43 朱隠し
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……溶けてなくなっちまえば、ええものを。
[なぜ、いまになって。
思い出してしまったのだろう。]
溶ける――。
何時か……。
溶けるように消えるのだろう、な。
[ぽつり囁いた。]
お前さんに会いたがっとる奴が居るぞ。
苛められた仕返しがしたいんだと。
……ほんに、相変わらずだの。
[りん――……]
[アヤカシにしか聞えぬ鈴の音が響く。
それは何時もよりも、弱々しく同胞の耳に届くだろうか]
な……んだ……?
[常からは想像もつかぬ弱々しい聲が、
呼びかける聲に返る]
……はあ。
ウト。
お前さん、ちゃんと飯食ったんか?
[やれやれ、と息を吐く。]
ちゃんと喰ってる……。
ただ、少し力を使い過ぎた。
二人も送ったのは、久し振りだからな。
[弱々しいながらも、
その声には憮然とした色が滲む]
張り切りすぎだの。
[ふ、と笑みを零し。]
……そうか。
なら、お前さんは暫く休め。
今宵は――
いや、行く。
――……其処に居るのだろう?
あの泣き虫サダが。
[りーん、と。
近づいてくる鈴の音]
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[――…りん]
(87) 2011/02/18(Fri) 02時頃
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[不意に。 その音は定吉の傍で鳴った。
姿は未だ消した侭、ぽとんと。 雪の塊が定吉の頭めがけて落ちてくる]
(88) 2011/02/18(Fri) 02時頃
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……莫迦。 思い出すのが遅すぎだ、泣き虫サダ。
[叫ぶ定吉を尻目に、 面を付けていないアヤカシは鈴の音を共にふわりと下りる]
相変わらず目の細いのは変わっとらんようじゃの。
[腕を組み、居丈高に赤い眸が睨む]
(91) 2011/02/18(Fri) 02時頃
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アヤカシとは得てしてそう謂うものだ。 じぃもああ見えて、中々の悪だぞ。
[しれっと語るも、 肩を落とすのを見れば、睨めつけるような視線は若干弱まり]
…………それが当然だ。 お前は人の子の世界に戻ったんだ。 アヤカシの里の事等、知らない方が良い。
(94) 2011/02/18(Fri) 02時半頃
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ウトは、定吉の揶揄に、無言で雪玉を投げた。
2011/02/18(Fri) 02時半頃
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思い出さなければ良かったものを。 知らぬままなら、きっとそのまま捨て置いておけた。
だけど、思い出してしまったら……。 もう一度………っ。
[上手く言葉を紡げなくて、途切れてしまう。 握りしめた手は、かたかたと小さく震えて、何かを耐えるように唇を噛んだ]
(96) 2011/02/18(Fri) 02時半頃
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[指を差され、その先をぽかんと見詰めて。
―――…くつくつと。 アヤカシは笑う]
……お前は、本当に莫迦だ。
(99) 2011/02/18(Fri) 03時頃
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また帰りたいと泣いても、もう帰してはやらんぞ? 泣き虫サダ。
[にやりと笑むと、 慶三郎――と、老いた同胞の名前を呼ぶ。 同胞にだけ聞こえる紅き聲で]
(100) 2011/02/18(Fri) 03時頃
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俺の代わりに、この莫迦を連れて行ってやってはくれぬか?
俺は未だ、果たさなければならない約束がある。
一緒には、行けぬ…から。
ああ。
[返す聲は、穏やかに笑む。]
……許より、その心算だったわ。
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俺は山の神だから例外なんだ。
[張り合うように腕を組む。 子供が大人に成る年月を経ても、アヤカシの仕種は変わらない。 むしろ青年が大人になった分、子供っぽく映るかもしれない]
……それでもお前は、 何時までも泣き虫サダだ。
(102) 2011/02/18(Fri) 03時頃
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じぃがお前を導いてくれる。 俺は未だ、行けぬから……先に行って待っていてくれ。
約定を果たしたらすぐに戻るから。 そしたら飛びきり美味い飴を頼むな。
(103) 2011/02/18(Fri) 03時頃
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さびしがり屋は余計だ。
[ぷいっと背を向ける。 其の姿は小さく、幼い子供と変わらぬそれで]
……里に戻ったら、また沢山悪戯してやるからな。 覚えてろよ。
[ぽつり、呟いた]
(106) 2011/02/18(Fri) 03時頃
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[す…と、振り返る。 面のない素顔に浮かぶのは、穏やかな笑み。
自らの紅い眸をちょんちょんと撫でて]
相変わらず笑うと目がなくなるのだな。
(108) 2011/02/18(Fri) 03時頃
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[己の頭を撫でる大きな手。 暴れるでもなく、厭うでもなく。 その手が撫でるままに、アヤカシは大人しく身を寄せた]
……じい、頼んだ。
(109) 2011/02/18(Fri) 03時頃
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いや、変わったよ。
[目じりを持ち上げる相手に、笑って]
……昔ほど、泣かなくなった。 俺より大きくなったし。
おかげで見上げるのに、首が痛くてかなわん。
[だから、と続けて]
さっさと行ってしまえ。 じいが待ちくたびれて、干からびてしまう前にな。
(111) 2011/02/18(Fri) 03時半頃
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……あ痛。
[小突かれた額を押さえ、苦く笑う。 狐の飴は帯に確りと差して]
サダがまた泣き虫に戻らんように、見張っておいてくれ。
[背を向ける定吉にそう揶揄した後、 俺は門を開きに行って来ると告げ、風に消える。
りん――…と、鈴の音を一つ*残して*]
(115) 2011/02/18(Fri) 03時半頃
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楽士 ウトは、メモを貼った。
2011/02/18(Fri) 03時半頃
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