43 朱隠し
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――でないと、若い者達にめぼしい人の子を皆奪われてしまうぞ?
[狐面の上からは表情は視えぬが、
その口調は少しばかりの揶揄が混じる。
どうやらこの老妖が久方ぶりに祭りを行うかどうかに。
アヤカシの興味は尽きぬようで*]
あれを手元におけば、何時でも見られるようになろうか。
……藤の様に、拾うのもありやもしれぬな。
[思いつきに、まんざらでもなさそうにそう呟いた]
[ウトに連れてアヤカシに転じてから幾年、もうどれぐらい昔かわからないけれど]
あの家に一人で住まうのは、些か飽きた。
――今度は飽きないのが欲しいな。
[ウトを真似て自分のように人の子を連れて帰る事はあれど今は一人。
寝ているだけなのも流石に疲れてしまうからと……新しい玩具をねだる子供の様にぽつり漏らす。
其の視線は何処へ向くやら**]
――ああ。
すまんの。
[背を向けられれば、口の端上げて。
遠慮なく、身を預けることにした。]
…………そうじゃの。
[返事は、曖昧。**]
[男は、理由を知らない。
アヤカシの里で、けれど人と同じ歳を重ねる。
自身を人では無いかと疑った事もあった。
けれど、アヤカシたる証拠は確りと其の身が証明している]
[指先1つで踊る、蝶
ひとに触れることの出来ぬ、躯]
[男の血の僅かに人が混じっている。
遠い遠い、隔世。
真実は、ただ、それだけだけれど]
[ ―― 触れたい ―― 、 と 思う ]
[それはきっと、自身の中の人のためだと思っていた]
[男は理由を、知らない]
[アヤカシの里での生活に厭いて、
ふらり出たのは何時の頃か。
住み着いた遠くの山の祠暮らし。
姿を見れる人は居なかったし、
呼びかけても気付く人も居なかったけど。
様々な人々の声を身近に聞く生活は愉しかった。]
ああ、それも――。
[人の理に支配されている世界の刻が移ろうに従い。
参る人も徐々に少なくなっていって。]
[ふと思い起こすのは、
アヤカシの里での暮らし。]
祭の空気は愉しいな。
[祭の季節だけは人と言葉を交し合う事ができる。
自ら人を攫う事は無かったけど。
そして、今――。
この祭の場にいる。]
はじめまして、かな。
オレは暫くアヤカシの里を出ていてね。
久しぶりに来たんだ。
祭の季節だからね。
[祭の季節ゆえ、
境内にふらり寄る人もいるだろうと。
人には聴こえぬ声で囁いて。]
はじめまして、だな。
[聞こえたものに、同じように応える]
成程、里で見たことのないかと思えば。
久しぶりならば、愉しんでいくといい。
俺の名は、華月斎。
そのままいる場所に戻るのならば祭の間だけだろうが、仲良くしよう。宜しく。
[悪意や裏など何も無い。
純粋な感情を向ける]
ああ、よろしくな。
オレは勝丸。
久々の祭だから。
愉しませてもらう心算だよ。
祭はいいもの、だからな。
[山の神を祭る供物なども
勝丸の気を良くさせていて。
屈託の無い笑みを浮かべた。]
よろしく、勝丸。
そうだな……
祭はいいものだ。
[屈託の無い笑みに、嬉しそうに同意する。
アヤカシの里とは異なる祭の空気を深く吸い込んだ]
[祭の空気を吸い込む様を
愉しげに見ながら。]
祭にあわせたかのか十二支の供物を捧げた男もいたんだ。
奥ゆかしいのか謙遜していたけど。
いい出来だったな。
祭を盛り上げてくれている。
[供物台の方へとちらり視線を向けて。]
ああ、俺も見たよ。
とても良い出来だった。
明之進も、謙遜しなくてもいいのになあ。
[ちらりと向かう視線に、供物台に並ぶ十二支と、巳を納めに来た明之進の姿を思い出し微笑んだ]
[勝丸に触れる。
そこにヒトと同じ熱はあったか、あるいは無かったか。
ふ、と笑みを浮かべる]
[同士であると確かめる意味以上に何かに突き動かされた、
触れてみよう、という意識]
[確かめられれば胸に沸く、満足と、空ろな感情]
ふぁーあ。
まだ、眠いや。
[寝ぼけてどこか、うっかり人間を通り過ぎてしまわなければ良いのだが**]
そういや――。
春松は兄が急に居なくなったと言っていたけど。
[子供達と別れた後、
アヤカシの里へと続く蝋燭の火が等間隔に並ぶ道を見て。
連れてゆかれたのなら
己が里を離れていた間の出来事だろう。
春松の兄を知る人はいるのだろう、か。]
聞いてみよう、か。
[早い時刻に見た春松の顔と何時かの顔が重なり。
の事をふと思い起こし。]
…………誰か呼んだ?
[何処かで声が聞こえて返事を返す]
[屋根に腰掛けながめるなかに、アヤカシと彼を探していたひとが話すのを見つけた]
会えたのか、良かったな。
……あの様子では……連れていくのだろうな。あちらに。
[予感を口にし、頬杖をつく。
以前に彼の誘ったひとのこは、その後どうしていたのだったか。
手元にはおいてはいなかったな、と、ぼうやりと思う]
[くつくつと朧には見えぬように肩を揺らす。
このアヤカシは本当に悪趣味で、意地の悪い性格だ。
何人も人間を攫っては泣かせ、途中で飽きて放り投げるばかり。
今度の相手はそうならないと良いなと願いつつキセルを吹かす**]
[ひとによく似たアヤカシである男は、藤之助に捨てられた人の子を助けたこともあっただろうか]
――… 今度は。
[どうなるだろうか、
その答えは誰に問うわけでなく、風に流れていく]
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