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[けれど、心の内では思っていたのだ。
それは違う、と。
自分のことではない――――と。*]
―後の世―
[戦の面影が残る村。ひとりの少女が泣いていた。
大粒の涙を溢すのは朱金の目。
その気味悪さから皆からは蛇の目を意味する「鬼灯≪カガチ≫」と呼ばれ、捨てられたその子は親も知らず、名も知らず。
ただひとつ、己の中にあるのは大切な大切な、名前だけ。]
[ある夏の陽が降り注ぐ上佐川。
そこで佇み川を眺めながら、はらりはらりと涙を流す。]
何処にいるの……『しんしょう』……
[産まれ出でた時より持つ、誰かの名。]
あなたに逢いたいの
また、わたしの名を呼んでちょうだい……
[己すら知らぬ己の名。
それはきっとこの者が持っている、と何故か疑わず。
春の日も、夏の日も、秋の日も、冬の日も。
何処かにいるとも知れぬ名を呼ぶ。]
【人】 鉱滓皇帝 モスキート 泣きたくは、無い筈なのだけれどね。 (113) k0ske 2015/02/20(Fri) 22時頃 |
【人】 鉱滓皇帝 モスキート[雫に寄せられた唇に、久方ぶりに感じる感触に、目を見開けば。 (114) k0ske 2015/02/20(Fri) 22時頃 |
【人】 鉱滓皇帝 モスキート[はたと思い当り寅の姿を探せど、時既に遅く見つからぬ。] (115) k0ske 2015/02/20(Fri) 22時頃 |
【人】 鉱滓皇帝 モスキート[賑々しく宴の準備が進む中、一人姿の見えぬ者がいる。 (119) k0ske 2015/02/20(Fri) 22時半頃 |
【人】 鉱滓皇帝 モスキート[戌はどんな顔をしていたか、見る事もなく傍へと膝付き戌の頭を抱え込み。] (120) k0ske 2015/02/20(Fri) 22時半頃 |
【人】 鉱滓皇帝 モスキート[軽い衝撃に袖の端から覗いてみれば、小さく笑う酉の姿。 (131) k0ske 2015/02/20(Fri) 23時半頃 |
【人】 鉱滓皇帝 モスキート[にこと頬染め笑う酉。微笑ましき姿に小さき息つき苦笑い>>122。] (134) k0ske 2015/02/20(Fri) 23時半頃 |
【人】 鉱滓皇帝 モスキート[酉と酒を酌み交わし、喋りたる所に巳の姿>>125。] (137) k0ske 2015/02/21(Sat) 00時頃 |
【人】 鉱滓皇帝 モスキート 時に螢惑、櫻を見てはいないかい? (139) k0ske 2015/02/21(Sat) 00時頃 |
【人】 鉱滓皇帝 モスキート 私にしたら、皆若い若い。 (144) k0ske 2015/02/21(Sat) 00時半頃 |
[赤き血潮に染まった頃も。あったという。
怨嗟の声が止まぬ夜も。あったという。
お伽噺にするには新しい、昔ばなし。]
………だれ?
[岩陰の、奥から人の声が聴こえた気がして。
少年は足を向ける。]
[血に染まり、怨みに染まる事もあった上佐川。
そうと知っても其処に佇み、飽くることなく泣いたのは、其処にいれば己の持つ名を持った人に、必ず逢えると思ったが故。]
逢いたいわ 逢いたいの……
[何時までも何時までも泣いていると、誰かが此方へ来た気配がして。]
誰なの……? 『しんしょう』……?
[それは、そうであってほしいという、願いにも似ていて。
肩までの長いとも、短いとも言えぬ黒髪を靡かせながら振り返る。]
[振り返ったその少女は。
川面の光を黒髪に受け。まるで光の輪を冠しているかのよう。
初めて聞く声が、初めて聞く名を呼んでいる。
それは誰の名?]
[いや。
己の名だと―――信じることができた。]
なつひ!
[叫んだ。開いた口から飛び出た名前。
駆け寄り、腕の中に抱き締めて頬を擦り合わせた。]
夏日、夏日、なつ……ひ
[手は黒髪を乱す。光を払うかのように。]
[振り返った前にいたのは見知らぬ少年。
駆けてくるその少年が紡ぐ名は、聞き覚えのない、知らぬ名ではあったけれど。
其が己を示す名であることは、すぐにわかって。]
しんしょう……? 辰星なの……?
[尋ねなくとも、己の中で答えは出ていて。
駆け寄り、すりより、されるが侭に髪を乱れれば、今度は嬉しさで目が熱くなる。]
今度はちゃんと、忘れなかったわ
貴方もちゃんと、覚えててくれたのね
[抱き締め、その温もりが本物であると実感すれば安堵し。
やっと逢えたと、鬼灯色の目からまた涙を溢した。]
[巳 火性 陰
その方角を司る神は『おそれ』を表し、凶とされ
司る星も凶星たる星『螢惑星』 別名『火星』
方角も、星も、司りし神も、己が名でさえも
凶事ばかりを示すもの
軈て来る吉事を、深く味わう為に在るもの]
[禍福は糾われる縄の如く、表裏一体を成すもの
何れ程願い、神にすがろうとも、大吉は何れ凶に還る
其は禍とて同じこと
身に振り掛かりし厄は、廻り廻って何れ吉へと還る
――だが、その何れも必要な事に非ず
大事は、禍福は神が決めるに非ずと云うこと
総て己が決めし事、と云うこと]
[己を不幸と思う者よ 己の禍を嘆く者よ
禍凶を知りし時、初めて幸福を知ると思し召せ
禍凶ありてこその幸福だと思し召せ]
[総ての禍福は意味あること
総ての禍も福も、己が決め、定めたと云う事]
[其を胸に刻み、己が手で幸福を*掴み取れ*]
[―――――――幸せだ、
と思えたのは久方振りだった。]
[その瞳は赤橙。
遠くからでも招き、誘う色。
胸焦がす名前を呼べる幸せは喉を震わせる。]
……あぁ、そうだとも。
僕が「辰星」だとも。
[遠い記憶。暗闇のなか。光のなか。
確かな感触、甘やかな香り、心地好い声。
なつひ。
其れ以外の名前など知らないとばかりに、繰り返す。
なつひ。 夏日。
忘れさせるものか。赦さないと――言っただろう?
忘れるものか、忘れるなんて――…
もう一度喪うなんて。
――――嫌だ。
……今度こそ離れず、共に生きていこう。
夏日。
君の全てが―――欲しいんだ。
生きる時間も、何もかも。
もう待たせないで済むように。
[奪わせて欲しい。
独りにしないで――と
請い願う。恋願う。**]
[己が紡ぎし名を肯定せし少年
赦さないという愛しい名を持つ相手に暫し目を見張るが、軈て笑みへと変えて]
そうだったわね 赦さない、と言っていたわ
[嫌だと紡ぐ口に、ふふ、と笑いを溢し。]
いいわ 全てをあげる
あの時叶わなかった、全てを――
[あなたに奪われてあげる。
其は、娘なりのもう二度と離れないという契り。]
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