276 ─五月、薔薇の木の下で。
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[ 腕を引けば、その体を抱き寄せることはできるだろうか。 拒絶されたら、嫌がられたら、殴られたら。 人間の弱みてある不安がいちいち鼓動を早くする。 けれどそこにはそれ以外の、ドキドキとした音も混ざって。 ]
俺は、いっちゃんがいないと咲けない、らしい。 キミが必要なんだ。 だからさ、もう二度と。
[ 耳元に、そっと落とす。 ]
《さよなら》なんて、謂わないでよ。
(108) anbito 2018/05/25(Fri) 20時半頃
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───いや、謂わせない。
[ やっぱり俺は悪魔だ。 この唇が紡ぐのはきっと、呪い。 甘く、苦く、いっちゃんを縛り付ける。
抱き寄せて囁いた耳許に、唇で触れる。 柔らかな刺をさすように。 やがて鼻先を擦り合わせて、吐息の絡む位置で。 ]
好きだ。
[ 見詰めて。 ]*
(109) anbito 2018/05/25(Fri) 20時半頃
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[ ほろほろと落ちていく声は 魚の鱗の様にキラキラと乱反射して見えた。 小さく漏れた声(>>151)も。 確かめるように繰り返す声(>>152)も。 交じり合う息の中、緩められる口元(>>153)も。 過去に重い荷物を背負ったこと(>>155)を語る言葉でさえ。
狡いのは俺の方だよ、いっちゃん。 美しいキミの外面を手折れたら――めちゃくちゃにできたら――なんて 悪魔のようなことをずっと思ってた。
いっちゃんだけじゃない。 他の誰にだって、そうだ。 ]
(172) anbito 2018/05/26(Sat) 03時頃
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[ 俺を綺麗だと思うのなら、きっとその目は澄んでいる。 疑うことをしらない、いたいけな瞳。
俺のことを汚いと謂うならば、きっとその目は研ぎ澄まされている。 本懐を見定められる、強い瞳。
俺に向けられるそれらを いつか、いつか――いつでも―― 元通りにならないくらい、壊してみたいと思っていた。
背徳という、業。 ]
(173) anbito 2018/05/26(Sat) 03時頃
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謂ったろ、みんななんか抱えて生きてんだって。
俺だって穢いさ。 ま、お揃いでお似合いじゃん?
(174) anbito 2018/05/26(Sat) 03時頃
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[ その背に背負わされた過去の荷物を、いつか二人で解けたらと思う。 今すぐでも良い、もっとゆっくり時間をかけてもいい。 捨てられないなら半分は背負ってあげるから――なんてのは 在り来たりなフレーズなのかもしれないけど。
唇が触れ合うだけの口付け(>>156)と、あいの言葉。
落ちる雫は、舐めたら甘いんじゃないだろうか。 吸い取るように目尻に、頬に、口付けを落とす。
彼をずっと見てきたようで、知らなかった。 キミはこんなにも―― ]
(175) anbito 2018/05/26(Sat) 03時頃
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――いっちゃん。
『Please marry me.』には 『Yes, I do.』でいいんだよ。
(176) anbito 2018/05/26(Sat) 03時頃
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[ Marryなんて、例え話ではあるけれど。 お喋りな唇は少しばかり強引に塞いでしまおう。
子供がするようなものじゃない。 だからって大人がする誓いのキスなんて綺麗なものじゃない。
呼吸を奪うような、情欲に塗れた 神に背を向けるような冒涜的なキスを ]**
(177) anbito 2018/05/26(Sat) 03時頃
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[ 言葉を落とさないのは、言葉では語りつくせないから。 縫いとめられた夜も――遠く輝いたあの時も――動き出したのなら 過ぎた時を埋めるように、 溢れる想いを伝えるように、 本当はもっとゆっくり優しく、なんて紳士ぶる気持ちはあれど 駆り立てられるように早急になるのは 若さってことで、まあ、許してほしい。
好きだと気付いた相手から あいしてると謂われて。 身体を預けるように、もしくは強請るように 舌まで絡む口付けに欲が膨れ上がらないわけがない。
例えここが、相手にとって神聖であろう場所でも、だ。 ]
(205) anbito 2018/05/26(Sat) 14時半頃
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いっちゃん、ちゅー上手いんだ?
[ 呼吸の合間に告げながら、唇を啄ばむ。 若さの猛りを密着させればこれが薔薇の呪いでもなんでもなく 同性という常識的ではない相手にあるがままの本能を、ありのままの欲望を 孕んでいるのだということが知れよう。
まだ残る、首筋の花弁にキスを落とし。 けれどそれを上書きしてしまわないのは、俺の歪んだ傲慢さだ。
他の誰かとの情事を忘れることなどない、と。 それは赦しでも、憐憫でも、侮蔑でも、ない。
キミが生きた時を、選択したことを 否定したくないなんていう傲慢。 ]
(206) anbito 2018/05/26(Sat) 15時頃
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こんなとこで……、イケナイのにね?
[ 抱きしめた身体を花に触れるのともまた違う指使いが撫でていく。 ただ、背徳を重ね、欲に濡れた瞳で。 ]
今は、悠仁……ってよんで。
[ 東方の名は、はるかなひとを意味するもの。 強請るかわりに俺も、この時だけは。 ]
ね、―――イアン。
[ 呼びなれぬ、彼の名を耳元に囁きながら。 はやくその熱に触れたいと、指先が下腹部を滑り。 服の上からでも確かめようと、熱の上にたどり着く。 ]*
(207) anbito 2018/05/26(Sat) 15時頃
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渡し船 ユージンは、メモを貼った。
anbito 2018/05/26(Sat) 17時頃
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[ 夜が開けた瞳で、目の前の彼を見る。 上がった体温(>>232)は肌に色をつけたろうか。 耳先を薔薇色に染めたろうか。 確かめるように、その肌を視線が舐める。
窓際にでも立たせてみようか。 それともドアに手を突かせてみる? なんて。 背徳心を積み上げた悪魔が囁く。 自ら生み出してしまいそうな夜を、ぐっと飲み込んで。
深く深く、奪い合うように口付けても 縮まりきらないとさえ感じてしまう距離。 これからそれを、埋めに、と指先が動く。 ]
(294) anbito 2018/05/27(Sun) 21時頃
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ん、なんか、嬉しいねそれ…もっと謂って?
[ 君がもっと欲しい(>>233)なんて、劣情に火をつけるような言葉。 みんなに生徒会長としたわれ、完璧――であろうとする――その人から そんな爛れた言葉を、穢いとさえ思える言葉を聞けるなんて。 ]
やっぱ綺麗だよ、いっちゃん。 だから俺が。 俺だけで、穢したくなる。
[ 俺の名前だけ呼べばいい、俺だけに浮かされていればいい。 俺にとかされて、俺に穢されて。 過去も今も未来も、俺だけで塗りつぶしたい。
――ほらね、俺はこんなにも穢い。 ]
(295) anbito 2018/05/27(Sun) 21時頃
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[ こんな風に(>>234)なる吐息を絡ませ。 まだ慣れないのだろう、異邦の響き(>>235)を耳にしながら。 呼ばれる度に、心臓を跳ねさせて。 押し付けられるその熱を撫でる手はやがて、衣服の戒め(>>236)を解く。 こちらに伸びる指先を拒否することなどなにもない。
やがては直に、花にそうするように――それ以上に―― 優しくゆっくりと触れた。
蜜を吸い、指先に絡め、秘所に触れ。 欲と熱の塊が、毒孕んだ棘が、あてがわれる。 場所もわきまえず、むしろ行為に加速さえ与えて 頑なだった花がやがて綻び、開く時――― ]
(296) anbito 2018/05/27(Sun) 21時頃
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イアン。
――――あいしてる。
(297) anbito 2018/05/27(Sun) 21時頃
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[ 繋がった先で耳元に、甘く。 ]**
(298) anbito 2018/05/27(Sun) 21時頃
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― THEN ―
[ あの夜から暫く経った。 季節はまだ移ろわない、けれど少し暑さを増して。 思い出だけではなくキラキラと、太陽の光が降り注ぐ。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
俺はちゃんと手を洗うことを覚えた。 一枚目のハンカチ(>>0:334)。 二枚目のハンカチ(>>2:290)。 それらは交互に汚くなり、 それらは交互に綺麗になった。 返すこともなく、いつでも尻ポケットの中にある。 手を洗う頻度が増えたのは――]
(317) anbito 2018/05/27(Sun) 22時頃
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おーい。 よっ、パン捏ね大臣。 今日も捏ねてる?
[ 理由はあれから顔を出すようになった場所のひとつ。 夢の中の声(>>4:+28)が聞こえたわけではないのだが。 調理室の中には入らない。 さすがに靴についた土は易々と払えるものでもない。 ]
前に貰ったレーズンパンうまかったからさぁ。 今度はあれ入れて焼いてよ。 向日葵の種。
[ ぜってーうまいから。 窓から顔を出して、調理室の大臣へきまぐれに提案する。 ]
(318) anbito 2018/05/27(Sun) 22時頃
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あ、そだ。 これ、分厚い聖書にでも入れときなさいな。 しおりだから臭くもねーでしょ?
[やがて取り出すのは、乾燥させた花弁が数枚並ぶ一枚の栞。 その薔薇の花は、明るい夕焼け空の色。 ]
またパン焼けたら恵んでなー。
[ 甘くない、悪魔の囁きでもない。 また、と未来を繋ぐ言葉を落として去る。
ひとつ。 ]*
(319) anbito 2018/05/27(Sun) 22時頃
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今日も寝てんのか。
[ あの日から変わらず――変化があったのは多少気付いてはいたが―― 中庭付近に眠るその姿を見つけた。 起こさぬように、一度その横へ座り込み。 一輪、摘んできた花をその髪に添える。
肌を汚さぬよう、そっと。 起こさぬよう、そっと。
髪を彩るのは、薄い春の色。 ]
(320) anbito 2018/05/27(Sun) 22時頃
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――ありがとね。 [ もう、泣いては(>>4:95)いないだろう。 きっとこの花はまだまだ、健気に咲く。 やがて枯れても、種を残す。
いつだかにきっと話して聞かせた(>>31)。 夜明けの色をした、瞳が微笑み。
ふたつ。 ]*
(321) anbito 2018/05/27(Sun) 22時頃
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[ ざく、ざくと土を掘る。 数本を間引き、花も葉も無常に生を刈られる。 それはやはり、花を咲かせるには仕方のないこと(>>2:278)。 ]
今日も見に来たの?
[ ふらりと訪れ、ふらりと居なくなるその人に。 まだ、目を合わせずに零す。 ]
やっぱ間引きはせにゃならんね。 多く咲きすぎるとさ。 木も、しんどいから。
[ ぱつん、と摘んだ蕾は まだ何色に咲くともしれない――緑。 ]
(322) anbito 2018/05/27(Sun) 22時頃
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花は咲いて、香って、やがて枯れて、いつかは散る。 咲くより前に、間引かれることだってある。
でもさあ。
[ 振り向いて、いつも節目がちなその瞳を 東の国の空の色をした、俺の瞳がじっと見て。 ]
あいされれば。 間引かれたって咲くかもね。
[ 朽ちずに咲けた花(おれ)の手が(>>191>>192) 蕾の一輪を、差し出しながら。 ]
(323) anbito 2018/05/27(Sun) 22時頃
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水差しにでもしなよ。 何色に咲くかわからんけど。
水差しなら、枯らさないでしょ?
[ からかうように、眩しく。 ――――笑って。
みっつ。 ]**
(324) anbito 2018/05/27(Sun) 22時半頃
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― MY,DEAR ―
[ やがて花の時は終わる。 季節が巡り、やがて。 ]
(397) anbito 2018/05/28(Mon) 00時頃
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やー、そうね卒業しちゃうもんね。 なんかあんまり実感わかねーや。
[ この寄宿舎から出る日がやって来る。 行く宛などない、身寄りもない。 薔薇に呪われてから、遠くへさえ行くことも出来なかった。 そんな話は過ぎ行く中で、愛しい人と話せたはずだ。
嬉しくて、こわい(>>334>>335)。
そう身を震わせていたあの日から。 何度もこわくないよと、口付け。 何度も俺もこわいけどと、彼を求め。
過去も、今も、俺で塗りつぶしてきた。 ]
(399) anbito 2018/05/28(Mon) 00時頃
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いっちゃん。
いっちゃんさえよければさ。 ちょっと、東の方に行ってみない?
《Honeymoon》――…じゃなくて。
改めての『Please marry me.』なんだけど。
(400) anbito 2018/05/28(Mon) 00時頃
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春に咲くんだけど。 見せたい花があるんだ。
[ だから、未来もと求める――願う――。 ]
(401) anbito 2018/05/28(Mon) 00時頃
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[ もう薔薇の木の下に、悪魔はいない。 小夜啼鳥も、ロジェも。 中庭で花を咲かせる魔術師も。 その横で雑草を抜く男も。
愛しく呼ばれるその名に(>>362)目を細め。 交わす口付けは清らかな、誓い。
そして季節は巡り、やがて。 ]
(402) anbito 2018/05/28(Mon) 00時頃
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――――イアン。
[ 桜の花が咲く場所へ、キミと二人。 ]*
(403) anbito 2018/05/28(Mon) 00時頃
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