01時頃
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― 地下聖堂 >>62 ―
[擦り寄る仕草は、まるで猫か小動物のよう。 頬に残る甘い感触に心を溶かしながら、 抱き上げた腕に、もう一度そっと力をいれる。]
誰がおまえの代わりになるものか。 おまえ以外には、いない。
[上目に見上げる深紅の瞳。 願いを紡ぐ、花弁の唇。 そのひとつひとつが、愛おしく、たまらなく、]
置いていくものか。 おまえを残していったりするものか。
二度と、おまえを悲しませるようなことはしない。
[力強く、約束の言葉を口にして―――]
(68) nekomichi 2012/05/05(Sat) 01時半頃
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[ ――― 誓いの印を、口付けた。 *]
(69) nekomichi 2012/05/05(Sat) 01時半頃
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― 客間 ―
[火掻き棒を使う、その背後で 銀の杭をボウガンに装填する、その頭上で 闇が、じわりと濃さを増す。
忍びやかに、密やかに、 部屋の角から闇が滲み、家具の隙間から影が染み出す。
壁を、床を、這い広がるように 闇の手が、隻眼の眷属へと伸ばされる。]
(108) nekomichi 2012/05/05(Sat) 15時頃
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[ボウガンを抱え込むように、 或いは、祈りを捧げるように身体を折る男。 その指が引き金に掛かった時、 闇が、伸び上がるように床から離れて、男に覆い被さった。
男の上体を引き起こして闇が滑り込み、 強く強く、締めつける。
かちり、と引き金が引かれる音。 杭が肉を貫く、湿った鈍い音。 溢れるほどに部屋を満たす、血の臭い。
そして、静寂。 ]
(109) nekomichi 2012/05/05(Sat) 15時頃
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[聖別された杭は、男の胸を僅かに抉り、 刻印のように爛れた痕を刻んで、止まっていた。
背後から抱きかかえるように回された太い腕を、 貫き、砕き、焦がして。]
(110) nekomichi 2012/05/05(Sat) 15時頃
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[我が"子"の身体を突き放し、突き倒す。 腕に杭を生やしたまま、立ちはだかり、見下ろす。]
………誰が死んでいいって言った?
[平坦な声の裏に渦巻くは、怒り。]
―――…オレに黙って勝手に死んで良いと、 いつ言ったよ?
[握りしめた拳の先から血が滴り、落ちる。 床に跳ね、広がる紅。 ふたりを繋ぎ縛る、絆のいろ。
激情を呑み込んで、冷えた巌のごとき表情で 命を絶とうとした"子"の顔を見据えた。]
(111) nekomichi 2012/05/05(Sat) 15時頃
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― 地下聖堂 >>72 ―
[僅かに開かれた唇から零れるは 芳しい薔薇の吐息。 触れれば溶けて無くなりそうな唇が、 柔らかな力で押し付けられる。
交わされた誓いの温かさ。 その温もりが全身に広がるように 肩の、胸の、そして脇腹の傷がゆっくりと癒されていく。]
ああ。おまえの力はいいな。 助かる。だいぶ、楽になった。
[まだ柔らかな感触が残る唇を開いて礼の言葉を告げ、 熟れて潤んだ深紅に、自身の鮮やかな紅を重ねる。 視線を僅かにも外さないまま、北の扉へと歩き出した。]
(112) nekomichi 2012/05/05(Sat) 15時頃
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[息を、吐く。 激した心のまま、目の前のものを轢き潰さぬように。 熾烈な光を宿した鮮紅を、床の上に向ける。]
何故、…だと?
[己にとっては自明の理。 それを問う男に、苛立ちが募る。 語ってこなかったのは自分だと、わかってはいたが。]
(120) nekomichi 2012/05/05(Sat) 17時半頃
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ドナルド・ジャンニ。
[もう一度息を吐き、名を呼ぶ。 重く、刻み込むように。]
オレはな。 そんな生半可なモンで、おまえを眷属にしたわけじゃねぇ。
[憎しみを抱いて。 報いを与えるべく。 それは、今も変わらずある理由だったけれども]
オレだってな、命張ってんだ。 おまえの気持ち全部受け止めて、 おまえの行く先全部見続ける覚悟で 命削ってんだよ。
[自分の命を分け与えた相手へと 抱く感情は、一色ではない。]
(121) nekomichi 2012/05/05(Sat) 17時半頃
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だからな―――
[血を零し続ける腕を伸ばし、 ドナルドの襟元を掴んで引き起こす。]
おまえが死にたい、ってんなら、 おれが殺してやる。
[それが覚悟の示し方、 眷属を生み出すものとしての、けじめの付け方だった。]
(122) nekomichi 2012/05/05(Sat) 17時半頃
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― 地下聖堂 >>130 ―
オレに何があるって?
[何も心配要らない、と笑いを浮かべかけて、 つい数日前まで眠りについていたことを思い出し、 肩を竦める。]
おまえを心配させはしないさ。
[微妙に言葉を変え、頷いて見せた。 運ばれていることに気付いた娘が 恥ずかしげに顔を伏せて、ささやかに主張するのを、 笑って却下する。]
まだ起きたばかりだからな。 無理するな。
[そう言って結局、長い秘密の通路を通って 厨房に入るまでは、ずっと抱き上げていた。]
(143) nekomichi 2012/05/05(Sat) 23時半頃
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― 客室 ―
[殺してやると、 宣言した時の"子"の変化は、劇的だった。 感情の高ぶりが顔に色を無くさせ、唇を震えさせて 食ってかかり、拳を打ちつけてくる。 そんなふうに感情を露わにする様を、 冷えた紅で見下ろす。]
―――当たり前だ。 おまえはオレのものだ。
オレ以外に殺されることは許さん。
[所有を、支配を主張する冷厳な紅が、 不意に歪んだ。]
(144) nekomichi 2012/05/05(Sat) 23時半頃
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何故、何も言わずに死のうとした? オレから逃げたかったのか? 意趣返しでもしたかったか?
[裏切られたと、 そんな怒りと痛みが瞳を走り、すぐに消える。 残ったのは、やはり冷たく硬い声。]
…オレが、おまえのことを要らないなどと 一度でも言ったか?
[後ろ髪を掴んで上を向かせ、 視線を突き入れるように、濡れた瞳を覗き込む。]
(145) nekomichi 2012/05/05(Sat) 23時半頃
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[崩れて消えてしまいそうな、濡れた瞳。 自分の手で打ち壊してしまいたくなるような、強情な―――]
ああ。 戻ってきた。
["娘"が蘇った事実は端的に肯定し、 目だけを細める。笑みの形に。]
そうだ。 苦しめるために眷属へと為し、 あれのために血を流させた。
…おまえは、良い玩具だったよ。
[嘲笑。 或いはそれに似た、何か。]
(193) nekomichi 2012/05/06(Sun) 15時頃
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……だがな。
[笑みを収めた後は、 怒ったような、困ったような 表情の選択に迷っているような顔になる。 溜息が、ひとつ。]
そんな程度にしか思っていない奴のために、 オレがわざわざここまで来ると思うか?
(196) nekomichi 2012/05/06(Sun) 15時頃
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[苛立ち。 もどかしさ。 煮え切らない感情に、拳を握る。]
代わりのある奴なんざいねぇよ。 おまえの代わりがいるわけねぇだろ?
困る困らないの問題じゃねぇんだ!
[口調が、次第に荒々しくなっていき、 最後はほとんど怒鳴るように言葉を叩きつけて ドナルドの身体を、再び床に突き倒した。]
(197) nekomichi 2012/05/06(Sun) 15時頃
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[荒い息をひとつ吐き出し、 虚空を握るように、手を突き出す。 闇が噴き出し、現われたのは刃の広い小剣。]
―――…… やっぱり、おまえはもう一度死ね。
[淡、とした声で宣告する。]
(198) nekomichi 2012/05/06(Sun) 15時頃
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……おまえを殺して、生まれ変わらせてやる。 真に、オレの息子としての生を…
… 三度目の血を、くれてやる―――
(199) nekomichi 2012/05/06(Sun) 15時頃
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[静かな瞳で、ドナルドへと切っ先を向け]
……これが、オレからおまえへの、愛の形だ。
[その胸めがけて、突き出した。]
(200) nekomichi 2012/05/06(Sun) 15時頃
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やっぱり、いい女になったな。
[何があろうと、最後の一瞬まで。 言葉(>>175)を紡ぐ"娘"の瞳は美しく澄み渡り、 思いを告げる顔には、しなやかで強い意志が宿る。
己の眠っていた歳月が、華をさらに美しく開かせた。 それが誇らしく、―――口惜しくもある。
自分の手でそれを為せなかったことに。 労苦の歳月を過ごさせてしまったことに。]
(229) nekomichi 2012/05/06(Sun) 18時頃
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[隠し通路を抜けて本館に入り、 漸く"娘"の身体を床に立たせる。
帰還への言祝ぎに応えるのは]
―――ああ。 今、帰った。
[短く、力強い宣言と、 これからも共に行こうと差し出す、掌だった。**]
(230) nekomichi 2012/05/06(Sun) 18時頃
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[刃を、肉に貫き通す。 幾度もしてきた、馴染んだその動きに 今は、微かな緊張を覚える。
これは、儀式だ。 永劫を、約束する。]
(231) nekomichi 2012/05/06(Sun) 19時頃
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[狂気に押し流されていく瞳を、見ていられなかった。 それならば、いっそこの手で壊したかった。
違う。 壊したくはなかったのだ。
だから、殺した。
闇の眷属にとって、死は―――滅びではない。]
(232) nekomichi 2012/05/06(Sun) 19時頃
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[貫いた刃の先から、肉体がほどけていく。 剣を押し返していた圧力が薄れ、 命が流れ出していく感触が伝わる。
背を抱きしめる手。 笑みを浮かべる唇。 身体ごと、ぶつかるように触れた肉体は、 細かな粒子となって床に折り重なり、風にふわりと浮いて―――]
――― 留まれ。
[命ずる声に、はたりと動かなくなった。]
(233) nekomichi 2012/05/06(Sun) 19時頃
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[肩に残る灰を指先にとり、口に含む。 舌先に広がる、強い苦み。]
―――おまえの抱えている苦悩がそれほどに重いなら、 すべて、忘れてもいい。 なにもかも無くして、まっさらになってもいい。
[降り積もる灰の前で、腕を貫いた杭を引き抜く。 浄化の力に爛れ、血の止まっていた傷口を 灰のまとわりつく刃で、さらに深く切り裂く。]
(234) nekomichi 2012/05/06(Sun) 19時頃
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みたびの、闇の祝福を受けよ。 闇の寵児たれ。ドナルド・ジャンニ。 オレの魂が滅び砕け散る瞬間まで、 おまえを慈しみ愛すると約束する。
(235) nekomichi 2012/05/06(Sun) 19時頃
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だから、
――― 戻ってこい。
(236) nekomichi 2012/05/06(Sun) 19時頃
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[鼓動のリズムで噴き出し、溢れる血を 惜しみなく灰へと降り注ぎながら、
闇の主は強い眼差しで、紅に染まりゆく灰を見つめていた*]
(237) nekomichi 2012/05/06(Sun) 19時頃
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― 南の塔 ―
[全てが終わり、新たな物語が始まる狭間の時。
最後の戦いの舞台となった塔の上で、 闇の主は、静かに外を眺めていた。
暗い霧に包まれた湖。 それを超えれば、そこはもはや昼と夜が混在する世界。]
――――…行ったか。
[闇の痕跡が、残り香のように宙を横切り、 深い森の中へと消えている。 姿を消した"子"へ向けて、牙は剥かずに、小さく笑みを送った。]
帰って来る時を、楽しみにしているぞ。
[生き延びることさえ困難な前途が、"子"を待っているだろう。 それでも帰ってくることは、疑いもしなかった。]
(252) nekomichi 2012/05/06(Sun) 21時半頃
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………しっかし…
[返事が戻ってくるはずもない城の外から目を逸らし、 己の為すべきことを為すべく、城内に足を向ける。
その途中、足を止め、床の一点を見つめた。]
―――……… どうしてくれるんだ。 んなもん置いていって。
[ぽつんと取り残されていたのは、光の聖杖。 しばらく困ったように見ていたが、まあ良いかと階段を下りる。
世の中、なるようになるものである**]
(253) nekomichi 2012/05/06(Sun) 21時半頃
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[血を吸い込み、赤黒く染まっていく灰。 始源の大地のように、命を産んだ海のように、 泡立ち、さざなみ、蠢いて渦を巻く。
その変化を全て焼き付けるように 鮮紅の瞳は、瞬きひとつ無く見開かれていた。
やがて泥は自ずから凝り、立ち上がり、 ゆっくりと形を成していき―――]
(275) nekomichi 2012/05/06(Sun) 22時半頃
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[殻砕くように闇を払って、一人の男が姿を現した。
纏う衣は闇の色。 変わらぬ隻眼に宿るのは昏い紅。
立ち居振る舞いも優雅に、 闇の貴族たるに相応しき所作。
跪いての言葉に頷き、 その頭上に、無傷なほうの手を翳す。]
(276) nekomichi 2012/05/06(Sun) 22時半頃
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良く戻ってきた。 ドナルド・ジャンニ。
[名を呼ぶのは絆を確認するため。 そして、]
――― 言ってみろ。 おまえにとっての、オレはなんだ?
[我が君と、その呼びかけを押して、さらに問う。 未だ感情見せぬその心の奥に、何が残り、何が芽生えたのか、 それを確かめるがために。]
(277) nekomichi 2012/05/06(Sun) 22時半頃
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[問いに答える声は、平坦で硬質。 紡がれた言葉は、用意されたように整っている。
全ては儀式の続き。 命を与え、 命を創り出す、 闇の洗礼の一環。
最後の、ひとかけらを除いては。]
(279) nekomichi 2012/05/06(Sun) 23時頃
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―――― …上出来だ。
[ひとつ息をついて、手を下ろす。 それは溜息などではなく、 厳粛な空気を吹き飛ばす合図。
頭上に翳された手がそのまま黒衣の腕を掴み、 いささか強引に立ち上がらせる。
次の瞬間、 両腕の間に細身の身体を抱きしめていた。]
(280) nekomichi 2012/05/06(Sun) 23時頃
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良く、戻ってきた。
[最初に告げたものと同じ言葉が、 まるで違う色を以て口にされる。 感慨深く、安堵の色さえ滲ませて。
抱きしめていたのはほんの一瞬か、もうしばらくか。 ばしりと息子の背中を叩いて、解放した。]
おまえが戻ってきてくれりゃあ、 まずは満足だ。
[そんな言葉と、にやりとした笑みと共に。]
(281) nekomichi 2012/05/06(Sun) 23時頃
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[息子から返る反応に、 ふつ、と小さく心が泡立つ。
だがそれを表に出すことはしなかった。 望んだことだ。 自分が。]
―――どうした? なにか不満だって顔してるぞ?
[揶揄する口調で問いかける。 それでも、わずかに棘は滲み、]
蘇らせられるのがいやだったか?
[言いつのりかける口を、閉ざす。]
(286) nekomichi 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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[初めて浮かべた、というようにぎこちない笑み。 かつては見たこともない、柔らかな眼差し。]
……血が足りなかったか?
[僅かな思案の後、 おもむろに手を伸ばし、顎を掴んで引き寄せる。]
それとも、 記憶と一緒に、心までどこかへ投げ捨ててきたか?
[ああ、そうだ。 違う。 これは、自分が望んだものじゃない。]
ドナルド・ジャンニ。 そこまで、オレを拒んだか?
[抜け殻が、欲しかったわけじゃない。]
(297) nekomichi 2012/05/06(Sun) 23時半頃
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